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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
五章『奇々怪々怪奇紀行』
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流れてきたモモ


『どうもこんにちは、モモの名前はモモといいます。好きな果物はバナナなのです』


 どんぶらこ、どんぶらこ……と、海面を漂ってレンリ達のいる小島に流れ着いた幼女、モモという名前らしい彼女は、三人の姿に気付くとそのように名乗りました。

 水兵(セーラー)が着るような上衣に紺色のショートパンツ。その服装だけならまともそうですが、桃色の異常に長い髪が嫌でも目を引きます。


 海に浮かんでいる時にはわかりませんでしたが、ウルと同じくらいの体躯なのに髪の長さは二メートル以上もあり、上陸した今は完全にズルズルと引きずりながら歩いています。髪の量がやたら多い上にたっぷりと水分を含んでいるので、砂や貝殻なんかを大量に巻き込んでいますが、本人に気にする素振りは全くありません。


 海に誰かが浮かんでいるのを見つけた時は、すわ漂流者かと、先客の冒険者がなんらかのアクシデントに陥っているのか、あるいは既に水死体となっているのではないかと肝を冷やしましたが、相手が幼女となると話は変わってきます。

 なにしろ、これまでの二つの迷宮にも、それぞれの領域を担当する幼女がいました。

 二度あることは三度ある。もはや迷宮内で幼女を見かけたら、ウルやゴゴの関係者なのだろうという発想が自然に出てくるくらいに慣れが生まれてきています。迷宮の化身が人前に出る際の姿は一定ではないらしいので、守護者イコール幼女という法則は必ずしも成立するわけではないはずなのですが。


 ともあれ、ただ向かい合っていても話が進みません。



「ええと、モモ君でいいのかな? キミは、ええと……」


『あ、まちがえました。やり直します。我の名前はモモなのです。好きな果物はアボカドです』



 レンリがコミュニケーションを取ろうとしましたが、妙にぼんやりとした様子のピンク幼女は何故かもう一度自己紹介をしてきました。


 

『一人称が名前の女はなんかムカつくって、ひーちゃんが怒るのです』


「ひーちゃん?」


『ひーちゃんは第三(ここ)の子です』


「え、じゃあキミがこの迷宮の守護者とか、そういうのじゃないのかい?」


『いいえ、違うのですよ? モモの担当は第四だから、この次なのです』



 レンリ達はてっきり、このモモという幼女がこの第三迷宮の担当者なのだろうと早合点していましたが、ここにきて違うパターンが出てきました。

 この桃色の幼女曰く、自身の担当はこの次の第四迷宮。

 レンリ達ではまだ入ることすらできません。

 早々に第三の守護者と出会えて顔を繋ぐことができていたら、合否はさておき試練に挑むなり情報を得るなりといったことが効率よく出来たのかもしれませんが、どうやらそこまで美味い話はなさそうです。



『ここはポカポカしてて気持ちがいいので、よくお昼寝をしにくるのです』


「なるほど……うん、たしかに気持ち良さそうではあるね」



 守護者が自身の担当外の迷宮に出入りできるのはレンリ達も知っています。街に出た時のようなパワーダウンは避けられませんが、普通の人間と同じように行動する分には何も問題なさそうでした。

 単なる昼寝目的でそうするのは意外でしたが、別に明確な目的がなくとも禁じられたり咎められるようなものではないのでしょう。

 ならば、この第三迷宮は、少なくともこの出発地点付近は心地良い日差しと潮風があり、午睡にはぴったり。水泳の心得がある者ならば、さっきまでのモモがそうしていたのと同じように、波に任せてゆらゆらと浮かんでいるだけでも楽しいかもしれません。



『あ、でも人間のヒトがやるのはやめておいたほうがいいかもです。海にぷかぷか浮かんでいると、たまにサメとかに食べられるので』


「……肝に銘じておくよ」



 いくらでも身体の替えが作れる守護者と違い、人間は死んだらそれっきり。

 話の途中まではモモの真似をして寛ぐのもいいかもしれないと思いかけたレンリでしたが、すっぱりとその考えを忘れました。いくらなんでも命懸けでバカンスを楽しむつもりはありません。

 これまでも、今だって求めるモノのためにリスクを承知で迷宮に挑んではいますが、それとこれとでは意味合いが大きく違ってきます。そんなお遊びのために命を落としたら、死んでも死に切れないでしょう。



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