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腹が減っては戦はできぬ


 そして翌朝。

 日が完全に顔を出してしばらく経った頃。一等客室の扉を出た通路にて、ルカとルグはようやく、ほとんど一日ぶりに顔を合わせました。



「あの……お、おはようっ」


「あ、ああ、おはよう!」



 時間が経って多少落ち着きはしたものの、案の定、まだまだ二人とも緊張している様子。



「あー……その、そうだ。体調はもういいのか?」


「う、うん……たくさん寝たから。えと……心配してくれて、ありがとう」


「いや、俺のせいみたいなものでもあるし。それで、ええと……」



 昨日の昼から夜まで、そして明け方頃からついさっきまで眠っていたおかげで、ルカの体調は完全に回復していました。鼻血を出して少しばかり貧血気味になっていたとはいえ、精神面に比べたら肉体的な消耗など大したものでもありません。

 むしろ消耗云々を語るなら、ルグのほうこそ睡眠不足で疲労が抜けていないようです。

 普段は日の出と共に自然と目覚めるほどに早起きが身に付いている彼も、今朝はつい先程起きたばかり。よく見れば目も充血して赤くなっていますし、せっかくの一人部屋だというのに悩むあまりにほとんど眠れなかったのでしょう。



「えっと……あ、今日もいい天気だな!」


「う、うん……晴れて、よかったねっ」



 つい昨日までとは比べ物にならないほど、不自然でぎこちない会話になってしまいます。



「ああ、ええと……景色もよく見えるし!」


「洗濯物も……よく乾く、よねっ」


「そ、そうだな、俺も帰ったら洗濯しないとな!」


「うん……晴れてる、からっ」


「そうそう、天気がいいもんな!」



 お互いに平静を装ってはいますが、距離感を測りかねているのは誰がどう見ても明らか。妙に語調が強いのは、照れ隠しで変な風に気合が乗ってしまっているせいでしょうか。


 しかし、このままでは列車が学都に着くまで延々と天気の話を続けかねません。

 


「はいはい、二人ともストップ。いや、このまま眺めているのもそれはそれで面白そうだけど、私はお腹が空いているのだよ」



 流石に見かねたレンリが二人の間に入って、強引に不毛な会話を打ち切りました。

 もし食事の後であったのなら、このまま彼らのやり取りを眺めて楽しむのも一興ではありますが、流石に朝食抜きと引き換えにするほどではありません。



『みんなで朝ご飯を食べにいくのよ』


『この時間からだと少し待ちそうですし、ちょうど食べ終えたあたりで到着ですかね』



 A国王都から学都までの所要時間はちょうど丸一日。

 昨日の午前に出発した列車は、もう二時間もしないうちに目的地に到着するはずです。普通のレストランと違って、鉄道の食堂車は到着間近になるとその時点で営業を切り上げてしまいますし、他の乗客で席が埋まっているなら待ち時間も計算に入れねばなりません。



「というワケなのだよ。続きは食べながらでもいいだろうさ」


『うんうん。腹が減っては戦はできないのよ?』


「こ、こういうのって、いくさ……なの、かな?」


「さ、さあ? 俺も分からないけど」



 悩みは尽きねど、お腹は空きます。

 腹が減っては戦はできぬ。同じ悩むにしても、どうせならきちんと栄養を摂ってからのほうが気力も湧くし、頭も回るというものです。


 ルカとルグは、他の三人に引っ張られるような形で食堂車へと連行されていきました。

 

 今朝の朝食メニューは『カリカリベーコンを添えたパンケーキ』か『バターたっぷりのふわふわオムレツとトースト』の二種類。どちらにも野菜サラダとデザートの果物が付いてきます。

 レンリは当たり前のように両方を“とりあえず前菜として”三人前ずつ注文し、それには及ばないまでも何だかんだで人並み以上に食欲旺盛な他の面々も両方を一人前ずつ頼みました。



『あ、学都が見えてきたの!』



 そして全員が運ばれた料理を綺麗に平らげ、食後のお茶を楽しむ頃には、列車は学都の東を流れる大河の中程にまでさしかかっていました。橋にかかる長大な鉄橋を越えると、もうそこは懐かしの学都です。



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