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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
五章『奇々怪々怪奇紀行』

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腕相撲三本勝負・インターバル


「うわ、すごいなコレ。台に敷いた盾が手の形に凹んでる。これで怪我一つないのもすごいけど」


「ちゃんと直りますかね……おお、大丈夫そうです。流石は形状記憶魔法合金」


 腕相撲三本勝負の二本目はルカが一瞬にして勝利を収めました。

 勝負台として使っていた円盾ラウンドシールドがその際の勢いで凹んでしまったので、ラウンド間のインターバルということにして、コスモスが魔力を流して修復しています。幸い、破損しても元通りに直るのが売り文句の形状記憶魔法合金製だけあって、数分もあれば元通りになりそうです。

 丈夫に鍛えられた金属に押し付けられたライムの手も怪我一つなかったので、盾が直り次第三回目の勝負に移れるでしょう。


 ともあれ、これで勝負は一勝一敗。

 まだまだ結果は分からない、と言いたいところではありますが。



「でも、これはもうルカ君で決まりじゃないかな」


「圧倒的でしたからねぇ。いやはや、フォーム一つであれほど変わるとは」



 フォームの矯正を受けて正しく力を使えるようになったルカは圧倒的でした。

 しかし、それも当然。一戦目は腕の力のみで全身を効率良く使っていたライムと互角だったのです。背中や脚といった大きな筋肉の力を腕に伝える術を知れば、その戦力差はどれほどになるでしょうか。

 しかも、まだ新しいフォームに不慣れで、恐らくは力の伝達が不完全であった点を思えば、ルカには更なる伸び代があるとも言えます。次の三戦目では、二戦目以上の力を発揮できるようになっていても不思議ではありません。



『ふふふ、我は悟ったのよ。力こそパワー! 力こそ正義なの!』



 早くも勝利を確信したウルも、ステージ上をうろちょろしながらお調子に乗っています。

 彼女はちょっと前の劇場の事件で争いごとの虚しさを悟っていたはずなのですが、なんともよく悟る幼女です。しかし、今回に関してはそうなっても仕方ないのかもしれません。

 前二戦の際は観客の間にあった緊張感もすでに薄れ、最も盛り上がってもおかしくない三戦目前だというのに、どこか消化試合のような雰囲気があります。彼らの多くも、二戦目の結果を受けてルカの必勝を確信しているのでしょう。



「やっぱり、教えるにしても二戦目の後にしたほうが良かったんじゃないかな」


「まあライムさまとしては、そこは正々堂々とした戦いが望みだったのでしょうから。相手の全力を引き出した上での負けなら、むしろ本望とかそういう感じのアレでは」


「そういう感じのアレなら仕方ないかー」



 建前上は中立であるはずの実況・解説の二人も、もうほとんどルカが勝つという前提で喋っています。本音を隠そうとする努力すらしていません。






 だから、この場で未だライムの勝ちを信じているのはただ一人だけ。

 正々堂々とした勝負こそが望みで、勝ち負けは二の次。たとえ負けたとしても、喜んで結果を受け入れる……なんて、そんな負け惜しみのようなことをライムが考えるはずがないと、この場の誰よりも、否、この世の誰よりも深く知るシモンは知っていました。


 ステージ前の最前列で勝負を見守っていた彼は、親友に向けて声をかけます。


 

「おい、ライム」


「なに?」


「がんばれ」


「……うん。がんばる」



 二人が交わした言葉はたったこれだけ。

 しかし、ライムには幾千万の味方を得たに等しい頼もしさが感じられました。






 ◆◆◆






「それじゃあ、これで最後だ。二人とも準備はいいか?」


 ようやく盾の修復が完了しました。

 勝っても負けてもこれでお終い。

 最初は乗り気でなかったルカも、流石にここまで来たら腹を括っています。持ち前の心配性も、慢心や油断とは無縁でいられるという風に、今は良い方向に作用しているようです。先程の感覚を忘れないようにか、勝負台の前でフォームのおさらいまでしています。



「お願い」


「は……はい?」


「最後まで、手を抜かないで」


「はい……わかり、ました」



 ライムが言うまでもなく、ルカには手を抜くつもりなどありません。

 腕相撲に限らず、ルカには誰かと本気で勝負をした経験などありませんでしたが、真剣勝負で手を抜くことが非礼に当たるということくらいは知っています。

 生半可な相手なら怪我をさせてしまうことが心配で、たとえ相手が望んだとしても無闇に全力を振るうわけにはいきません。ですが、ここまでの二戦を経て、ライムが相手なら、そしてこの腕相撲というルールであれば、本気を出しても大丈夫だとすでに理解していました。


 そして、最後の仕上げは……。



「審判がこんなこと言っちゃいけないんだろうけど……ルカ、勝てよ」


「う……うんっ」



 他の人に聞こえないような小さな声で、しかしルカの耳にはルグからの励ましが確かに届きました。彼自身が言うように、審判が贔屓をするようではいけないのでしょうけれど、それでも一言伝えたかったのでしょう。

 これで、少なくともこの最後の三戦目だけは、ウルの代理ではなくルカ自身の戦いになりました。ここまでは勝利を求めていたわけではない、勝っても負けても構わないというような意識もありましたが、そんな気の緩みも完全に吹き飛んでいます。


 勝ちたい、と。

 この最終戦に至って、ルカはようやく能動的に勝利を望むようになったのです。













「それじゃあ、構えて」


「ん」


「……うん」


 これまでの二回と同じく、ライムとルカは手を合わせました。

 気合の乗り方は両者共にこれまでとは段違い。

 ここまでの勝負内容や外野の予想などは何の参考にもなりません。まだ力を込めていないのに、手を触れた瞬間に双方がこれまでの勝負との質の違いを理解していました。


 すなわち、この三戦目はこれまでの二戦とは全くの別物になるであろう、と。



「よーい……始め!」



 現時点でその違いを理解しているのは、当事者の二名のみ。

 しかし、ほんの数秒の後には、この場の全員が嫌でもその差を思い知ることになったのです。



今回で決着まで持っていく予定でしたが、思ったより長くなったのでここで一旦区切りますよん。

愛の力でパワーアップはお約束ですが、野郎共に友人を応援する以外の思惑がなかったり、そもそもこういう勝負だと普通は男女のポジションが逆なんじゃないかとか、色々と間違っている気がしないでもありません。

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