ランチミーティング
まあ、来たくないなら仕方ない。
一身上の都合でウルだけは同行を拒否しましたが、それでも三人もの味方を手に入れることができました。熱心に探そうとしているのはルカだけで、レンリ、ルグ、ゴゴはさして有名人との邂逅に執着してはいないのですが、それでも大きな戦力アップ間違いなし。
腕力で解決できる問題ならともかく、知力、体力、時の運がモノを言う人探しのようなミッションにおいては、むしろルカが一番頼りになりません。それは本人もよく知っています。悲しいことに。
『姉さんが協力してくれたら簡単だったんですけどね』
「あ……そっか。残念……」
『まあまあ。たまには、地道な探偵ごっこも面白いかもしれませんし』
ウルの協力が得られていれば、無数の鳥や虫に変身して数の暴力で虱潰しに街中を探すこともできたのですが、今更言っても仕方がありません。
一見ただのおバカな幼女に見えて、実際おバカな幼女であることに違いはないのですが、それはそれとしてウルの能力は迷宮外の不完全な状態であっても中々どうして凄まじいのです。本人がその能力を十全に使いこなせているかはともかく。
ゴゴに指摘されてルカも遅まきながらに気が付きましたが、レンリに昼食代を貰ったウルは既にこの場を離れています。まあ、あの様子だと食い下がって頼み込んでも、協力して貰うのは無理だったでしょうけれど。
「とりあえず、私達もどこかでお昼にしないかい? 話は食べながらでもいいだろうさ」
「それもそうだな。今日は何にする?」
捜索隊の中では消極的な二人、レンリとルグからは腹ごしらえの提案が出てきました。腹が減っては戦は出来ぬ。戦ならぬ人探しであろうとも、腹ペコのままでは士気が上がらないでしょう。既に朝食は綺麗サッパリ消化済み。生きるための栄養補給ではなく一種の趣味、純粋な嗜好品として食事をするゴゴはともかく、ルカも少なからずお腹が空いています。
歌姫を探すにしても何か手がかりがあるワケでなし。
初手から休憩というのも締まらない話ではありますが、締めねばならぬ理由もなし。まず一行は空きっ腹を埋めるべく、どこで昼食を摂るか相談をすることから始めました。
◆◆◆
「お、おいしかった……ね」
「ああ、魔物肉も奥が深いな」
ルカ達が今日の昼食を摂ったのは、引退した元冒険者が経営しているという、魔物料理専門の料理店。迷宮が街の中心にあるという特殊な立地ゆえ、学都では市場に魔物肉が出回ることは珍しくありませんが、牧場で飼育された家畜に比べるとどうしても品質にバラつきが出てしまいます。
また風味や食感に癖があったりして、牛や豚などと同じように調理しても、美味しくならなかったりすることもあるでしょう。そういう難しい食材は食肉業者が販売する段階で弾かれてしまい、そもそも一般消費者の目に留まらないことも多いのですが。
魔物に限らず狩猟食材とはそういう物だと言ってしまえばそれまでですが、しかし、世の中にはそういう一癖も二癖もある食材を美味しく食べることに情熱を燃やす変わり者もいるのです。
普通の冒険者や料理人なら見向きもしないような安物も、工夫次第では高級食材にも劣らぬ美味になり得ることを証明するため……というほど崇高な理念があるのか、それとも単なる意地なのかは当の料理人達に聞かないと分かりませんが、要するにこの店では普段見かけないような珍しい魔物肉を美味しく食べられるというワケです。
普通なら廃棄されるか捨て値で売られるような食材もメニューに載っているので全体的に価格も抑え目で、お財布に優しいのも見逃せないポイントでした。
店のオススメ料理を適当に選んで注文したのですが、「名状しがたい触手生物のフライ」や「黒い仔山羊の腸詰」、「タコに見えなくもない深海生物のオイル煮」などは香草で上手く風味の癖が抑えられており非常に美味。
いずれもルカ達が迷宮で遭遇したことのない魔物ばかりでしたが、まだ入ったことのない第三迷宮以降にはこんな魔物も棲息しているのでしょう。多分。あるいは、この街の迷宮ではなく都市外から持ち込まれた肉という可能性もありますが。
迷宮の運営サイドであるゴゴにも全く見覚えのない種類でしたが、彼女も管轄外の迷宮や世界中の魔物を完全に熟知しているワケではないので、あえて食材の出所を深く追求することはしませんでした。
「ふぅ、ご馳走さま。山羊ってこんな味だったかな? ……まあ、いいや。それよりルカ君、話を戻すけど探し方についてのアイデアは何か思い付いたかい?」
「ううん……それが、全然……」
食後、店を出る前にレンリがそう問うてきましたが、ルカには特にこれといった案はありませんでした。ルグやゴゴも同様にノープランのようです。
そもそも、ルカ以外は件の歌姫の容姿すら全く知らないか、うろ覚えかといった状態。せっかく腹ごしらえをしたというのに、全くのヒントなしでは探しようがありません。
「それなら、私に考えがあるんだけど、こんなのはどうだろう?」
ですが、レンリにとってその反応は想定内。姿勢そのものは積極的でなくとも、闇雲に探し回って疲れるのはイヤなのでしょう。食事をしながら目当ての人物を探し出すための方策を考えていたようです。
どうせ付き合うならば効率的に、最小限の労力で。
レンリは他の三人に向けて自分のアイデアを告げました。




