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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
四章『響楽紅蓮劇場』

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踊りと聞き込み


 学都(アカデミア)の中心に位置する巨大な聖杖(アカデミア)(※この街の名前は杖の銘から取られたモノなのです)。その周囲に広がる広場では、今日も大勢の人々で賑わっていました。


 迷宮の出入り口とあってか、物々しい武装や野営用の大荷物を抱えた探索者の姿がまず目に留まります。そして、彼らを相手に薬や道具を売る露天の物売り。迷宮帰りの冒険者から、魔物の素材や不要な宝物を購入しようとする買取業者。


 それから懐具合が温かくなった隙を狙ってか、路上でパフォーマンスを行なう辻芸人なども見受けられます。

 通行人や店屋の邪魔にならない位置で、今日も幾人かが自慢の技を披露していました。芝居に曲芸、踊りに音楽。じっくり見物しようと思えば、この広場をぐるりと一周するだけで一日退屈することはないでしょう。


 昼食を終えたレンリ達はそんな広場の一角、南国風の露出の多い衣装を纏った踊り子達の芸を見物に訪れていました。褐色肌のダンサーは二人組。この辺りの国ではあまり見ない顔立ちで、艶やかな黒髪と胸帯一枚で覆っただけの豊かな胸が人目を引きます。そっくりな顔をしているので、きっと一卵性の双子でしょう。年齢は恐らくレンリやルカ達と同年代か少し上の十代後半くらいでしょうか。



「サァサァ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい」


「御代は見てのお帰りだヨ!」



 双子の踊り子は十分に観客が集まったと見るや、くるくると回るように舞い始めました。その様子を見たレンリは関心したように呟きます。



「おや、舞踏魔法とは珍しい」


「あの踊りも、魔法……なの?」


「まあ、見てればすぐ分かるさ」



 変化はすぐに目に見える形で現れました。

 踊り子達が軽やかなステップを踏むと、何も無い中空に水の蝶や光の珠が出現し、踊る二人の周りを飛び始めたのです。一般的な魔法使いが使うような杖など持っていませんし、呪文の詠唱らしき言葉も口にしていませんが、このような現象は魔法以外にはありえません。



「あれは、踊りの振り付けに詠唱みたいな意味があるんだよ」


『へえ、人間は面白いことを考えますね』



 魔法と一口に言っても、その種類や発動方法は多岐に上ります。例えば、レンリが魔法を使う時は特定の呪文を唱えたり、意味のある文字や図形を描くことで効果を発揮しますし、この場にいないライムなどは頭の中で強くイメージするだけで術を発動させることもできます。

 魔法の効果を発現させる過程、詠唱段階には色々な方法があり、舞踏という動作もその一種。ステップを踏む際の足幅や手指の振り付け、それら一つ一つに魔法的な意味があり、正しいリズムでその動作を行なうことで術を発動させるのです。現在、双子の踊り子が使っているのは、水や光を意のままに操るという魔法なのでしょう。


 くるくると独楽(こま)のように回転しながら、時に繊細に、時に大胆に。顔がそっくり瓜二つな上に動作も完全に左右対称なので、誇張ではなく鏡写しのようです。

 そんな見事な芸を披露しているのが異国風の美少女達――しかも扇情的(セクシー)な衣装の―――となれば観客が増えていくのも自然の道理。最初から最前列で見物していたレンリ達の後ろには、いつの間にやら人だかりが出来ています。



