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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
五章『奇々怪々怪奇紀行』
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彼女達のイイトコロ



 レンリとルカが悪ノリした挙句に覗き見、盗み聞きをしていたら、なんだか思わぬ話の流れになってきました。



(ほほう、これはこれは……)


(気になる、けど……心の準備が)



 すなわち、ルグは彼女達のどういう部分が好きなのか。

 いえ、話の流れからしてそれが恋愛的な意味での好意ではないことくらい二人にも分かっていますが、だからといって気にならないはずもありません。むしろ大いに気になります。


 現状、偽装に力を入れた甲斐もあって、盗み聞きがバレている様子はありません。

 本人を前にしては遠慮や気恥ずかしさで言えないような本音も、今なら聞くことができそうです。不埒な覗き魔たちは、先程までより一層集中して耳を澄ませました。





 ◆◆◆





「そうだな……まずレンだけど、あいつはとにかく頭が切れる」


 本人に聞かれているなど露知らず、ルグは正直に思うところを口にしました。

 まず最初に言及したのはレンリについて。



『ほうほう、お利口さんなのです?』


「ああ。でも、頭の良さっていっても種類があるだろ? あいつは単に知識があるってだけじゃなくて、頭の回転が速いんだ。その頭の回転を悪用……ってほどじゃないけど、変な方向に使うことはあるけどな。まあ、そういう狡賢い部分も味方としては頼もしいか」



 ……ルグは更に言葉を続けます。



「それにレンの奴、あんな感じなのに努力家なんだよ。しょっちゅう難しい本買って読んでるし。研究とかも、俺には何やってるのかよく分からないけど、時間を作っては地道にやってるみたいだしさ」



 ……ルグはまだまだ言葉を続けます。



「そうそう、意外と面倒見が良いところもあるな。ルカにも色々気を遣ってやってるみたいだし、いいとこのお嬢様なのに人を見下したりしないし……うん、なんだかんだレンって優しいんだよな。あいつにそんな風に言ったら照れ隠しに怒り出しそうだけど」





 ◆◆◆





 一方その頃。



(まったく、ルー君てば何言ってるんだろうね!?)



 予想外の褒めっぷりを受けて、レンリは柄にもなく動揺していました。



(そうかな、わたしも合ってると思うよ?)


(いやいや、私は全然そんなイイ奴じゃないし、むしろワルだし! 極悪だし!)



 ルカはほとんどルグと同意見のようですが、当の本人はムキになって否定しています。声を出したら隠れているのがバレてしまうので、あくまでもハンドサインによる意思表示ですが。

 能力的な部分、頭脳の鋭さを褒められている時はそうでもなかったのですが、「面倒見がいい」とか「優しい」という評価が照れ臭くてたまらない様子。そういう反応に対する予測まで含めて、ルグの人物評、観察眼は大した精度だと言えるでしょう。





 ◆◆◆





「それで、次はルカだけど」


『ふむふむ、あの前髪の長いお姉さんですね』


 そして、今度はルカの評価に移りました。相変わらず、本人に聞かれているなどとは夢にも思わず、ルグは率直な意見を口にします。



「気遣いが上手い。臆病なところもあるけど、その分いつも周りをよく見てるんだろうな。俺もよく助けられてるよ……ただ、優しすぎて心配になることもあるけど」


『優しいのは良いことなのではないです?』


「ああ、それはそうなんだけど、何事も適量が大事っていうか、行き過ぎれば毒になるというか……俺も上手く言葉にできないんだけどさ」



 ルグも原因の詳細まで把握しているわけではありませんが、ルカの気遣いや優しい性格というのは、自分が我慢すればそれで丸く収まるというような、自己犠牲的な意味合いが多少なりとも含まれています。自覚の有無はさておき。

 能力の危険性を考えれば仕方のないこととはいえ、したいことがあっても我慢する。人の迷惑にならないように注意深く生きる。そういう振る舞いが彼女の心の深い部分に根を張り、一朝一夕では揺らがないようになっているのでしょう。


 

「だから、ルカにはもっと自分勝手に、ワガママになって欲しい」



 ……ルグは言葉を続けます。


 

『ワガママ? 悪い子になったほうがいいのです?』


「まあ、その辺は人それぞれっていうか、そのくらいで丁度いい奴もいるんだよ」


『はあ、人間のヒトの言うことは難しいですねぇ』



 ……ルグはもっと言葉を続けます。



「あとは、そうだな……俺も最近まで見たことなかったけど、髪とか服装をちゃんとすれば見違えるくらい綺麗になるんだよ。あれは正直驚いた」


『なのに髪で隠してるんです?』


「あいつ恥ずかしがりだからなぁ……俺も勿体無いとは思うんだけど」





 ◆◆◆





(ああ、この前みんなで劇場に行った時のことか)


 ルカの容姿を褒める言葉に、レンリはうんうんと頷いて納得していましたが、



(え……きれい? 綺麗って誰が? あれ、なんの話をしてたんだっけ?)


