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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
五章『奇々怪々怪奇紀行』
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謎の迷宮製作スキル(仮名)


 迷宮を創造する能力。

 そんな字面だけを見れば強力な、とても使い道が多そうな能力にも思えますが、新たにウル達が獲得していた迷宮製作スキル(仮名)は最大でも直径一メートル程度の範囲にしか展開できない、本人達にも全く意味が分からないものでした。



『結局、これってなんなのかしら?』


『さあ、なんなんでしょう?』



 別にあって困るものではなさそうですが、活用方法もこれといって思い付きません。ウルだけならともかく、ゴゴや、どうやら他の迷宮達も同じく持て余しているようです。

 迷宮の外、普通の世界に迷宮を造れるとはいえ、ウル達はそもそも自身の本体以外に迷宮を保有する意味がありません。

 また、たとえばウルの場合は、その新しい迷宮はあくまで本体である第一迷宮とは違う独立した迷宮なので、それを利用して制限のない本来の能力を発揮したりもできませんでした。


 それでも一応、何か使い道がないかとレンリの助言を得ながら屋敷の庭であれこれ試してみたところ、ウルが魔力を注ぐことで魔物や宝箱、迷路状の壁などの迷宮らしいオブジェクトの生成に成功しました。極小の迷宮に相応しく、人形遊びの小道具のようなミニチュアサイズが限界でしたが。壁の強度も精々が薄めのビスケット程度でしかありません。

 武具や道具の類もこれでは実用性がありませんし、大きさに目を瞑ったとしても、大して質が良いモノではなさそうです。



「おっ、ドラゴンもこのサイズならなんだか可愛いね」


『結構人懐っこいの。よし、名前を付けて我のペットにするのよ』



 一方、魔物に関しては、むしろ弱く小さいからこその可能性があるように思えました。

 特に手の平サイズのドラゴンなどはなかなか可愛げがあります。つぶらな瞳と赤く綺麗な鱗がチャーミング。試しに痛覚を有効にしたウルが指を噛ませてみても痛くなく、火を吐くこともできないので火事の心配もありません。

 もしかしたら愛玩用ペットとしての需要があるかもしれない……などと思ったのも束の間。なんとそれらの生成物は造った迷宮の範囲内から取り出せないことが直後に判明しました。物質としての構成が甘いのか、有機物無機物を問わず、迷宮外に出すと原料になっている魔力が拡散して消えてしまうのです。これでは犬猫のように散歩に連れ出すこともできません。



『うわーん、ドラ太郎ーっ!?』


「……命とは儚いものだね」



 哀れ、ウルに「ドラ太郎」と命名されたミニチュアサイズのドラゴンは、生後五分でその生涯を終えることとなりました。ベーコンの切れっ端でもやろうかとウルが思い付いて、キッチンまで連れて行こうとしたのが原因です。

 しかし彼の(もしくは彼女だったのかもしれませんが、確認する間もありませんでした)死はきっと無駄ではありません。その命の儚さを知ったウルの心にドラ太郎はいつまでも生き続けることでしょう。



『あっ、よく考えれば新しいのを造ればいいだけね。今度の名前は「ドラ次郎」にするの』



 ……その命の儚さを知ったウルの心に、とりあえず十分間ほどは生き続けました。

 子供の無邪気さとは時に残酷なものなのです。






 ◆◆◆






 それ以降もしばらく調べていましたが、結局、能力の正しい使い道は不明なまま。当初の見立て通りに害はなさそうだと判明した時点で検証も引き上げられました。ウル本人も、それに付き合っていたレンリも、単純に調べることに飽きてしまったのです。


 

『ほら、ドラ次郎、ハムの端っこよ。いっぱい食べて大きくなるの』


「今更だけど、ウル君のネーミングセンスは独特だよね」



 今では、レンリの部屋の片隅に使っていなかった植木鉢が置かれ、その中に小さな迷宮が観賞用として敷かれています。

 ウルはちょくちょくあげていますが、別に餌を与えずとも魔力だけで中の生物は生きていけるようですし、普通のペットと違ってトイレの世話や脱走の心配も無用。現時点では全く意味不明な能力ではありますが、手間要らずのペットを手に入れたウル本人は喜んでいるので、まあ良い結果に落ち着いたと言っていいのではないでしょうか。



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