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流行と勝負好きな人々


 腕相撲にすっかりハマってしまった学都のマッチョ達。

 以前の大一番では惜しくもライムに敗れたものの、ルカは最高レベルの実力者として知らず知らずの間に彼ら彼女らからの注目を集めていました。心底不本意ながら、王者に次ぐランキング第一位の座についていたらしいのです。



「さあ、いざ尋常に勝負!」


「おっと、俺が先だ!」


「あの、今は……買い物が……」



 別の用事があると言っても、ただでさえ声が小さい上にマッチョ達がうるさくて聞き入れてもらえません。彼らとしてはただ純粋に力比べがしたいだけなのですが、見様によってはおとなしそうな少女が厳つい連中に絡まれているかのようで(「いるかのよう」ではなくそのものズバリかもしれませんが)、なんとも犯罪的な絵面です。このままでは勘違いした市民が騎士団に通報するのも時間の問題でしょう。




「ほらほら、並んだ並んだ」


『ルカお姉さんと勝負したい人はこっちで一列になるのよ』



 しかし、そこで通りかかったレンリとウルが助け舟を出しました。



「このままでは彼らも収まりがつかないだろうし、軽く相手をしてやりたまえ。それが一番早そうだしさ」


「う、うん……」



 ルカとしても、どうしても腕相撲をしたくないというわけではないのです。

 困っていたのは、知らない大勢に囲まれて久々に人見知りの気質が出てしまったから。

 今は現れたレンリの後ろに身を縮こまらせて隠れていますが、一人ではなく知り合いが一緒にいてくれるだけで多少は落ち着いていられます。



「諸君らも、大きな声を出したらルカ君が怖がるだろう? 尋常な勝負を挑みたいというのなら、それなりの礼節は弁え給え」


「お、おう、すまなかった」


「悪かった。ごめんなさい」


「い、いえ……お気に、なさらず」



 マッチョ達もレンリに諭されて反省したようです。

 彼らも根は善良なのでしょう。

 ただ、強い者と見れば挑まずにはいられないだけであって。


 

「ところで、ルカ君は何を買いに来たんだい?」


「あ、えと……明日の分の、パンを」


「なるほど。それじゃあ勝負を挑んで負けた人は、ルカ君の代わりにパン屋までお遣いに行ってきたまえ。罰ゲームってことで」


「おう、いいぜ!」


「クク、面白い!」


「最高のパンをお届けしてやるぜ!」



 買い物についても条件を付け足すことで見事解決。

 元々、腕相撲の結果に飲み食いの代金を賭けたりは普段からしていたので、挑戦者達にも異存はありません。むしろ、何かしら賭けたほうがより燃えるというものです。



「い、いいの……かな?」


『何も問題はないの』


「十……十五……全部で二十人くらいかな。さ、後がつかえてるから早速始めようか」



 そうして、ルカと挑戦者達との熱い戦いが幕を開けました。


 ――――中略。


 こうして、ルカと挑戦者達との熱い戦いが幕を閉じました。

 勝負開始から三十分ほど後。



「い、いいの……かな?」


「何も問題はないの。ほら、このジャムパン美味しいのよ」


「ルカ君が持ち帰れないというなら、私達が責任持って引き取るから安心したまえ」



 全ての挑戦者を下したルカの目の前には、ちょっとしたパンの山が出来ていました。

 一人あたりどれだけ買ってくるか、そしてどんな種類のパンを買ってくるか指定するのを忘れていた為に、近隣数軒のパン屋の在庫をありったけ集めてきたような具合です。


 気を利かせたマッチョの一人が、冒険者ギルドから大テーブルをいくつか借りてきたので今はその上に乗せていますが、とても持ち帰れる量でもなければ食べきれる量でもありません。重さは大したことなくとも、単純に手の数が足りません。このままこの場で露天のパン屋が開けそうです。



「ええと……じゃあ、わたしは、必要なだけ持って帰る、ので……余った分は、皆さんで、どうぞ」



 まあ、予定とはだいぶ違った形になってしまいましたが、当初の目的であるお遣いはこれで果たせます。ルカは自宅から持ってきた買い物袋に入るだけのパンを詰め込むと、残りはレンリとウル、そしてマッチョ達や通行人に委ねて屋敷の方向に立ち去って行きました。







 ◆◆◆








『人助けをすると気分が良いの』


「パンも美味しいしね……おや?」


 レンリとウルが、勝負の仕切りをしているうちに仲良くなったマッチョ達とパンを食べていると、



「失礼。大食いチャンピオンのレンリ殿とお見受けいたす」


「おお、彼女があの伝説の!」



 先程まで盛り上がっていたのとは別の集団が声をかけてきました。体格が良いのは同じですが、腕相撲集団が筋骨隆々のマッチョばかりだったのに比べると、全体的に太めというか丸っこい印象の人々です。

 レンリ自身も今まで忘れかけていましたが、昨年末の余興では大食い大会もあったのでその時のことを指してチャンピオンと呼んでいるのでしょう。



「ご存知かな? 今、学都は空前の大食いブーム」


「いや、知らないけど。そうなの?」


「その発端にして頂点たる貴女とお会いできるとは光栄の至り……ッ!」


「おい、こっちの話を聞きたまえ」



 リーダー格の言によると、最近学都では大食い勝負が流行っているのだとか。

 料理店が新名物として並外れた大盛り料理をメニューに載せたり、どっちが多く食べられるか競って負けたほうが二人分の払いを持ったり。まあ、腕相撲とは別ベクトルの流行があること自体は、おかしいとまでは言えませんが、



「それで、結局私に何の用だい?」


「大飯喰らい同士がこうして顔を合わせた以上、やることは一つ。勝負でしょう」


『いやいや、その理屈はおかしいのよ?』



 つい先程も似たような展開があったばかりですが、どうやら彼らはレンリに大食い勝負を挑みたいようです。ウルが律儀にツッコミを入れていますが、人の話を聞かない部分まで一緒でした。


 ただし、さっきとの違いが一点。


 

「ふっ、いいだろう。何人でもまとめてかかってきたまえ!」



 挑戦を受ける側のレンリが非常に好戦的……いえ、単に食い意地が張っているだけなのですが、挑まれてから勝負に移行するまでの流れが非常にスムーズ。幸い、食べる物なら目の前に山ほどあります。既に結構な量を食べているはずのレンリも、全く臆することなく真正面から迎え撃つ気になっているようです。 





『……本当に流行ってるのって、このよく分からないノリなんじゃないかしら?』


 鋭く本質を突いたウルの呟きは、勝負を見守る観衆の歓声にかき消されて誰の耳にも届くことはありませんでした。



◆大食い勝負編に続きそうな終わり方ですが続きません。大食い勝負での世界征服を企む裏大食い界という昔のグルメ漫画かコロコ●コミックの販促漫画みたいな設定を一瞬思いつきかけたけど途中で正気に戻ったのでやりません。「だいじょうぶだ……おれはしょうきにもどった!」

◆風の噂によると、一本二本のレビューがきっかけでそれまでの何十倍も読まれるようになる事もあるそうな。もっと沢山の人に読んでもらいたい気持ちは常にあるので、誰か親切な人がレビューを書いて下さらんものかのぅ。

レストランの時に二本貰ったけど、うち一本はいつの間にか消えてたんですよね。ちゃんと保存しとけばよかったと後悔した記憶が。

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