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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
四章『響楽紅蓮劇場』

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滞在先


「しかし、困ったな」


『何が困ったの?』



 肉食系女子達が熊肉をむさぼる謎の宴も一段落した頃、タイムはさして困った様子もなく軽い口調で呟きました。彼女がいったい何に困っているのかというと、



「ライムに泊めてもらって宿代を浮かせる算段だったんだけど……いや、まさかこんな所に住んでるとは思わなかったからね」


「住めば都」


『いや、我が言うのもなんだけど、それはちょっとどうかと思うのよ?』



 所持金を残らず酒代に充ててしまったせいで現在のタイムは無一文。

 この有様では宿代どころかパンの一つも買えません。


 当初は妹の住処にタダで泊めてもらおうと目論んでいたらしいのですが、ライムの自宅は迷宮の中という特殊な立地。森歩きで迷う危険もありますし、魔物に襲われる可能性も無くはありません。学都の街と日常的に行き来するには、普通の感覚であれば不便を覚えるでしょう。

 ライムは「住めば都」などと呑気に言っていますが、この迷宮そのものであるウルとしても本来はヒトが住む場所ではないという認識です。



 加えて、ライムの家は一人暮らし用でベッドや家具類も当然一人分。

 タイムがいつまで学都にいるのかはまだ本人にも不明ですが、無理をして二人暮らしをするとなると相当に窮屈な生活になってしまいます。

 泊める側のライムは性格上イヤとは言わないでしょうが、泊めてもらうタイムのほうが嫌がりそうです。迷惑になるから遠慮するとかではなく、単純に不便を嫌ってですが。


 当然ではありますが、この森の中には美味しいお酒の出てくる居酒屋も、薫り高いコーヒーを出す喫茶店も、ついでに本屋や雑貨屋や服屋、その他諸々の便利なお店もありません。

 仮にあってもお金が無い現状ではどうしようもないのですが、そういった些事は一旦忘れておきましょう。



「ふふっ、私は都会シティ派のエルフなのさ」



 平気な顔で街中の公園で野宿をし、生の熊肉を豪快にかっ喰らっていた人物のセリフとは思えません。随分と野性味溢れる都会派もいたものです。


 タイムの希望を大まかにまとめると、家賃を払う必要がなく、狭苦しさを感じない十分な広さがあって、便利な店屋が近くにあるような物件。勿論、そんな都合の良いだけの上手い話など……、


 

「あ、あの……」


「ん、なんだいルカちゃん?」


「よ、よかったら……うちに……」



 どうやら、そんな都合の良いだけの上手い話が、意外と近くに転がっていたようです。







 ◆◆◆







 現在のルカとその一家はシモンが個人的に所有する豪邸に暮らしています(事実上の保護観察処分みたいな側面もないではありませんが)。

 これほどの規模の豪邸は学都にも少なく、他には領主館くらいしかありません。シモンの実家である首都の王宮に比べればこじんまりとしていますが、それは比較対象として適切ではないでしょう。

 本来は大勢の使用人を住み込みで雇っていても不思議はないほどの規模なのですが、そんな家に住んでいるのは家主のシモンとアルバトロス一家の四人と一匹。


 はっきり言って、広すぎて持て余している状態です。

 文無しを一人泊めるくらいは全く問題ないでしょう。



「やあ少年、久しぶり! ちょっと見ない間に随分いい男になったじゃないか」


「うむ、貴女は相変わらずのようだな。壮健そうで何よりだ」


 

 それに、ライムの姉であるタイムは当然シモンとも面識があります。

 ルカが逗留を勧めたのは、その辺りの関係性を見越していた部分もあったのでしょう。元々の知り合い同士なら双方共に安心できます。


 そして家主のシモンが決めたのであれば、他の皆にも否はありません。

 特になんの問題もなく、タイムはあっさりと彼らの屋敷に滞在することが決まりました。



前回の「熊の刺身」は某格闘漫画のパロディネタだったんですが、気付いてくれた方がいて安心しました。ちなみにマイナーですが郷土料理として実在するそうです。リアル熊は寄生虫のリスクが高いので生食は避けたほうが無難だそうですが。

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