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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
五章『奇々怪々怪奇紀行』
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腕相撲三本勝負・一本目


 ルグのかけ声と同時に始まった、腕相撲三本勝負の一本目。

 ルカもライムも、そのどちらもが並外れた剛力を持つ二人の対決は、まるで双方が全く力を込めていないかのように、ぴたりと、開始位置で手が固定されてしまったかのような均衡状態から始まりました。



「う……うぅ、ん……っ」


「……む」



 全くの互角。

 勝負の序盤――本人達や観客の体感としてはもっと長く感じられたにせよ、実際は十秒そこらの短時間でしたが――は、そのような形で立ち上がりました。


 しかし少しずつ、ほんの少しずつ、天秤は片方の側に傾いていきます。

 最初は目を凝らさねば分からない程度だった傾きは、次第に誰の目にも明らかになり、優勢な側がそこから手を緩めることもなく……。



「勝者、ライムさん」



 まず一本目の勝負はライムが先取しました。






 ◆◆◆






「ううむ、今の勝負をどう見ますか、実況のレンリさま」


「あれ、私が解説じゃなかったっけ? まあ、どっちでもいいか。いい勝負だったんじゃないかな。こっちも熱が入って、つい黙って見ちゃったよ」


 真剣勝負の緊張感に釣られたのでしょうか。

 実況・解説を勝手にしている二人だけでなく、見物している観客たちも勝負の最中は呼吸音すら聞こえないほど静かにしており、決着がついてからやっと一息吐けたような有様。今になってからようやく拍手や声援が飛んでいます。



「しかし、お二人とも、あの細い身体でどうしてあれほどの怪力が出せるのでしょう? いえ、私は知っているのですが、ご存知ない皆様への解説をスムーズにするためのフリとして」


「うん、後半は言わなかったほうがいいと思うけど、話を振られたからには答えておこうか。アレは魔力を用いた身体強化が理由なんだけど、あの二人の場合は魔力の変換効率が桁違いなのだよ」



 二本目の勝負に移る前に、コスモスとレンリが観客に説明を始めました。

 魔力による身体強化魔法は、魔法と呼ばれる技術の中では飛び抜けて習得しやすく、勘が良い人間なら誰に教わるでもなく無自覚に使用していることもあるほど。一般的に魔法と言って思い浮かぶような詠唱や杖の振りなどの準備動作も不要で、体内の魔力を活性化させるだけで発動させられるのが、その取っ付き易さの理由です。


 魔法の多くがそうですが、同じ量の魔力を燃料に同じ種類の魔法を発動させたとしても、その威力や効果には人それぞれ、少なからずバラつきが生まれてしまいます。

 たとえば、100の魔力で100の威力を出せるのが平均値としても、術者によっては威力が10や1000だったりすることもあり得るのです。そこまで極端な事例は稀ですが、稀ということはつまり「少ないが在る」という意味なわけで。まさに、その稀な例というのがライムやルカにあたります。


 魔法使いはそのブレを魔力の変換効率という言葉で説明していますが、その効率差が発生する要因は様々。努力や才能、環境、その日の体調や気分によっても増減します。

 ライムの場合は、魔力への親和性が高いエルフの血筋や、優秀すぎる師による指導、幼い頃からの常軌を逸するような鍛錬。

 ルカに関しては、十年以上も魔法が発動し続けていることにより、結果的に余人の及ばぬほどの領域まで練度を高めてしまった点。本人が意図していなかったにせよ、こちらも結果的には一日も休まず鍛錬を積んだようなものでしょうか。


 また、二人ともが常人とは桁外れの魔力量を有しています。

 家系的に魔法使いとしてはエリートに属するはずのレンリと比べても軽く数倍、もしかしたら十倍以上もの差があるかもしれません。有り余る燃料を極めて効率的に肉体強化に用いることができるからこそ、乙女の細腕であれほどの怪力を発揮できるのです。

 






 ……というのが、レンリ達の見解でしたが、こと、この腕相撲の勝敗に関してはもう少し付け加えるべき点がありました。もっとも、それに気付いているのは勝負の当事者、その一方であるライムだけでしたが。



「……むぅ」



 先程の勝負はライムが勝利を収めました。

 ならば、彼女の身体強化の効力は、多少なりともルカに勝っているのでしょうか?


 いいえ、違います。

 実のところ、単純な筋力ならルカのほうが上回っていました。別に彼女が手を抜いていたというわけではなく、ルカ本人の意識としてはきちんと全力を出していたつもりなのでしょうけれど。


 一本目の勝負を経て、誰よりもそれを実感していたのがライムでした。



ヒント:腕相撲は「腕の力」の比べ合いか、否か

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