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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
五章『奇々怪々怪奇紀行』
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シモンとライムの冬休み⑧


 ――――そして、大会は終わりました。



「……というわけで、優勝者のガルド選手からコメントを頂いてみましょう」


「おう、なかなか楽しかった。お前ら、いつでもリベンジ待ってるぜ!」



 閉会式の壇上で司会者のインタビューを受けるガルドもご機嫌です。

 数年は遊んで暮らせるであろう高額の優勝賞金や、高級武具なども含む豪華な賞品の数々……には然程興味もないのですが、この閉会式が終わったら出場者を集めての打ち上げパーティーが待っています。

 普段はいくらお金を積んでも食べられない宮廷秘伝の料理やデザートが食べ放題と聞いて、ガルド以外の面々も楽しみにしていました。






「完敗だな」


「……ん」


「世の中、上には上がいるものだ。元より知っていたつもりではあったが、今回はそれが骨身に染みた」


 最後、ガルドの奥義に対し、シモンも未完成の奥義で抗しようとしましたが……練習で成功したことのない技が、本番でいきなり上手くいくはずもありません。

 狙った効果の出なかった技は頭部に当たったものの威力を完全に受け流されて、逆にその勢いを乗せた回し蹴りで残った四人全員が吹き飛ばされて勝負あり。文句のつけようのない完全決着でした。


 十中八九は失敗すると思っていた賭けが、ただ順当に外れただけ。

 ましてや疲れ切ったフラフラの状態で、相手は遥か格上の実力者。

 予想通り、当たり前の結果になっただけの話です。

 窮地において秘めた力が覚醒するとか、追い詰められて限界以上の能力を発揮するだとか、この広い世の中にはそんな奇跡のような出来事も稀にはあるのかもしれませんが、今回はそうではなかったということなのでしょう。



「俺達もまだまだ修行が足りんな」


「でも、次は勝つ」


「うむ。あれをモノに出来れば勝機はある。次の機会までには……」 



 大会が終わってから「もしも」を問うことに大した意味はありませんが、それでも、もし仮に第三奥義に成功していたら、あの劣勢からの逆転も十分にあり得たはずでした。

 シモンが己の師匠、勇者を超える為の技。

 なにしろ、当の師匠本人から「これが出来れば自分にも勝てる」とのお墨付きで教わったのです。成功していればガルドの無敵の奥義を打破することも出来たはずですが……まあ、今さら言っても仕方がありません。その第三奥義については、これまでに引き続き今後の課題とすることになりました。





 ◆◆◆





 『流転法(るてんほう)』。

 それが、まだ名無しだったガルドの奥義に付けられた名でした。



「へえ、シンプルだけど格好いいじゃねぇか。やるな、嬢ちゃん!」


「ん。自信作」



 命名したライムも自信有り気です。


 奥義全体の総称としての呼び名が『流転法』。

 技を守りに使用する際は『流水』。

 受け流した力を攻撃に転用する際は『流星』。

 将来的には奥義の更なる発展形や応用形、より細かな区分も出来るかもしれませんが、ひとまず現時点ではそのように命名されました。

 

 力の「流れ」を支配するという性質に由来したシンプルな名付けですが、その場の面々が出した他の案――たとえば『ガルド・スペシャル』や『デストロイ☆スイーツ』などよりは遥かにマシと言えましょう。真面目な戦闘中にそんな技名を口に出されたら緊張感がなくなってしまいます。ボツ案を出した者達は会心のネーミングだと思っていたらしく、採用されなかったことを本気で悔しがっていましたが。




 現在、王宮の敷地内にある広大な庭園にテーブルと料理が並べられ、千人以上もいた出場者達は美食によって疲れた身体を癒していました。



「ヒヒヒヒヒーッ! 美味ぇ!」


「美味いうまい美味いウマイかゆい、うま……」


「この赤い血がよぉ、血の滴るレアの肉がたまんねぇぜ!」



 やけに個性的な面々ばかりなのは相変わらずですが、運動をしてお腹が空いたせいか、それとも全力でぶつかり合って相互理解を深めたおかげか、実に平和的で和やかな雰囲気です。

 骨折等の重傷を負った者達も、宮廷魔術師の治癒魔法で既に自力で歩けるくらいには回復しており、今は食事や会話を楽しんでいました。



 そんな会場内の一角で、ガルドの奥義についての話もされていたのですが。



「こんな感じで力を抜いて、そんで自分と周りの力の流れを感じ取ってだな」


「こう?」


「あ~、ちょっと違うな。もうちょい重心をグイッとやってからガーッとやる感じで」


「むぅ、難しい……」



 皆で奥義に格好いい名前を付ける話題が一段落すると、今度は何故だか希望する者にガルドが『流転法』を教えるという話の流れになっていました。無論、教えられたからといって簡単にできるようなものではないのですが。そもそもそれ以前に……、



「ガルド殿、本当にいいのだろうか? 人前で使った俺が言うのもなんだが、奥義というのはなるべく秘密にするものなのではないか」



 流派の奥義や秘技に類する特別な技術というのは、基本的に秘匿されるもの。

 たとえ無敵に見える技であっても、衆目に晒せば研究されて対策を練られたり、盗まれて真似られることにもなりかねないからです。


 法整備の進んだ昨今では流石にそれほどの事例は滅多にないにせよ、古い時代の武芸者は、たまたま技を目撃しただけの無関係の通行人の口封じをするような苛烈な対策を取ることすらありました。

 現代においてすら弟子であっても全員に教えるようなことはせず、極一部の信頼の置ける高弟だけに伝えたり、血縁者だけへの一子相伝とする場合も決して少なくはありません。



 余程の実力差がない限りは、初見で強力な技を破るのは困難。

 技の性質にもよりますが、奥義とは厳重に秘されているからこその奥義である、という側面もあるのです。



「なに、構いやしねぇよ。俺がいいって言ってるんだし、誰が困るってもんでもないだろうさ」


「……それもそうか。うむ、では、ありがたく」



 ですが、ガルドは持ち前の気前の良さと大雑把さ、今は機嫌の良さも手伝って、そのような部分には全く頓着していないようです。ならば、外野がそれ以上気にするのはお節介というものでしょう。それに何より、あれほど強力で有用な技の教えを受けられるチャンスなんて滅多にありません。

 シモンやライム、アラン達や、初対面の武芸者や軍人達も、飲み食いしながらガルドの教えを拝聴することになりました。


 こんな大会に出てくるくらいだから言うまでもありませんが、この場にいる皆は一人残らず、もっと強くなりたいという気持ちを抱いています。年齢も、種族も、性別も、身分も、他のどんな部分が違っていても、その純粋な想いだけは一緒です。

 ついさっきまで本気で殴り合いや斬り合いをしていたのにすぐ仲良くしていられるのは、そういう部分に対する共感や仲間意識を感じ取っているからなのかもしれません。



「おっし! お前ら、食い終わったら早速修行を始めるぞ!」


「「「おおっ!」」」



 もっとも、それは世間一般の人々には理解されがたい、とてもとても特殊で不可思議な価値観なのでしょうけれど。







◆◆◆◆◆◆






《おまけ》


挿絵(By みてみん)



またアニメの新しいの作ってみました。

リンク先からご覧になってください。そして褒めて~


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