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お願いと質問


「おや、なんだか外が騒がしいと思ったら」


『お船が空を飛んでるの!』


 領主館から離れたマールス邸にて。レンリ達は応接間の窓から空を見上げていました。隣近所や付近の通行人の歓声で劇場艇の到来に気付いたのです。


 真っ赤な艇は地上からだと距離がある為にゆっくり進んでいるように見えますが、実際にはかなりの速度が出ているのでしょう。最初に気付いた時は青空にポツンと小さな点を浮かべたようだったのが、ほんの数分のうちにはハッキリと船体の様子が見て取れる距離にまで近付いていました。

 ある程度近付いてからは速度と高度を下げ、学都の外周部に沿うような軌道でゆっくりと旋回飛行をしています。


 大陸中央の有力国家はそれぞれ飛空艇を保有してはいますが、都市村落に暮らす人間がそれを目にする機会はほとんどありません。障害物のない高空を高速で、大量の物資や人員を輸送できる大型飛空艇は、その多くが軍事目的に利用されるのです。


 近年の国際情勢では大陸中央の国家間で戦争が起こる可能性はまずないのですが、敵は何もヒトばかりとは限りません。人間が住むことの出来ない峻険な山岳地帯や未踏の密林などは大陸内に少なからず散在していますし、そういった未踏領域には強大な魔物が生息している事が少なくないのです。

 大人しく住処にこもっていてくれるなら良いのですが、魔物同士の縄張り争いや食料の不足などでそういった魔物が人里にまで出てくる事があります。


 そういった危難に対して、一昔前であれば被害が出た後で国軍から討伐部隊を編成したり、在野の冒険者や傭兵を集めて立ち向かうのが常でしたが、高空からの定期警戒によって被害を未然に防いだり軽微に抑えることも可能になりました。

 国防の観点から非常に重要な役割を担う飛空艇は、だからこそ王族や有力貴族といえども私用で簡単に使えるような物ではないのです。



 いくら人気とはいえ、普通に考えれば民間の芸人一座がそんな貴重品を使えるハズがありません。ただ単に大金を積めば買えるような代物ではないのです。

 各国で飛空用の魔法装置の研究開発は進めていますが、どこの研究機関や工房も民間からの注文を受けたりはしないでしょう。


 そんな異例がこうして罷り通っている理由は、あの劇場艇が一座の長である人物が、とある特殊な機会と縁故によって獲得した私有物だからこそ。

 ただ単に私物というだけでは、欲深な権力者に難癖を付けられて接収される恐れもあったかもしれませんが、艇の入手経路については世に広く知られています。譲渡した元の持ち主を敵に回しかねない為か、幸いにもそのような愚か者が表立って敵対しに出てきたことはありません。



「炎天一座の劇場艇か。王都にいた頃に見たことはあったけど、相変わらずスゴいね」


「うん……す、すごいよね」


『あ、お船の人達が手を振ってるのよ』



 高度を下げたおかげで、目の良い者であれば上空の艇に乗っている人々の姿が見て取れるようになりました。乗組員には役者や歌手や演奏者など、有名な人気者も少なくありません。

 甲板から身を乗り出して眼下の街へと手を振っています。実力あるエンターテイナー揃いとあってか、こうしたファンサービスは手慣れたものなのでしょう。



『スゴいの! 我も乗ってみたいの!』


「う、うん……わたしも」



 ウルは自らの一部を鳥や虫に変えて小型化した状態で乗れば自力で飛べますし、ルカは鷲獅子(グリフォン)のロノに乗る手もありますが、ああした乗り物で飛んでみたいというのは、それらとは別種の欲求なのでしょう。

 一座の関係者や特別な伝手でもない限り現実的には難しいでしょうが、この調子だとウルなど自力で艇まで飛んで行って、勝手に乗り込むくらいしてしまうかもしれません。

 


「あ、あの……お願いが、あるの」



 今の状況はルカにとってまたとない好機と言えました。

 先程まで話していたシモンやタイムについての話題も上手く途切れてくれましたし、それに何より劇場艇の話が出た今ならば、自然と公演の貴賓席を都合してもらう流れにも繋げられるでしょう。ルカはなけなしの勇気を振り絞ってレンリに頼み事を切り出しました。



「へえ、ルカ君がお願いなんて珍しいね?」


「え、えっと……公演の、席のことで……」



 考えようによってはルカの目的の為にレンリを利用しているかのような形ですが、表向きの用件はルグやウル達を誘って皆で公演を観に行こうという当たり障りの無い内容です。

 品薄の一般席を全員分確保するのは現実的ではないので、貴賓席を利用できるレンリに協力してもらって全員が観覧できるようにしてもらう。それについても不審な点はないでしょう。


 ルカとしても、仲の良い皆で一緒に芝居を楽しみたいという目的自体に偽りはありません。それでも必要以上の後ろめたさを勝手に感じて、いつも以上にオドオドとしていましたが、それでもどうにか頑張って一通りの用件を伝えることができました。


 そして、頑張って伝えた甲斐はあったようです。



「うん、いいよ。じゃ、皆で予定を合わせて一緒に行こうか」



 拍子抜けするほどにあっさりと、レンリはルカの頼みを了承してくれました。

 これから劇場に貴賓席の空きや予約を問い合わせたり、ちょっとした手間はかかりますが、そう大した面倒でもありません。あとはレンリの家臣か身内か、何かしら適当な立場を称して入り込んでしまえば、皆でゆっくりと観劇を楽しむことができるというわけです。



『わーい、楽しみね! 我、頑張っておめかしして行くのよ』


「う、うん……楽しみだね」



 これでルグを誘う口実も手に入りました。告白や交際などはルカの精神の許容量を大幅に超えてしまうので当分無理でしょうが、それでも一緒に芝居を楽しむ過程で、再び普通に話せるくらいにはなれるかもしれません。


 まだまだハードルは少なからず残っていますが、それでも第一関門を突破できて少しは気が楽になったようです。大いにはしゃぐウルと一緒になって、ルカなりに喜んでいました……が。



「あ、そうそう。コレはちょっとした興味なんだけど、ルカ君に聞いてもいいかい?」


「う、うん……どうぞ?」



 突如、レンリがそんな風に話を切り出してきました。大事な用というよりは、ふと思い出したから一応確認しておこうという程度の気負いのない問いかけ方です。


 彼女の言う、ちょっとした興味から出た質問とは――――。



「キミはルー君のどういう所が好きなのかな?」









◆◆◆◆◆◆


《おまけ漫画⑤》

刀剣女子(ガチ勢)


挿絵(By みてみん)




プロットを見直して今後の展開を整理したいので明日の更新はお休みします。

キャラもだいぶ増えて入り組んできましたが、実はまだまだ増える予定なのですよ。

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