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ある夜の一幕


「……というわけで、連れてきたのだが」


 もう日が落ちてからだいぶ経った夜遅く。

 夜更かしをする習慣のないルカが部屋に戻って床に就こうかと思った頃に、すっかり酔っ払ったシモンがぐったりしたルグを連れて帰ってきました。胃の中の物を吐き出して少しはマシになったようですが、慣れないお酒のダメージはまだまだ色濃く残っています。



「うむ、なんというか、済まぬ。気まずいだろうが、一人で帰らせるわけにもいかなくてな」


「あ、いえ……それは、いいんです……けど」



 たしかにルカとしては幾分の戸惑いもありますが、具合を悪くしたルグを一人で置いてきたなどと言われたらそれこそ困ります。既に食事や入浴を終えており、あまり可愛くないパジャマを着ていたことなどについて多少の気がかりはありましたが、まあ、ルカ側の都合については許容範囲です。



「あの……こ、こんばんは。だ、大丈夫……?」


「……あんまり大丈夫じゃない」


「えと……お水、持ってくる、ね」


「悪い、助かる……」



 ルカ自身には日常的な飲酒の習慣はありませんが、兄のラックは普段からよく飲み歩いては二日酔いに苦しんでいますし、今は亡き父親も似たような具合でした。こういう時にはとにかく水をガブガブ飲ませるに限ります。



「お姉ちゃん……お水、もらうね」


「ん、どうしたの? シモンが帰ってきた……って、あら」


「ありゃ、こんな時間に珍しいお客さんだねぇ」



 もう夜遅いので弟のレイルと居候のタイムは眠っていましたが、キッチンには翌朝の食事の仕込みをしていたリンと、余った食材をつまみ食いしながら晩酌をしていたラックが残っていました。



「やあやあ、少年、久しぶり。調子はどうだい?」


「なんだか死にそうな顔してるわね?」


「……見ての通り最悪だよ」



 ルカの家族とルグの関係は、出会った当初の形からすれば驚くべきことに、そう悪いものではありません。特別仲良しというほどではなくとも、少なくとも当たり障りのない日常会話ができる程度には。その辺りは互いにさっぱりしたものです。


 しかし、今はルグのコンディションが最悪でした。

 どうしても受け答えにトゲが出てしまうのは、仕方のないことでありましょう。



「ねぇ、ルカがアンタに告ったって本当? レイルに聞いただけだと、その辺の細かい事情が分からないのよね。ルカは恥ずかしがって教えてくれないし」


「お、お姉ちゃん……っ」


「ははっ! いやぁ、ルカもいつの間にかお年頃になってたんだねぇ」


「お兄ちゃんも……も、もう……っ」



 現在のルグは、この一家からすると気になる存在です。

 厳密には偶然が重なって伝わってしまっただけで告白というわけではないのですが、大まかな事情は先日同席していたレイルを通じて伝わっていました。ルカの想いが実るかどうかは家族である彼らにも深く関わる話ですし、興味本位の野次馬根性も少なからずあるにせよ、機会があればあれこれと尋ねてみたくなるのは無理のないことでしょう。



「気持ちは分からんでもないが、そういうのは後にしてやってくれ。いや、俺が偉そうに言える立場ではなかろうが」



 と、ここでシモンが助け舟を出しました。

 ルグが自分の意思で飲んだとはいえ、そもそもお酒に興味が向くような話をしたり、居酒屋に誘ったのもシモンです。弱っているところに追い討ちを受けようとしているのを黙って見過ごすことはできません。



「とりあえず、ルグは水を飲んで横になるといい。一晩眠れば幾らかマシにはなるだろう」


「それじゃ、アタシは毛布出してくるわ。ルカ、運ぶの手伝って」


「うん……ちょっと、待っててね」



 普段は住人の数に対して広すぎる、持て余し気味の屋敷ですが、おかげでこういう不意の来客に際して部屋が足りずに困る心配は無用です。

 空いている客間の一つに毛布やらシーツやらを運び込めば、一夜の寝床としては十分でしょう。むしろ、安アパート住まいのルグにとっては普段より上等な環境かもしれません。ルグが水を飲んでいる間にテキパキと寝室の支度が整えられました。








「じゃ、じゃあ……何か、用事があったら、呼んでね」


「もう遅いのに、わざわざありがとな」


「ふふ……どう、いたしまして…………あの、ルグくん。あ、あのね」


「ん、どうしたんだ?」



 そうしてルカに案内された部屋のベッドで彼が横になり、一人になる間際。

 二人きりになった僅かな時間に、



「あの、わたし……がんばる、からっ」


「頑張るって、何を?」


「ちゃんと、その……好き……に、なってもらえるように…………あ、ご、ごめんね!? 具合悪いのに……突然、こんなこと……えっと、おやすみなさいっ」



 ルカはこんな風に意気込みを語ると、返事も聞かずに逃げるように出ていってしまいました。もっとも、ルグも驚いてマトモな返事ができたかは怪しいものです。彼がようやく口を開いたのは一人になってから何分も経ってから。



「……ったく、頑張らないといけないのは俺のほうだっての」



 見慣れぬ天井を眺めながらの呟きは、誰にも聞こえることなく夜闇に溶けて消えました。









◆◆◆◆◆◆


《おまけ》


挿絵(By みてみん)



おまけ画像はツイッターでの宣伝用に作ったやつです。

他のキャラのも作るかどうかはまだ未定。

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