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ゴーレム攻略戦②


 最初の一斉攻撃でさしたる戦果を上げられなかった受講者達は、距離を置いた状態でゴーレムを観察していました。



「周りの土を取り込んでる……傷を治してるのか」


「しかも、さっきより大きくなってない?」



 ゴーレムは周囲の土砂や岩を触れた所から吸収し、身体の再生に用いていました。

 先程の攻撃で与えたダメージはほんの一分か二分も経たないうちに消え、それどころか身体全体のサイズも微妙に大きくなっているようです。



「……本当に勝てるのか?」


「襲ってくる前に逃げたほうがいいんじゃ……」



 鈍重そうな外見に見合わぬ素早さと再生能力。

 半端な攻撃ではロクなダメージを与えられない頑強さ。

 それらを目の当たりにした彼らの戦意は、見るからに下火になっていました。


 しかも、状況の悪さはそればかりではありません。


 

「すまん、さっきので魔力切れだ……」


「悪い、こっちも打ち止めだ」


「まいったな……」



 先程唯一ゴーレムに有効打を与えていた巨人氏を始め、魔力が底を尽いている者が何人もいました。特に魔法攻撃を仕掛けた面々の消耗が激しいようです。最大火力で一気に撃破しようという作戦が完全に裏目に出ていました。





「それにしても本当に変なゴーレムだね。異常に頑丈で動きも素早い。その気になれば簡単にこっちを叩き潰せるだろうに、通せんぼをしているだけで積極的に攻撃してくる様子は全くないし……神造迷宮ならではの固有種なの?」


 レンリは魔力こそまだ少しは残っていましたが、体力のほうが完全にカラッポになっているようで、地面に腰を下ろした状態でゴーレムの観察をしていました。

 

 獣系の魔物は習性を知ってさえいればある程度行動の予測が出来ますが、飲み食いを必要とせず、魔力の尽きぬ限り動き続けるゴーレムの思考など全く読めません。今は追ってくる様子はありませんが、何かの弾みで突然動き出しても不思議はないのです。



「いっそ、今からでも遠回りの道を進んだほうがいいんじゃない?」


「でも、魔力も体力もない状態で別の魔物にでも出くわしたら……」


「そもそも、今の状態で全員が歩き通せるかどうか」



 ポツリポツリと撤退論も出始めましたが、攻撃の失敗で余力がなくなった状態でどれだけ動けるかは未知数です。何人かが脱落して森の中に置き去りにするような事態にもなりかねません。




 と、受講者一同の気力がすっかり萎えそうになったその時、



「あらあら、皆さん元気がないですね? どうかしたんですか?」



 今の一連の状況を全て見ておきながら、まるで他人事のように呑気な様子のイマ隊長が彼らに告げました。



「そうですね、それでは一つヒントを差し上げましょう。貴方達の目的はなんですか? そのゴーレムを倒すことではありませんよね?」







 ◆◆◆







「ゴーレムを倒すことが目的じゃない?」


「ええ、勝利条件とは必ずしも敵の打倒とは限らな……おっと、少しヒントを出しすぎましたね。あとは皆さん自身で考えてみてくださいな」


 受講者達は答えを催促したり、いっそ教官達でゴーレムを倒せないか聞く者もいましたが、隊長が手助けをしないよう指示しているのか、完全に口を閉ざしています。

 あまりにも厳しすぎるように思えますが、この消耗しきった状況で右往左往することも講習の一環ということなのでしょうか。


 

「勝利条件か……勝利……」


「どういうことだ?」


「ああ……なるほど」


「私達の目的は……そうか。そういうことなの?」



 大半の受講者は「ヒント」を聞いてもなんのことか分からないようでしたが、先程リーダー役を務めた狼頭の獣人氏とレンリの二人は答えに辿り着いていました。



「君も分かったか」


「ええ、多分同じことを考えているかと」


「だが、今の我々では火力が足りないんじゃないか?」


「それならば私にアテがあります。魔力的にギリギリですけど、なんとか一回だけなら」


「ふむ、分かった信じよう」



 獣人氏とレンリの会話を聞いても、他の者には何が何やらさっぱり分からず頭に『?』マークを浮かべていましたが、なんらかの解決策が見つかったということは雰囲気から察せられたようです。



「皆、聞いてくれ、新しい作戦を説明する! まず彼女がゴーレムの――――」



 二回目の作戦は前回以上に単純で消耗も少ないですが、タイミングが命です。念の為にレンリが失敗した時の策も用意してありますが、そちらを使わないにこしたことはありません。


 全員がしっかり理解するまで繰り返し説明し、その間にレンリは作戦の下準備をしました。

 服の裾をめくって、鞄から取り出した塗料と筆で、腕の肘から指先までと足の膝から足首までをびっしり覆うように刻印魔法の紋様を描いていきます。

 描く動作にも魔力を要するために後半は魔力が切れかけて、ほとんど失神寸前のような有様でしたが、どうにかこうにか描き終えました。



「じゃあルカ君、私が失敗した時にはよろしく。ルー君も荷物頼んだよ」


「う、うん……」


「ああ、わかった」



 準備を終えたレンリはよろよろと立ち上がり、そして一人でゴーレムの前へと歩き出しました。



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