「サァ、そろそろフィニッシュだよ」


「お客さん達、見逃さないでネ」



 十分間近くも続いた踊りの最後は、二人同時の宙返り。

 くるりん、すとん。

 無数の水の蝶と光の珠が集まって作る輪を潜り抜け、見事に着地。淡い光を放って宙に溶ける魔法の残滓を浴びながら、深々としたお辞儀をもって芸の終わりとなりました。







 ◆◆◆







「やあやあ、お見事。すっかり堪能させてもらったよ」


 投げ込まれるおひねりの回収が終わった頃、レンリは双子の踊り子に声をかけました。



「アレ、さっき一番前で見てた子だね?」


「どうかしたノ?」



 この辺りの言葉に慣れていないのか微妙な訛りがありますが、会話に困るほどではありません。レンリは気にせず、二人の踊り子に尋ねました。



「キミ達はあの飛空艇の一座の人間だろう? ちょっと、キミ達の座長さんについて聞きたいことがあるんだけど――」



 レンリが考えた歌姫探しのアイデア。

 それは、目当ての人物が仕切る一座に所属する者に聞くというものでした。もう一つ、気配を頼りに遠く離れた者を探せるライムに手伝ってもらう案もありましたが、そちらはルグの強い反対によって却下されています。むざむざ犠牲者を増やすこともありません。というか、今度こそ本当に騎士団沙汰になってしまうかもしれません。


 それはさておき、本命の捜索案についてです。

 今日は何故だか少なめでしたが、それでも学都のあちこちで炎天一座の所属芸人が活動しています。彼ら彼女らであれば、探すのは難しくありません。現在の居場所を知っているとまでは期待せずとも、何の手がかりも無い状態で当てずっぽうで探すよりはよっぽどマシというものです。

 一座の身内であれば当然仲間の趣味嗜好も把握しているでしょうし、どういう場所に行きそうかというヒントが得られるであろう……そんな考えは、本来であればそう的外れなものではなかったのでしょう。

 まさか、探している本人が自身の好みもロクに分からない記憶喪失に陥っているなどとは夢にも思わないでしょうし、このズレに関しては仕方がありません。



「ウーン、そうだね。フレイヤちゃんが行きそうな所っていうと……」


「お菓子屋さんに、可愛い服屋さんに、それからオモチャ屋さんもありそうだヨ。動物のヌイグルミとか好きだからネ」


『他はともかく、オモチャ屋って子供みたいですねぇ』


 

 子供そのものな姿のゴゴが率直な感想を述べましたが、手がかりになるかというと微妙な線かもしれません。加えて言うなら、一座の人間も全員がフレイヤ行方不明の件を詳しく知らされているわけではなく、この双子も事態を正確に把握してはいないのです。

 意図的に漏らすつもりがなくとも、何処で誰が聞いているか分かりません。スキャンダルを避ける為にある程度の情報制限は仕方ないとはいえ、情報量の落差によって、どうしても温度差が出てきてしまいます。



「やっぱり、そう上手い話はないか」



 関係者に話を聞いても、行き先を絞るには漠然とした情報しか得られませんでした。人海戦術で街中の店を探せるならともかく、たったの四人では手分けしても全部の店を当たるのは不可能です。

 やはりウルの助力が得られなかったのが悔やまれます。

 まあ、どっちにしろ今のフレイヤが普段の傾向通りにそれらの店を目指す可能性はかなり低いので、結果的には変わりなかったかもしれません。今の彼女達には知る由もないことですが。



「協力ありがとう。また今度見に来るよ」


「ウン、またね」


「あんまり役に立てなくてごめんネ」



 こうして、すっかり当てが外れた形となったレンリ達は、聖杖前広場を後にしました。手がかりは全くのゼロではないにしろ、限りなくゼロに近いようなものでしょう。

 

 残念ながら、重要な手がかりは先程の問いでは得られませんでした。

 そもそも、そんな決定的な手がかりがあるならば、一座の側が苦労して秘密裏の捜索などする必要はなかったのですから当然ですが。







 ◆◆◆







 レンリ達の失敗は、目標が「何処を」目指すかを聞いてしまったこと。

 この時に場所ではなく「誰に」向かって行動するだろうかと聞いていれば、また違った結末もあったのかもしれません。



「ア、そうだ、思い出した。フレイヤちゃん、この街に友達がいるって言ってたよね?」


「そういえば、そんなこと言ってたネ。もしかしたら、その友達の所かもしれないし、さっきの子達が戻ってきたら教えてあげないト」


「ナマエはなんて言ってたっけ?」


「えーと、うろ覚えだけど、なんかこう羊毛(ウール)みたいな感じノ……」


 

◆最初は一話限りのモブのつもりで書いたけど、今回の双子ちゃんが結構気に入ってしまったので、もしかしたら再登場するかもしれません。

◆私用のため明日の更新はお休みします。

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