幸せなルカ
「はっはっは、よく分からないけど私達のおかげで解決したってことでいいのかな? いいよね? なぁに、礼には及ばないさ!」
紆余曲折を経て、元通りの友達としての関係に戻れたルカとルグ。
そんな二人の間に凄まじいまでに空気を読まないタイムが割り込んできました。ルカが頑張って話している時はおとなしくしていたのですが、仲直りが成ったなら黙っている理由はないということなのでしょう。
「あー……ハイ、ソウデスネ」
「えぇと……? ありがとう……ござい、ます?」
「ん、どういたしまして」
「そうそう、人として当然のことをしたまでだよ」
随分と恐ろしい「当然」もあったものですが、ルグは渋々と、ルカも疑問の色が多々混ざっていましたが、一応は恩人であるような気がしないでもないエルフの姉妹にお礼を言っておきました。
この姉妹からすれば、先程の一件は本当に喧嘩の仲裁のつもりだったのでしょう。それに、ここまで迅速な解決ができたのは、確かにこの姉妹のおかげと言えなくもありません。法的・倫理的には少なからず問題がありましたが。
「よし、じゃあ皆で何か甘い物でも食べにいこうか? お姉さんが奢ってあげよう」
先程からずっと通りの真ん中で話しているので、当たり前ですが通行の邪魔になっています。一同はタイムに誘われるがままに、場所を変えることになりました。
◆◆◆
たまたま目に付いたお茶屋に入り、皆それぞれに飲み物や甘い物を注文しました。
糖蜜につけながら食べるアーモンド入りビスケットやクッキーなどが中心で、怪我が治りきっていないルグでも片手で食べられる物が多くありました。彼一人だけなら、それでも多少は難儀したのでしょうけれど。
「お砂糖……何個、入れる?」
「ん? ああ、ありがと。それじゃ二つで」
まだ左腕が本調子ではないルグですが、ルカはそんな彼に隣席から甲斐甲斐しく世話を焼いていました。お茶に砂糖を入れたり、彼がメニュー表を見易いように開いたりする程度のささやかな手助けではありますが。
「……えへへ」
当のルカはとても幸せそうにしています。
決して恥ずかしくないワケではないのですが、今はそれより仲直りができた嬉しさが勝っている状態なのでしょう。逃亡が禁止されたことで、かえって覚悟が決まった部分もあるのかもしれません。
「俺の世話はありがたいけど、ルカもちゃんと食べろよ?」
「うん、ありがとう……ふ、ふふ」
ルグに他意がないのはルカにも分かっているのですが、世話を焼きっぱなしで食があまり進んでいないのを気遣われた程度の些細なことでも、すぐに嬉しくなってしまいます。
物陰に隠れながら一方的に見ている時よりも、やはりすぐ近くに一緒にいるほうが恋心というのは盛り上がるものなのでしょう。単に友人関係に戻っただけだというのに、今のルカははっきり言って相当に浮かれていました。
しかし、この場にいるのは二人だけではありません。
「あー……こほん。そこの二人、ちょっといいかな?」
わざとらしい咳払いと共に話に入ってきたレンリ。
彼女とウルは、これまでルカの邪魔にならないようにタイムとライムを相手に色々と話していたようです(ちなみにレンリが抜けた今は、ウルと一緒になって三人で山盛りビスケットの早食い競争をしています)。
改めて自己紹介をしたり、タイムがアカデミアに来た用向きを尋ねたり、そんなことをして注意を引いていました。なにしろ、タイム達がルカの想いを知ったら、どんな恐ろしい手段で応援しようとするか分かったものではありません。たとえ、それが裏表のない善意からであろうとも警戒するに越したことはないでしょう。
「で、ルカ君、さっき話してた劇場の件だけど――――」
「う、うん……?」
そして、レンリの言葉を要約すると以下のような内容でした。
タイム(とシモン)が劇場のオーナーである伯爵から直々に招待を受けた。
そして、タイムの友人としてならば一緒に貴賓席に入ることができるらしい。
レンリが貴族特権を駆使すれば同じように席の確保はできるけれど、どうせならタイムの身内扱いにしてもらったほうが確実かつ手っ取り早そうだ、と。
「うん、それなら……一緒のほうが、よさそう」
「そうそう、ルー君も一緒に来たまえよ。どうせ怪我が治るまでヒマだろう?」
「ああ、いいぜ。なんか面白そうだしな」
勿論、ルカに否はありません。
友人に余計な手間をかけさせずに済むなら、それに越したことはないのです。
それにレンリは自然な話の流れでさりげなくルグまで誘ってくれました。ルカにとってはこれも大変ありがたいことです。一人だったら誘う勇気を出すまで何日かかったかわかりません。
「ふふ……お芝居、楽しみ、だね」
色々な苦労はありましたが、無事に約束を取り付け、これで後は待つばかり。ルカはウキウキと弾むような上機嫌で、これから公演当日までの日々を過ごすのでありました。




