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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
五章『奇々怪々怪奇紀行』
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すごいぞ! レンリの新型聖剣


「まあ、なんだね。強い武器といっても色々あるけど、良い得物っていうのは大抵美しいものなのさ。そういう観点からすると、この新型はイマイチかもね」


 巨大西瓜との戦闘後、休憩中にレンリ達はそんな話をしていました。

 先程の戦いで見せた新型のナイフ型試作聖剣。

 痛覚が無いがために総じてタフな植物系の魔物を、事実上一撃で倒すほどの破壊力がありましたが、製作者であるレンリとしては、まだまだ不満が残る出来のようです。



「そう……かな? 綺麗、だけど……」


「いや、この場合は見た目の美しさという意味だけじゃあないのさ。もっと根源的な、武器としての在り方の問題とでも言えばいいのかな」



 武器の目利きができないルカにしてみれば、投げる前のナイフは曇りのない銀色で、表面に刻まれた魔法の刻印もオシャレな模様のようで、まるで芸術品のようにも思えました。刃物への忌避感がない人間であれば、ほとんどは同じような感想を持つでしょう。

 しかし、この場合の「綺麗」「汚い」というのは単純な見た目だけを指す言葉ではありません。



「もしかして、殺し方が汚くなるってことか?」


「ああ、それが近いかな。なにしろ殺傷力がありすぎる」



 武器の目利きを勉強中だからか、それともルカと違って自らの主武器として刃物を使うからか、ルグの答えはレンリの言いたいことを、ほぼほぼ正確に表していました。



「武器ってのは強ければ強いほど良い……それは、まあ一つの正解ではあるんだけど、過分に強すぎるのも問題だ。必要な時に必要なだけの破壊を。およそあらゆる武器は敵を傷つけて殺すための道具ではあるのだけど、必要以上に殺しすぎないというのもまた良い武器の資質なのだよ」



 今回の試作品は殺傷力がありすぎる上、一切の加減ができないのが難点です。

 さっきの戦いでは偶然にも植物系の魔物が相手だったので躊躇わず使用することができましたが、動物系の魔物や人間相手に使用すれば、身体が内側から無数の棘に刺し貫かれ、それはそれはグロテスクな光景が出来上がるでしょう。

 もちろん、時には相手が誰だろうと、それが敵ならば攻撃せざるを得ない状況もあるかもしれません。しかし、あまりに強力すぎる力は持ち主に使用を躊躇わせ、その咄嗟の迷いが致命的な判断の遅れに繋がることも考えられるのです。







 ◆◆◆







 更に付け加えるならば、このナイフ型試作聖剣の欠点は他にも少なからずありました。


 第三迷宮の島々を通路のように繋げる細長い岩礁。

 ただでさえゴツゴツとした凹凸が無数にあって不安定なのに、時折高い波がかかって水に濡れた箇所があって転びやすいので、どうしても歩みは慎重になってきます。

 同じ岩礁の進行方向上や、あるいは左右に広がる海の中から魔物が襲ってきた際にも、迂闊に飛び跳ねたりすると足を滑らせて海に転落しかねないため、ほとんど足を止めたままの状態で不利な戦いを強いられる局面も少なくありません。


 そんな難しい状況下であっても、レンリは作ったばかりの試作品を敵に向かって力いっぱい投げつけていました。まだまだ不満があるとはいえ、贅沢が言える場面でもありません。それに、ちょっとでも刺さりさえすれば、破壊力だけは一級品なのです。



「このっ! えい! こらっ」



 その奮闘の結果を擬音で表現するならば……、


 すかっ。すかっ。ぽちゃん。どぼん。かきん。


 ……おおよそ、そんな感じでしょうか。

 コストを抑えたとはいえ、それなりに制作費のかかっている貴重な試作品が次から次へと狙いを逸れて海に向かい、数少ない敵に命中した物も頑丈な殻や甲羅に阻まれて、これっぽっちも刺さってはくれません。



「なんでこの辺の魔物、エビとかカニばっかりなのさ!?」 



 そう、海の迷宮であるこの第三迷宮に生息する魔物は、当然のように海の生き物やそれに近い種がほとんど。先刻の巨大西瓜のようなタイプはどちらかというと例外に属します。

 そして、さっきからレンリ達が遭遇する魔物はエビやカニや貝類や亀など、いずれも硬質の殻や甲羅に守られた種類ばかりで、にわか仕込みの投げナイフなど歯が立ちません。ちょっとでも刺されば勝負が決まるはずの必殺の武器も、刺さらなければなんの意味もないのです。


 特に、爆発反応リアクティブ装甲羅亀アーマータートルなる魔亀は、甲羅に一定以上の衝撃を与えると、甲羅表面に瞬間的な魔法の小爆発を起こしてダメージを相殺するというワケの分からない特徴があるので(迷宮の魔物が謎の生態を有しているのは今更ですが)、運が悪いと投げた自分達のほうにナイフを弾き返される危険もあります。

 刺さった後で魔力を送らなければ試作聖剣の機能が発動することはありませんが、いずれにせよ危険極まりないことに変わりはありません。



「カニとかなら、関節の隙間を狙えばいいんじゃないか?」


「はっはっは、ルー君は面白いことを言うね。この私にそんな腕があると思うのかい?」



 丈夫な甲殻を持つタイプの魔物なら、守りが薄い関節部を狙うのがセオリーですが、素早く動き回る敵を相手にそんな器用な真似がレンリにできるはずもありません。



「わたしの、お姉ちゃん、が……そういうの、得意だけど」



 ルカの姉であるリンは地元では下町のゴロツキ共も恐れる女傑で、ナイフ術の達人でもあります。それこそ、こんな風に動き回る相手であっても百発百中で狙えるほどの腕前ですが、



「ああ、ルカ君のお姉さんか。でも、教えを請うってのもちょっと違うかなって。ほら、私って人見知りする性質だから、気の強い人ってちょっと苦手なんだよね。キミのお兄さんとは割と話が合うんだけど」



 ルカとしてはコーチ役として紹介するつもりで話を振ったのでしょうが、肝心のレンリにあまりやる気が見られません。彼女としては、投擲術を頑張って鍛え上げるくらいなら、そんな技術を必要としない別の武器を新しく作ったほうが手っ取り早いとでも思っているのでしょう。


 それに、レンリがリンを嫌いというほどではないにせよ、相性が悪そうだと感じているのは本当です。なにしろ、元々は列車強盗の犯人と被害者。いえ、レンリに関しては被害者というよりも、犯人の目論見をその智慧で打ち破った名探偵(迷探偵?)とでも称するべきかもしれませんが。

 まあ、その事件のわだかまり自体はルカとこうして親しく付き合えている時点で無いも同然なのですが、人間関係において性格的な相性の良し悪しというのはどうしても生まれてしまいます。

 レンリも、リンと街中ですれ違ったら軽い挨拶くらいはしますし、ルカの家を訪れれば自然と顔を合わせます。決してはっきりと嫌っているわけではないのですが、それでも「なんとなく合わない」と感じる人はいるものです。下手に親しくしようと近付いたら、それこそ喧嘩にでもなって決定的に嫌い合うことになりかねません。

 根拠は単なる直感でしかないのですが、ルカに余計な心配をさせないために、レンリもそれなりには気を遣っているのです。



ルカの家族の中でリンの出番だけがかなり少なくなっちゃってるので、いつか活躍の機会を作りたいとは思いながらもなかなか出来ないでいます。レンリの叔父さんとかも同じパターンで設定は色々と用意してあるのですが。ううむ、どうしたものか。

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