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偶然か必然か? 再会、銀の瞳


「やあやあ、皆様ご無沙汰しております。通りすがりのスーパー美少女、毎度お馴染み愉快痛快コスモスちゃんでございます」


 朝市からの帰り道。

 すっかりお腹が膨れて良い気分になったレンリ達に、以前学都を訪れて以来となるコスモスが声をかけてきました、が。



「コスモスさん? いや……よく似てるけど、小さい?」


「妹さん……とか、かな?」



 その外見は、レンリやルカの知るそれよりも随分と縮んでいました。

 外見だけなら非の打ち所が無い長身美女だったコスモスは、今やウルと同じくらいのミニサイズ。人間の成長過程で言うなら十歳くらいの少女姿になっています。


 当然、事情を知らないメンバーは、以前会った彼女と同一人物だとは認識できません。しかし明らかに一行のことを認識していますし、何より自分でコスモスだと名乗っています。そのせいでちょっとした混乱が生まれかけましたが、



「違う。本人」


「うむ、具体的な説明となると俺も詳しくは分からんのだが、ここにいるコイツはそなたらの知るアイツと同一人物で間違いない」



 その疑問に関しては、旧知の仲であるライムとシモンの説明によって解消されました。人間やエルフや魔族とも違う特殊な種族であるコスモスは、魔法的手段によって外見年齢を自在に変化させることができるのです。

 学都に来た際には専用の設備がなかったのでずっと大人姿のままでしたが、彼女の地元である迷宮都市では、まるで服を着替えるような気安さでコロコロと容姿を弄るのが常となっています。



「この格好だと胸が軽くて動き易いのです。いやはや、大きいと肩が凝っていけません」


「…………」



 何気ない呟きでライムが密かに心に傷を負っていましたが、まあ今は置いておきましょう。それにエルフの成長期は長ければ三十歳くらいまでは続きます。まだ希望はあるはずです、多分。

 


「幻覚ってわけでもなさそうだね。本当に姿が変わってるのか」



 ともあれ、説明を受けたレンリ達は一応納得しました。

 以前のコスモスと声は同じですし、それ以上にこんな人格の持ち主が世界に二人以上も存在するとは思えなかった、思いたくなかったからこそかもしれませんが。



「若返りの魔法なんて机上の空論だと思ってたよ」


「まあ、私の場合は体質的にそういった融通が利きやすいのですよ。残念ながら汎用性のある方法ではありませんが」



 若返りの魔法などというのは詐欺の常套句。

 もし仮に万人に効果のある若返りの魔法が実在し、それが世に広く知られたならば、世界中から老人が押し寄せるに違いありません。全財産と引き換えにしてでも若さを買いたいと願う人も少なからずいることでしょう。延命のみならず、美容目的でも大きな注目を集めるのは確実です。

 率直に言うなら胡散臭いホラ話か、良くても御伽噺に出てくるような代物ですが、ここについては受け入れなければ話が進みそうにありません。



「それよりも、だ。通りすがりと言ったが本当か?」



 シモンとしては気になるのはその部分。

 確かに迷宮都市はコスモスの地元ですし、偶然に出くわす可能性もあるにはあるでしょう。しかし、この広大な都市で知り合い同士がたまたま出会う可能性は決して高くないはずです。もし何かしらの意図があるとするなら、それを知らないままでいるリスクは看過できません。



「もしやと思うが、ここで俺達を待ち構えていたということは?」


「いえいえ、今回は本当に偶然ですとも。信じてください、シモンさま! これが嘘吐きの目だとお思いですか!? この私が嘘を吐いたことがありますか!」



 コスモスは、髪色と同じ銀色の瞳でシモンを見つめます。



「いや、お前割とよく嘘を吐くだろう? しかも深い意味もなく、その場のノリで」


「ええ、まあそうなのですが」



 シモンは素直に思ったことを言いました。

 コスモス自身も素直に認めています。



「しかし、頭から信じてもらえないというのは寂しい気分になりますね。これが狼少年ならぬ狼少女。ああでも、そういう風に言うとケモノ耳を付けたワイルド系少女のようで私の新たな魅力が引き出されてしまいそうな気も」


「ええい、話を逸らすな。とにかく、ここで会ったのは本当に偶然なのだな?」


「はい、モチのロンです。もし皆様がいると知っていたなら、もっと手の込んだネタなり演出なりを仕込んでおりましたとも。ほら、会った時にBGMも流れなければ爆竹の一つも鳴らなかったでしょう?」


「ううむ、説得力があるのが嫌だ……」



 もし最初からこの場で再会すると分かっていたら、絶対に何かやらかしていたはず。それが無いということは、逆説的にこの出会いは偶然である。

 コスモス以外には通じそうもない理屈ですが、付き合いの長いシモンとしては強い説得力を感じてしまいます。どうやら、今日この場での再会は本当に偶然だったようです。



「まあ、なんだ。疑ってすまなかったな、コスモス」


「いえいえ、お気になさらず。皆様がいると分かった以上、どうせ近いうちに何かするとは思いますので、結局は遅いか早いかの違いだけですし」


「謝って損した!」



 コスモスと再会してからまだほんの数分しか経っていませんが、シモンのツッコミも見る見る間に切れ味を取り戻していくかのようです。本人は全く嬉しそうではありませんが。








「ところで、シモンさまとライムさまは帰省として、他の皆様はわざわざ何をしに迷宮都市までいらしたので? 夜逃げですか?」


 と、ここでコスモスが他の皆に話を振りました。

 別に隠すような理由でもないので、レンリが代表して答えます。


 

「そんなわけないだろう、ただの観光だよ。シモンさんが休暇明け前にこっちに顔を出して、そのついでに案内をしてくれるっていうんでね」



 ここで正直に答えてしまったのは、あるいは迂闊だったのかもしれません。

 いえ、答えたレンリ自身にとっては直接関係のある問題ではありませんし、どうせ遅かれ早かれ同じようなことにはなっていたのでしょうけれども。



「観光案内なら私もお力になれるかと。ええ、どうせヒマなので。シモンさまやライムさまは最近出来た場所はご存知ないでしょうし」


「まあ別に断る理由もない、かな? 何かオススメの場所とかあるかい」


「ええ、色々と。例えば、世界中の呪物を集めたせいで建物が呪いでドス黒くなっている博物館とか、郊外にある魔物専門牧場とか面白いですよ。そうそう、最近だと縁結びのご利益があるとかいう噴水なんかもありましたね。水の勢いが強すぎて周りがいつも滝壺みたいになっているのです」


「縁結び……です、か?」



 この時、ルカが「縁結び」という言葉に反応してしまったのは、恋する乙女としては無理からぬことでしょう。同時に、ついルグのほうに視線を向けてしまったことも。ここ最近はもう恋心を隠そうという意識も意味合いも薄れていましたし、油断もあったのでしょう。


 そして、そんな気配を見逃すコスモスではありません。小さな身体の小回りを活かして、すかさずルカの後ろに回り込み、他の皆と挟み込むような形で逃げ道を塞ぎました。



「おや? おやおや? ほほう、ルカさまは縁結びに興味がお有りで?」


「あっ……ええと……その」



 容姿は変わっても面白そうな物事への嗅覚は相変わらず。

 髪色と同じ銀の瞳が、新しい獲物を見つけた肉食獣のように輝いていました。



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