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再会! 伝説の勇者


 この世にいないはずの勇者ひとが目の前にいる。

 再会の嬉しさ。

 まさか、という驚き。

 これまで会えなかった寂しさ。

 どうして泣いているのかはルグ本人にも分かりません。


 いいえ、涙の意味など大した問題ではないのです。

 どうして存在しないはずの人物がいるのか、その理由すら些細な事。


 大事なのは、ただ一点。

 ずっと会いたかった人が、今、確かにここにいるという部分だけ。

 それに比べれば、他の何もかもが取るに足らないかのようで――――。








 ◆◆◆







 結局、ルグが泣き止むまでには五分以上もかかりました。

 大声で泣き喚くのではなく無言で涙を流し続けるだけでしたが、事情を知らぬ通行人からはさぞや奇異に見えていたことでしょう。



「ええと、落ち着きました?」


「……あ。はい、すいません。俺、えっと」



 ルグの涙の原因となった人物、勇者リサが落ち着いた頃合を見計らって声をかけるも、しかし彼は何を話していいのか全く分からない様子です。まあ、その心境を思えば無理もないでしょう。



「それにしても、よく一目でわたしが勇者わたしだって分かりましたね? ルグくんと会ったのって、わたしが十代の真ん中くらいの頃ですし、見た目も結構変わってるはずなんですけど」



 言われてみれば、ルグ自身、どうして一目で本人だと確信できたのか不思議でした。

 幼少の彼と会った頃のリサはまだ十代半ば。ちょうど今のルグ達と同じくらいの年頃です。

 それから十数年が経てば当然顔つきや身体つきにも多少の変化はありますし、だからこそ、超が付く有名人の勇者本人が素顔で迷宮都市をウロウロしていても騒ぎになったりはしないのです。精々、そっくりさんだと思われるくらいでしょう。



「いや、なんというか、俺も不思議なんですけど」



 ルグが一見して本人だと直観したのは、恐らくかつて会った際の記憶を鮮明に覚えており、なおかつ心の底の底にまで染み込むほどに想い続けたからこそ。

 表面的な容姿だけではなく、その人物が持つ雰囲気や声音、ちょっとした仕草。そのような、細かすぎて本人にすら自覚のない部分までもがヒントになったのかもしれません。


 まあ、しかし、そこまではいいとして、



「あ、あの……ルグ、くん? シモンさん、と、ライムさん、も……えっと」



 初対面、かつ目の前の女性の正体など知るはずもないルカには、何がなんだかさっぱり分かりません。良い雰囲気に水を差された件に関してはいつも通りの不運だと納得もできますが(幸か不幸か、ルカはそういった割り切りには非常に慣れています)、突然ルグが泣き出して、ようやく泣き止んだかと思えば全く事情の分からない話ばかり。

 こんな時でもルカらしいと言うべきか、蚊帳の外に置かれたからといって怒りを覚えたりすることは無いにせよ、しかし困惑の度合いは決して小さくありません。



「いや、俺にも正直、何がなんだか分からないんだけど……」



 説明をしたいのは山々でしたが、ルグにだって事情なんて何一つ分かりません。今だって、実は夢か幻を見ているんじゃないかと疑っているくらいです。



「うむ。説明は俺達で引き受けよう」


「ん。教える」



 となると、明らかに何か知っていそうな知り合い、シモンやライムに矛先が向くのも当然といえば当然。リサ本人の許諾が取れた以上、もはや隠し事を続ける意味は……何でもかんでも包み隠さずとはいかないかもしれませんが……それほどありません。



「とはいえ、ここで話すわけにもいくまい。場所を移すか」


「ええ、それじゃうちに戻りましょうか」



 内容が内容だけに、このまま広場で大っぴらに話すワケにはいきません。安心して秘密の話ができる場所に移動しようという流れになりました……が、その前に。



「ルカちゃん、ちょっと髪、失礼しますね」


「……え? テントウムシ……?」



 リサが死角になっているはずのルカの背中に手を伸ばすと、髪の毛の中に潜んでいた一匹のテントウムシ、ウルの分身を優しく指で摘んで取り除きました。その上で、後ろを向いて100mほど離れた茶店二階の窓に真っ直ぐ視線を向けて、



「あの子達もお友達ですよね? ウルちゃんとゴゴちゃんと、もう一人の子がシモンくん達が言ってたレンリちゃんかな?」


「「あっ!」」



 ずっと盗み見をしていたレンリ達にニッコリと笑みを向けました。

 レンリは器用に魔力を抑えていましたし、ウル達も迷宮外では能力の大半を封じられる代わりに魔力量も少なくなるのですが、背に感じた視線や僅かな気配だけで正確な位置を特定したようです。


 ルグとルカもその言葉で三人の存在にようやく気付きました。

 当然、先程までのやり取りがずっと見られていたことまで察し、ルカなど恥ずかしさで顔を真っ赤にしています。



「ウルちゃん、聞こえます? そっちの皆を連れてこっちに来てくれるかな?」



 次いで、リサは摘んだままのテントウムシに語りかけ、ウル達に合流するように促しました。これで、あちらの三人にも確実に伝わっているはずです。



「ふふ、お友達を仲間外れにするのは良くないですもんね」


「は、はい……?」



 現状では何もかも分からないことばかり。

 ルカは勿論、リサの正体に気付いたルグにしても、あまりに疑問が多すぎて何から聞けばいいのかも分からないような有様です。離れて見ていたレンリにしても似たようなものでしょう。


 ともあれ、三人の少年少女はこの日この時を境に、望むと望まざるとに関係なく、世界の秘密に近付いていくことになったのです。



◆私事で恐縮なんですが、今回の話を投稿した前日あたりから急に腰が痛くなりまして。

幸い、病院でレントゲン撮ってもらった感じだとそこまで重症ってわけじゃなかったんですが、普通に椅子に座るだけでも痛いので、しばらくの間は更新ペースが遅くなるかもしれません。

楽しみにしてくれてる方には申し訳ないのですが、ご容赦を。

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