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恋の包囲戦と大事な秘密


 つくづくウソや隠し事に向いていない。

 今更ではありますが、ルカは自分の性分を改めて思い知りました。むしろ、隠そうとすればするほど逆に強調するも同然。動揺が更なる動揺を生み、際限なくボロが出てしまいます。

 今よりも距離感が遠かったおかげもありますが、思い返してみればよく知り合って間もない頃のレンリやルグに列車強盗の件を隠し通せていたものです。


 

「なんと」


「ん。びっくり」



 流石に、これだけはっきりと言われたら、いくら恋愛分野に鈍いシモンでも事情を理解できます。今件に関しては気付いていなかったライムも同様に、無表情で淡々と驚いていました。



「ううむ、そうであったか。まったく気付かなかった」



 シモンがこれほどまでに特定分野に鈍くなってしまった理由は、幼少期に手痛い失恋を経験し、その前後で酷いトラウマを負ったがゆえ。彼が演劇を苦手としているのも、元々はといえばその失恋が原因なのですが、まあそれについては既に別の場所で語られた話です。今はルカと、そして相手のルグについて話を戻しましょう。



「うぅ……は、恥ずかしい、です」


「俺も。なんていうか、照れ臭い」



 昨日、列車の中でバレた時ほどではないにせよ、二人とも少なからず照れがあるようです。

 この場合、ルグまで恥ずかしがる必要はないのかもしれませんが、年頃の少年が近しい相手から好意を向けられて平然としていろというのも土台無理な話。

 それに、まだ付き合うとも付き合わないとも言っていませんが、こうして情報が更に広く共有されたことで周囲からの無言のプレッシャーが倍増したかのように感じられてしまいます。このまま無為に返答を引き伸ばす気は元よりないにせよ、答えを急かされているような気分になるのも仕方がないことでしょう。



「がんばって。応援する」


「あ、ありがとう……ござい、ます」



 新たに話を聞いた面々の中でも、特にライムはルカに対して好意的です。

 自分の境遇と重ね合わせているのか、形はどうあれ想いを伝えることのできた先達への尊敬、あるいは羨望か。ある意味では、ルカとライムは似たような問題を抱える戦友同士みたいなものかもしれません。

 もっとも、アクシデントで秘密がバレてしまったルカのような隙の多さは、良くも悪くもライムにはありません。タイプが違いすぎて参考にはならないでしょう。

 生来の口数の少なさと無表情も手伝って、シモン本人は当然として学都の友人達にも隠している気持ちを悟られずに済んでいるとも言えますが、隙が無さ過ぎるのも考え物。

 これが格闘技ならばあえてガードを下げて誘いをかけ、相手が打ち込んできた隙にカウンターを見舞う戦術も取れますが、多少ガードを緩めたくらいでシモンが反応するならこんなにも苦労していません。


 まあ、それはさておき。



「ルカ君の場合、少なくとも『恋敵』に負ける心配はないんだし、私達という頼もしい援軍もいるし、じっくり腰を据えて攻めていけば勝算は十分あるはずだよ。楽勝さ」


「あー……その、そういうのは普通、俺のいない場所で言うものじゃないか?」


『それこそ今更なのよ?』


『こうして事あるごとにプレッシャーをかけるのも策の内ということですよ』



 ルグとしては四面楚歌の状況。いいえ、別に彼の敵ではないのですが、ルカの味方はどんどん増える一方。これも人徳というものでしょうか。これでは事実上の包囲戦です。殲滅戦に移行するのも時間の問題かもしれません。単に面白がっているだけの部分も多々あるにせよ、こうした頭数の差というのは恋愛でも戦いでも馬鹿にできません。

 ルカ本人に器用な駆け引きが出来ずとも、このままではレンリやゴゴの話術で決定的な言質を取られかねない。そうでなくとも、勢いで押し切られかねません。

 じっくり落ち着いて真剣に考えたいルグにとっては、そういう展開は本意ではなく、出来れば流れを変えたい場面でしたが、



「恋敵?」


「ふむ、他の誰かがそなたらの話に関係しているということか?」



 彼にとっては運良く、かどうかはさておき、ライムとシモンが先程のレンリの発言に興味を示してくれました。


 しかし、ルグとしても件の人物への憧れがあるのは間違いないにせよ、恋愛対象として意識しているかは分かりません。

 昨日の時点ではそこまで思い至っていませんでしたが、よくよく考えると「誰もが知る有名人に本気で恋をしているかもしれない」なんて大真面目に語るなど、傍からはかなり自意識過剰の恥ずかしいヤツに見えるのではないだろうか?

 ましてや、この世にいない人物とすぐ近くにいる女子を比べるなど、いったい何様のつもりなのか。断るための口実を無理に捻り出したのだと思われても仕方が無い……なんて、ルグはあれこれと悪い方向に考えてしまいます。実際には、ルカは傷付いたり気にするどころか、彼が好きだという人物の正体を知って安心したくらいなのですけれど。



「……勇者?」


「そ、そうか。まあ、面識があるならそういう事もあり得るか……」



 好意の意味合いについては本人も整理しきれていないので一旦置いておくとして、ルグが憧れる女性の名を聞いたライムとシモンは驚きました。そして、それ以上に困りました。



「やっぱり、真面目にこんなこと言うのって変ですかね?」


「いや、悪いとは思わぬが……」


「むぅ」



 ルグには知る由もありませんが、シモンとライムはとても困ってしまいました。

 易々と秘密を漏らすわけにもいきません。

 ですが、その秘密の一端でも明かせば、現在ルグが抱える悩みを解決する大きな一助となるでしょう。天地が引っくり返るようなショック療法にもなりそうですが。


 とはいえ、いくら友人として手助けをしたい気持ちがあろうとも、



「……ううむ、どうしたものか」



 いずれにせよ、独断で勝手に話していい内容ではないのです。

 迂闊に漏らせば、取り返しのつかない人間社会全体の大混乱に繋がりかねません。

 秘密を共有しているウルやゴゴも、この件に関しては沈黙を守っています。今件には直接関係ありませんが、迷宮の他の守護者達も同様でしょう。








 ◆◆◆







 ですが、世の中の大抵の問題には抜け道があるものです。



『ふむ、ちょっとお耳を拝借』


「む、なんだ?」


「なに?」



 ルグやレンリ達がお茶のおかわりを淹れに行ったり、手洗いで席を立ったりして抜けたタイミングで、シモン達の様子を見ていたゴゴが全てが丸く収まるアイデアを伝えました。



『要するに、我々の独断でなければいいのでは? ほら、どうせもうすぐ迷宮都市には行くんですし、そのついでにご本人に許可を頂く形で』



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