(これこれ、ルカ君や。正気に戻りたまえ)



 またもや褒められた当人が混乱していました。いえ、もちろん嬉しくないわけではないにせよ、感情の振れ幅が大きすぎて、それを正しく認識できなくなっているのでしょう。

 先程とは逆に、レンリが宥める側に回ります。



(うん、でも、たしかに考えてみれば勿体無い話だ。もっと普段から可愛い格好してもいいんじゃないかい? もっと彼に褒めてもらえるかもしれないぜ?)


(うぅ、それは、その……前向きに善処します)





 ◆◆◆





『なるほど、なるほど。面白いお話をどうもありがとうです』


「面白かったのか? まあ、満足したならいいけど。あ、でもこんな風に言ってたのが知られると恥ずかしいから、あいつらには言うなよ?」


 そろそろ話すネタもなくなったのか、ルグとモモの会話も一区切りついたようです。

 モモは立ち上がると、ぺこりとお辞儀をして話のお礼を告げました。


 

『では、モモはそろそろ失礼します』


「もう行くのか?」


『はい。あのお姉さんたちによろしくお伝えくださいです』


「レン達への挨拶なら直接言えばいいんじゃないか? あいつらもこの近くで休憩してるはずだし」



 この言葉を聞いて慌てたのはレンリ達。

 この近くも何も、実際にはほんの十数メートルしか離れていない木陰に潜み、先程から盗み聞きをしていたのです。見つからないよう気を付けながらでは素早く戻ることはできませんし、モモが勧めに従ってレンリ達を探しに行ったら覗き見がバレてしまうかもしれません。



『いえ、今日は人間のヒトといっぱいお喋りしたので、なんかもういいです』



 幸い(と言っていいのかはともかく)、モモの気まぐれによって休憩場所にいないことが露見することはありませんでしたが。



『よいしょ、っと』



 モモはその非常に長いピンク色の髪をうねうねと動かすと、網状に編んだ髪で山積みになった果物の半分ほどを包んで、引っ張って行けるようにしました。引きずったまま運んでは、せっかくの果実に傷が付いてしまいそうですが、気にする様子もありません。



『ではお兄さん。ご縁がありましたらまたお会いしましょう。モモは大体いつもここの海にぷかぷか浮いていますので』



 そう言い残すと、マイペースな幼女は来た時と同じように海へと戻り、そのまま波に任せてどこかに流れて行きました。





 ◆◆◆





 それから更に一時間ほど後。

 干していた衣服もどうにか乾き、レンリ達とルグは合流しました。



「おや、モモ君はもうどこか行っちゃったのかい?」


「ああ。お前達によろしくってさ」



 もちろん、抜け目のないレンリはモモが既にいないことに反応する演技も忘れません。ルグの様子からするに、先程の話を盗み聞いていたことに気付かれてはいないようですが、念の為。


 最初の目的であったはずの着替えの覗きは実行する前に思い止まりました。

 モモが立ち去った後すぐにレンリ達も隠れ場所から離れ、元いた休憩地点に戻ってきてそれっきり。あれだけ褒められた後で彼の信頼を裏切るような真似をするのに気が引けたというのもありますし、一度冷静になってしまうと「自分達はいったい何をやっていたのだろう?」という虚しさと後悔があるばかりで、なんとも居た堪れない気持ちになってしまったのです。



「それで、レン。やっぱり今日は一旦街に戻ったほうがいいと思うんだ。服はどうにか乾いたけど、保存食が駄目になってるかもしれないし。それに、ギルドにこの島の亀のことも一応報告しとかないといけないしな」


「ああ……うん、それでいいんじゃないかな」


「わたし、も……それで……」



 結局、スタート地点の小島から一歩も外に出ないまま。

 成果と言えるものも、果たしてあったのやら否や。

 少女達の心に歯切れの悪いモヤモヤ感を残したまま、一回目の第三迷宮攻略は終了しました。



◆今回は話の都合上、場面転換がかなり多くなっちゃたんですが読み辛くなかったですかね?

書いてる本人にはそのあたりの感覚がいまいち分からんのじゃよ。

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