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ゴーレム攻略戦③


「足下に来ると、また随分大きく見えるものだね」


 一人でゴーレムの前に歩み出たレンリは、十mほど間合いを取って立ち止まりウンザリしたように嘆息しました。

 巨体に加えて、防御技術に異様な頑強さと再生・成長能力。

 現在の消耗しきった状態では元より、仮に気力体力が万全の状態であったとしても倒すのは極めて難しいでしょう。



「でも、私達の目的はゴーレムを倒すことじゃない」



 ですが、そもそもレンリ達受講者は、必ずしもゴーレムを倒す必要はないのです。

 魔物が相手だという意識が働いて、ついつい倒すべき対象と捉えていましたが、本来の目的はただ谷の出口を抜けて道を進むことのみ。

 それならば、比較的破壊しやすいであろう足だけに集中攻撃を仕掛けて転ばせたり、それが無理でも足の速い者が囮になってゴーレムを誘導したりと、方法はいくらでもあります。完全に倒しきるのではなく、全員が谷を抜けるまでの時間稼ぎさえ出来ればいいのですから。

 


「残ってた魔力だと動けるのは精々五秒か十秒か。まあ、それだけあれば充分だろう」


『ゴ、ごゴ……?』



 レンリはずっと腰に差していた長剣を抜くと、奥の手として用意してあった両手の指輪と腕輪を外してその刀身に当て、



「『試作聖剣・四式及び七式並列解放』……『身体制御インペリウム』……!」



 それらの語句がなんらかの魔法を発動させる詠唱キーワードだったのでしょう。

 四肢に描かれた刻印魔法の紋様が服の上からでも分かるほどに輝きました。

 そして白銀の四輪がどろりと融けたかと思えば長剣に吸収され、剣のサイズは見る見る間に増大していきました。

 元は精々1mかそこらの細身の剣だったのが、まるで幅広の大剣のようなサイズにまで拡大し、



「……さあ、ゴーレム君。はっきり言って、今の私はかなり強いよ?」



 瞬間。

 凄まじい速度でゴーレムの股を潜り背後に回ったレンリが、ゴーレムの片足を一振りで斬り飛ばしました。一連の動作が僅か一秒以内という早業です。



「おおっ!」


「やったか!?」



 かろうじてその動きを認識できた数名が歓声を上げました。

 これでバランスを崩したゴーレムは転んで隙が出来るものと、誰もが予想したのですが、





『……ゴ? ごガゴゴ……』


 残念ながら、ゴーレムに慌てた様子はありません。

 一瞬バランスを崩しかけはしたものの、残った片足で即座にバランスを取り、更に丸いお腹の部分から何本も岩を伸ばして新しい足にしようとしています。もはや、ゴーレムというより、ほとんど岩で出来たタコといったほうがピッタリかもしれません。



「いやいやいや、それは反則でしょう!? 格好つけて『今の私はかなり強いよ?』なんて言った私が馬鹿みたいじゃないか!」


 

 あるいは、先程誰かが「やったか!?」などと迂闊にフラグを立てたのがいけなかったのかもしれません。ボスキャラの強化再生はどこかの世界ではお約束なのです。



「……なら、これならどう!」


『ゴ、ゴご……!?』



 レンリは今度はゴーレムの身体ではなく、その足場の地面を斬り崩しました。

 いえ、斬ったというか無理矢理掘り返したと言ったほうが正確かもしれません。


 細い身体のどこにそんな力があったのか、ゴーレムの足が乗っている部分の地面に何度も連続して刃を入れ、大量の土砂を吹き飛ばしたのです。

 いくらゴーレムでも自身の一部ではない地面までは再生できず、バランスを崩して盛大に転びました。



『ガ……ぎゴゴ……!?』



 凄まじい重量が地面に衝突して、オマケにレンリが吹き飛ばした土砂も合わさって、谷の出口付近には一気に土ぼこりが舞い上がりました。数m先も見通せないような視界の悪さです。これは偶然の結果でしたが逃げる側からしたら非常に好都合。

 



「さあ、コイツが起き上がる前に通り抜けるんだ!」



 ロクな視界のない状況でしたが、獣人氏の声で受講者達は最後の力を振り絞って谷の出口目掛けて走り出しました。





「ど、どこ……?」


「……こ、ここだよ、ルカ君……こっち、足下」


 そして、全ての魔力と体力を使い果たしてゴーレムの隣に倒れていたレンリもルカが担ぎ上げて逃げ出しました。もし成功した場合には動けなくなって倒れるからと、あらかじめ頼んでおいたのです。視界が悪いせいで探すのに少々手間取りましたが、どうにか声で場所を知らせて事なきを得ました。

 


「……よ、よかった……ね」



 もしレンリが隙を作ることに失敗した場合には、代わりにルカが怪力でゴーレムの足場を崩す作戦だったのですが、結局出番が来なくてホッとしているようです。

 もっとも、レンリが咄嗟にゴーレムの足場を斬り崩す発想ができたのも、事前にその予備の策があったからこそです。念の為の備えでしたが、もし考えていなければ幾らでも再生するゴーレム相手に隙を作ることは出来なかったでしょう。


 そして……、



「レン、さっきのあの剣。あれって勇……」


「話は後だよ! ルー君、私の荷物を落とさないでね。そこに落ちてる剣もお願い!」


「あ、うん、分かった!」



 先程のレンリの動きを見たルグは何かに気付いて戸惑っている様子でしたが、レンリの声で我に返り、共に土煙の中を駆け抜けました。








 ◆◆◆








 谷を抜けた受講者達は精魂尽き果てるまで走り続けました。

 なにしろ、体勢を立て直したゴーレムが増やした足をフル活用して後を追いかけてきたのです。森の木もメキメキへし折りながら進んでいるので、障害物の助けは期待できません。


 速さは意外にも人間が走るよりもやや遅め程度でしたが、なにしろあまりにも巨大なので凄まじいまでの圧迫感がありました。

 あるいは、あえてギリギリの速度で追いかけることで逃げる相手を嬲っているのかもしれません。




 時間にしたら精々数分といったところでしょうが、受講者達は恐怖から逃れるように足を動かし、疲れきった身体に残された最後の一片まで振り絞って死に物狂いで走りました。

 ですが、そんな全力疾走がいつまでも続くはずがありません。

 元々余力が少なかった老人や女性が最初に倒れ、続いて他の男性陣も前のめりに地べたに崩れ落ち、死屍累々といった有様です。


 吐き気を堪えきれずにげえげえと吐いたり、過呼吸を起こして顔を青褪めさせていたり、絶望のあまり泣き出す者がいたりと……それはそれは酷い状況でした。

 



 しかし不幸中の幸いと言うべきか、彼らに追い付いたゴーレムが攻撃を仕掛けてくるようなことはありませんでした。

 まあ、それもそのはずです。

 なにしろ、このゴーレムは……、



「だって、このゴーレムは我々の仕込みでしたから。皆さん、楽しんでもらえましたか?」



 そう、全ては講習の一環。

 教官達によるヤラセだったのです。



すまない、まあつまりそういう事なんだ。

初心者講習編は次回で終わりです。

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