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講習の終わりとレンリの頼み事


「うふふ、『死力を尽くす』とか『命懸けで頑張る』なんてよく言いますけど、実際にやってみた感想はいかがですか?」


 最初の出発地点すぐ近くの草地で、消耗しきった受講者達は地面に腰を下ろしたままイマ隊長の言葉を聞いていました。過呼吸を起こしていたり極度の疲労で失神したりした者も、最低限の治療だけ施して、かろうじて話を聞ける状態にはしてあります。

 先程のゴーレムが仕込みだったと聞いて色々言いたいことはあったのですが、まさしく死に物狂いで駆けた後だったので、文句を付ける元気も残っていなかったのです。



「騙すような形になったのは悪いですけど、ほら、あらかじめネタをばらしちゃったら気が緩んじゃいますし?」



 ゴーレムを操っていたという軍の魔法兵達も、すでに姿を現していました。

 先程は崖の上の死角に隠れ潜み、三人がかりで使役していたのだとか。通常のゴーレム操作術であれば一人で数体から十数体を操ることもできますが、三人分もの魔力と操作精度を一体に集中したからこその、あの異常な頑強さと再生力だったのでしょう。

 講習に使われるルートはあらかじめ決まっているので、一行が通りかかる時間を見計らって周辺の岩塊から作り上げていたのだそうです。あえて不恰好なデザインにしたのは、人が使役していることを気付かれにくくするためでしょう。



「まあ、うちの団長とかだとアレでも秒殺されちゃいますし、鍛え方次第では皆さんも正面から戦って勝てるようになるかもしれませんよ」



 実際、鍛え方や装備、戦略次第では打倒も不可能ではありません。

 現在の彼らでも、ゴーレムの特性を理解し万全の準備をした上でなら、先程よりも善戦はできるでしょう。



「でも、勝てそうにない相手とは絶対に戦ってはいけませんよ。まずは観察して彼我の実力差を見極めること。勝てない戦いから逃げるのも立派な選択です。自分達の勝利条件や目的がなんなのかを常に意識してください」



 勇気と無謀は似て非なるもの。

 ルールに守られた試合場であれば、明らかな格上に挑むのは良い経験になるかもしれませんが、迷宮や、それに限らず安全が保証されていない場で勝てない戦いに挑むのは賢い選択とは言えません。

 そもそも、『倒さなければいけない敵』や『勝たなければならない戦い』なんていうのは、迷宮内ではそうそうあるものではありません。



「『敵を知り己を知る』なんて言いますけど、自分の実力を見誤らないよう常に意識してください。ああ、“実力”っていうのは万全の状態を基準に考えてはいけませんよ。そんなの迷宮や戦場では望むべくもありませんからね」



 疲労、怪我、病気。

 装備や物資の消耗。

 安全な街中であったとしても、常にそれらが満たされた状態など滅多にありません。必要な何もかもが足りなくて、それでもどうにか発揮できるのがその人の“実力”なのです。



「そして、どんな時でもまず最優先すべきは生還することです。とにかく、何があろうと最後まで諦めないでください。生きてさえいれば次がありますから」



 受講者達に言葉通りの「命懸け」を意識させるほどに追い詰めたのも、それを心身に叩き込むためだったのでしょう……まあ、多少は個人的趣味による部分もあったかもしれませんが。


 

「では、長くなりましたが、これで講習の全工程終了です。皆さん、お疲れ様でした」



 隊長は最後にそう言って締め、前日正午からちょうど丸一日の講習は終了しました。







 ◆◆◆






「疲れた、眠い、痛い、喉渇いた……」


「レン、大丈夫……そうじゃないな。俺も疲れた……」


「わ、わたし……も……」


 どうにか歩けるまで回復したレンリ達は、出発地点の『戻り石』に触れて第一迷宮から学都アカデミアへと戻ってきました。途中までは比較的余裕がありそうだったルグやルカもすっかり疲れた様子で、元々体力が少なめのレンリに至っては今にも倒れそうな衰弱具合。

 ゴーレムの隙を作るために使った奥の手が身体に多大な負荷をかけるものだったらしく、全身の至る所が痛みに苛まれているようです。


 

「そういえば、レン。聞きたいことがあったんだけど……いや、やっぱ今日はいいや」


「ああ……うん、そうしてくれると助かるよ。正直、話してる途中で気絶しそうだし」



 ルグからレンリに何か用事があったようですが、特に急ぎの話ではなかったらしく、言いかけて引っ込めました。長話をするためにどこかに腰を下ろしでもしたら、そのまま翌朝まで寝入ってしまいそうです。


 

「じゃあ、今日は一旦解散して明日……いや、明日だと寝過ごしそうだから明後日あたりにでも改めて会って話そうか。私からも二人に用事というか頼みがあるの」


「え……? わたし、も?」



 特に心当たりのないルカは不思議そうにしていましたが、



「君達、私に護衛として雇われる気はない?」



 レンリは、ルグとルカの二人ともに向けて、その依頼を伝えました。



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