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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
五章『奇々怪々怪奇紀行』
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さらばコスモス! また会う日まで②


 さて、大勢の人々がコスモス主催のパーティーを楽しんではいますが(参加者の大半は飛び入りなので、これが「お別れ会」だということも知りませんが)、単に飲み食いするだけでは芸がありません。お祭り騒ぎを一層盛り上げるには、場に相応しい余興が求められるというもの。

 その手の仕切りを大の得意とするコスモスの後押しに加え、羽目を外しやすい空気がすでに醸成されていたおかげもあり、そこかしこで色々な遊びや勝負事などが始まりました。






 ◆◆◆







「ふぅ……まあ、こんなものかな?」


 その光景はまさに死屍累々。

 いえ、誰も死んではいませんが雰囲気的に。


 まともに立ち上がることすら出来ないでいる数多の豪傑を、まだ余裕を残している様子のレンリが悠然と見下ろしています。並み居る強豪達、屈強な獅子系の獣人や筋骨の太いドワーフらを容易く退けたレンリは、この日、この場において絶対的な王者として君臨していました。



「では、大食い大会の優勝はレンリさまということで。おめでとうございます。それでは、優勝者として一言コメントをどうぞ」


「ふふふ……敗北を知りたい」



 もちろん、レンリの細腕で鍛えられた男達に力比べでは勝てるはずがありません。

 勝負の種目は大食い大会です。


 食べていたのは、道路の真ん中に設置された炉で焼かれていた、大きな豚の丸焼き。

 とてもとても大きな、ちょっとした家屋くらいはありそうな豚の名は『竜巻グレーター大王豚ポークネード』という第四迷宮の深部に出現するという魔物。竜巻の魔法を自在に操り、それで敵を攻撃するのではなく自分達の群れを空中に飛ばして凄まじい機動性を得る……という疑問点しかない生態の豚ですが、今回の催しの主菜とすべくコスモスの依頼を受けたライムが仕留めてきた大物でした。

 一緒に出現した『八本足カイザー皇帝豚ポークトパス』には残念ながら逃げられてしまったようですが、それでも大木サイズの巨大な豚足を二本は確保できたので、そちらは近隣の飲食店で順次調理してもらっています。


 あまりに大きいので丸焼きといっても一度に中まで火を通すことは出来ず、表面から焼けた分を少しずつ削いでいくような調理法となっています。

 表面を削ぐ度に特製の甘辛ダレを塗り、それが肉の脂と混ざって焦げた良い香りがこの通りの外にまで漂いつつありました。きっと、この匂いにつられて、これからまだまだお祭り騒ぎの参加者が増えていくことでしょう。








 ◆◆◆







「あの……なんだか、ごめんなさい」


 一方、少し離れたテーブルでは力自慢の冒険者や職人達が腕相撲をしていたのです……が、こちらではルカが王者として君臨していました。

 最初の何人かが負けた段階ではわざと負けてあげたのでは、という声がギャラリーから出ていたのですが、それが十人二十と続くうちに疑う声は歓声へと変わっていました。

 見るからに気弱そうな女の子に惨敗した男達はすっかり自信を失ってイジけていましたが、それも最初のうちだけ。今では、むしろ負けた者達がルカに熱烈な声援を送っています。「力こそ全て」「強い奴が偉い」というシンプルな価値観を信奉する連中は、すっかりルカのファンになってしまったのです。その注目と歓声に反比例してルカ本人は小さく縮こまっていますけれど。


 いえ、引っ込み思案な彼女は、こんな風に目立つことなどしたくなかったのですが、



『うわーん、負けちゃったの! あっ、ルカお姉さん、我の仇を取って欲しいの!』


「え……? ウルちゃん、わたしは、その……」


『さあさあ、早くするの!』



 お祭り騒ぎの熱気に惹かれて来ていたウルに頼まれて参戦した形です。

 自分の迷宮の外では見た目の体格相応の力しか出せないウルが、屈強な猛者達に腕相撲で敵わないのは当然で、別にいちいち恥じるようなことではないのですが、彼女の負けず嫌いな性分がその結果を良しとしなかったのでしょう。

 現在は己の名代として連勝するルカの横で勝ち誇っています。腕相撲に名代という概念を持ち込む斬新さについては特に気にしていないようです。


 ウルに怒られるか泣かれるかする事態が容易に想像できてしまうので、ルカはわざと負けることも許されません。仕方が無いので、相手が怪我をしないように気遣いながら、なおかつ違う意味で相手が傷付かないように苦戦しているフリなどしつつ(ルカはあまり演技が得意ではないので上手くいってはいませんでしたが)連勝記録を更新し続けていました。





 ……と、そこに新たな挑戦者が現れました。

 体格は今までの対戦相手でも最小。ルカよりも小さな少女ですが、ルカはこれまでで最大の緊張にびくりと身を震わせました。



「勝負」


「えっ……あの……」


「いざ尋常に」



 観戦しているうちに闘争心が刺激されてしまったのでしょうか。これまでは人混みの中から観戦していたライムが、静かな闘志を滾らせてルカの前へと立ちました。



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