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手がかり到来?


 怪しい男達に危うく捕まりそうになってしまったラックとフレイヤ。

 まあ怪しげも何も、本当はワルモノでもなんでもない職務と雇用主に忠実な伯爵の部下達なのですが、そんな風に見えてしまったのですから仕方がありません。


 それに、そんな誤解を正すチャンスはまたも失われてしまいました。

 突如、どこからともなく現れたライムが、何が起こったのかも分からないほどの早業で男達全員の意識を刈り取ったのです。



「無事?」


「おかげさまで。いやぁ、助かったよ」


「そう」



 ライムとラックは特別親しいとまではいかずとも、一応の面識はあります。

 すぐ後から追いついてきたシモン同様、かなりの実力者であることも当然知っており、ラックもようやく安心して息を吐きました。

 ちなみに、この二人と一緒に行動していたタイムは彼らほど速く走ることはできないので、普通に徒歩で追ってきているはずです。



「えと、助かった……でいいのかな?」


「ああ、うん、僕の知り合い。なんで魚を担いでるのかは知らないけど」



 あまりの急展開に思考の切り替えが追いついていないフレイヤでしたが、どうやら新たに現れた男女がラックの知り合いらしいと聞くと、ようやく少し安心したようです。

 何故、魚を担いでいるのかはサッパリ分かりませんでしたが。

 特にシモンの持っている巨大マグロの頭部は路地の壁に引っかかって入れず、仕方がないので彼だけは付近の建物の屋根上から声をかけているという、ますます意味が分からない状況になっています。一時的にどこかに置くという手もないではありませんが、物が食品な上に贈答用として持ってきた品なので、そこらの地面にそのまま置くのは憚られたようです。

 まあ、少しばかり離れていようとも、会話をするのに支障はありません。



「ところで、そこの連中は何者だ? どうも、追われていたようだが」


「さあ? この子を狙ってるみたいなんだけど、詳しいことは僕も知らなくてねぇ」


「聞き出そうにも、その様子ではしばらく目を覚ましそうにないな。その男達の顔、どこかで見たような気もするのだが……」



 ライムが打ち倒した男達は、怪我こそしていないようですが、いずれも完全に意識を失っていました。剣で武装していましたし、無力化するために不意打ちで意識を奪うのは適切な判断だったとはいえ、彼らを起こして事情を聞きだすには時間がかかりそうです。

 シモンも彼らの顔になんとなく見覚えがあるような気はするようなのですが、後一歩のところで思い出せずモヤモヤしていました。普段は領主館の警備を務める彼らをシモンが見たことがあるのは当然なのですが、伯爵の忠実な部下たる彼らと集団で少女を追う悪漢(これも酷い名誉毀損ですが)としての彼らが上手く頭の中で繋がらないのでしょう。また、起きている状態と気を失っている状態では人の顔の印象というのは少なからず変わってくるものです。



「誰?」



 と、ライムがこれまでラックの後ろに隠れていたフレイヤに尋ねました。

 現在の彼女は全身がすっぽりと隠れるローブを着ており、印象的な赤髪もフードで覆われているので、すぐ近くにいるライムやシモンにも誰だか分かっていないようです。



「誰?」



 今度はライムはラックに尋ねました。

 彼もライムとの会話にそれほど慣れてはいませんが、視線をフレイヤに向けながら言っていれば、流石に意図を取り違えることはありません。

 フレイヤは、どうやら名の知れた有名人らしい自分の顔を晒すことで、また新たなトラブルの種になるのではと心配していましたが、



「ラック、ええと……」


「ああ、この二人なら顔を見せても多分大丈夫だと思うよ」


「うん、ラックがそう言うなら。助けてもらったしね」



 念の為、ラックに視線で問いかけて問題なさそうだと返答を受けてから、ローブのフードを捲り上げました。



「ん、おひさ?」


「む、貴女は? ラックよ、何故そなたらが一緒にいるのだ?」


「いやぁ、成り行きというか何というか。実は僕もあんまり分かってないんだけどねぇ」



 ライムとシモンの反応は、フレイヤ達にとっても少々予想外のものでした。

 メディアを通じて知ったり、舞台を見たことのあるファンというには距離感が近い。個人的な友人知人に対するような態度です。

 実際、シモン達はちょっとした縁があり、本来のフレイヤとは旧知の仲でありました。友達の友達とか、行きつけの店でたまに見かけるとか、その程度の浅い縁ではありますが。それでも、知り合って十年近くにはなりますし、直接話したことも幾度もあります。



「ええと、貴方達はアタシを知っているんですか!? あ、すみません、その前に……さっきは、ありがとうございました。お陰で助かりました」



 元々の自分を知っているであろう人物。それもラックの知り合いで、こうして追っ手を倒して救ってくれたのならば、「敵」の一味でもないだろう……と、フレイヤの気が急いてしまったのも仕方のないことではあるのでしょう。

 これまで、手がかりとも言えないようなか細い希望を追って街中を駆け回ってきた中で辿り着いた、間違いなく最大の記憶の鍵。この二人ともっとじっくり話せれば、それをキッカケに失われた記憶を取り戻せるかもしれない。

 しかし、だからこそ焦ってはいけません。

 良好な関係を作って二人の協力を取り付けるべく、きちんと助けてもらったお礼を伝えようと……したのが良くなかったのでしょう。



「ん?」


「む?」



 ライムもシモンも、途端に首を傾げました。

 二人の知るフレイヤは……まあ、悪い人間(魔族)ではないのですが、こんな礼節を弁えた振る舞いを見せる人物ではありません。なんというか、全体的にもっと自由奔放であるはずなのです。



「他人の空似?」


「よく似た別人か。まあ、世の中にはそっくりな人物が三人はいると言うしな。それにしてもよく似ているが」


「え? あの、え、人違い?」



 だから、そんな風に考えてしまったのも仕方がないのかもしれません。



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