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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
四章『響楽紅蓮劇場』

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すごいぞ! 変幻自在の変身能力


 劇場内への不法侵入を果たしたルカ達一行。

 しかし、入り込んだからといって簡単に目的の人物が見つかりそうもないことは、幾らも進まないうちに実感しました。


 流石は大劇場。

 正式名称に「大きい」と入っているだけあって、建物の規模は巨大そのもの。外観から大きさを分かっていたつもりでも、その見込みは相当に甘かったと言わざるを得ません。


 建物内には無数の通路や大小様々な部屋があり、そこからどこにいるかも知れない特定の人物を探し当てるのは、かなりの難題でしょう。ましてや現在の彼女達は無許可で施設に入り込んでいるのです。途中で職員なり警備員なりに見つかってしまったら、人探しどころではありません。

 彼女達の心情的には、劇場に辿り着いた時点でもうゴール間近にまで迫っているような気持ちでした。あとは流れでどうにでもなるだろうという気持ちもあったのですが、意外にもゴールはまだまだ遠かったようです。


 ここまでの道中で頼りにしていたロノとレイルが残っていたら、入り組んだ建物内から嗅覚で特定の人物を探し当てることも可能だったのかもしれません。

 ただし、ロノの体格では通用口から入るのは物理的に不可能。

 一般客が使うような劇場の正面口からであれば入ることもできたかもしれませんが、そんな目立つことをしたらそれこそ一瞬で見つかってしまうでしょう。

 そもそも、既にロノ達は帰宅してしまっているので、今更可能性の話をしても詮無きこと。目的達成のためには、今ある材料だけでどうにかする手段を考えねばなりません。


 だから、考えました。

 そして、思いつきました。


 劇場内の関係者に見つからないようにしつつ、どこにいるか分からない歌姫も探す。普通の人間にとっては難しくとも、ウルの性能を十全に発揮すれば、その程度の両立、ながら作業は造作もありません。もっとも、その方法を思いついたのはウル自身ではなくレンリだったのですが。



「やあ、ウル君。ちょっと先に行って、一人で手分けして探してきてくれないかい?」


『一人で? どういうことなの?』


「おいおい、そこは自分で気付きたまえよ」



 一人で手分けをするというのも奇妙な表現ですが、この場合はそれで合っています。なにしろウルならば、今ある身体を切り分けて変身することで、別の自分を生み出すことができるのですから。

 レンリの説明を受けたウルは、その肉体の大部分を無数の蝶々へと変化させ、そして劇場内の各所へと散っていきました。元の子供姿のウルの質量がおよそ三十キロ程度だとして、それを数千体にも分割した形です。

 そのうち一体だけは以前に見せたような小人サイズになって、レンリの肩に腰掛けています。このウルが司令塔となって他の個体が得た情報をリアルタイムで共有し、そして仲間達に口頭で行き先を指示するという寸法です。これならば、劇場の関係者に見つかって侵入を咎められる恐れはまずありません。


 ちなみに蝶々なのは見た目のイメージの問題から。

 別にゴキブリでもなんでも構わないけれど(というか、高速移動をするなら、むしろそちらのほうが機能的に優れているけれど)、以前にそれをやって味方に叩き潰された経験からウルも学習していました。

 幼児の身体が無数の虫に変わる光景というのはなかなかショッキングかつグロテスクであり、しかもそれがゴキブリやムカデなんかの存在感がやたらと強い種類となると、虫が苦手なルカあたりは卒倒しかねません。比較的、虫系に耐性のあるレンリやルグにしても、進んで見たい光景ではないでしょう。

 色鮮やかな蝶々も虫であることに違いはないけれど、まだギリギリでメルヘンチックだと言えなくもない……かもしれません。少なくともゴキブリよりは幾分マシなはずです。


 まあ、経緯についてはさておくとして。

 この姿なら劇場の関係者に見つかってもほとんど無視されるでしょうし(虫だけに)、天井近くを飛べば捕まる心配もありません。なんなら更に細かく分割すれば鍵のかかった密室にも、ほんの僅かな隙間から侵入することができます。極小の菌類やスライムにでもなれば、実質、施錠など無意味です。


 もっとも、変身能力にも欠点がないわけではありません。

 あまり小さくなりすぎると、運動能力が損なわれて自力移動が難しくなってしまいますし、感覚器官の機能が大幅に制限され捜索には向かなくなってしまいます。


 それに変身能力の仕様上、変身後の姿にメンタル面が引きずられる傾向があるので、根本部分は同じウルなのに協力してくれない個体が出てくる恐れがあるのです。

 現在レンリ達が「ウル」として認識して交流している幼女形態は、あくまで本体である迷宮が作り出した化身(アバター)の一つ。他の化身に対して協力を要請することはできても、絶対的な命令権を持つわけではありません。大本が同じなので、大抵の場合、自分同士で意見が割れることは多くないのですが。

 ただし、菌類だのスライムだのとなると、どういう精神性に変化するのかウル自身にも読めなくなってしまうので、自分から進んでなりたいものではありません。仮にやるとしても、切り離して別個体として独立させるのではなく、安定した自我を持った個体が肉体の一部だけを変化させるような形が無難でしょうか。


 ……と、細々とした制限はありますが、想定される事態のほとんどは要所要所で分割と再結集を繰り返せば問題ありません。少なくとも、今回の場合については、能力の限界を試されるような事態にはならないでしょう。

 本体の迷宮内部で振るえる絶大な能力とは比べ物にもならない弱い力しか発揮できないため、ウル自身は迷宮外での己の能力を軽く見ているきらいがありますが、弱い力も要するに使い方次第。

 完全に使いこなせたならば、今の制限下にある能力だけでも恐ろしく有用です。

 あまりにイメージが悪いので彼女自身は決してやりたがらないでしょうし、また他の「ウル」も協力を拒む可能性が強いですが、あくまで可能性の話としてなら無数の毒虫や病原菌となって敵に纏わりつくだけで、この世の大半の生物には勝てるでしょう。どれほどの武術や魔法の達人であろうとも、そんな強さなど全くの無意味に帰してしまう。そんなものは戦いとすら呼べません。ほとんど反則とすら言えます。


 まあ、それは極論として。

 ウルの本領は、迷宮内で発揮できるような物量攻撃などではありません。

 変幻自在に伸びて突き刺さる樹木や、強大な猛獣の群れは確かに強力ではありますが、そしてウル自身もそういった戦法を好んでいますが、残念ながらそれでは能力を使いこなしているとは言えません。


 そんな大きな力などなくとも、もっと弱く小さい力だけでも勝利には届きます。

 むしろ、弱く小さいからこそ勝てる場面もある。

 迷宮本来の強大な力など持ち出さずとも、むしろ、物量攻撃による力押しができない弱さゆえに、今のウルは本来勝ち目がないような格上の強敵相手にも勝ち得るのです。






 ◆◆◆






『見つけたの!』


 そして、劇場の舞台上にて。

 ウルはとうとう因縁の相手を見つけました。



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