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続・作戦会議


 シモンに頼みを断られてしまった翌朝。

 劇場近くの公園ベンチにて。

 ルカはその旨を協力者の二人、ウルとゴゴに伝えました。



「だから、無理……みたい」


『なるほど、流石にそれでは我慢して付いてきてもらうワケにもいきませんね』


『まったく、シモンさんのお姉さん達……お義姉(ねえ)さん達にも困ったものなの!』



 貴賓席を利用する為の最有力の手段が潰えてしまったのは残念ですが、流石にそれほど苦手に思っている人間を無理矢理引っ張っていくワケにも参りません。


 人が好いシモンのことですから「どうしても」と強く押せば折れてくれる可能性もあるかもしれませんが、そうなった場合、彼は本当に倒れるまで無理をしてしまうでしょう。何気に観劇が楽しみになってきたらしいゴゴやウルも、そうと聞いたら受け入れざるを得ませんでした。



『まあ、まだ手がないワケではありません。とりあえず、我が思いついただけでも可能性は三つほど残っています』


「三つ、も……?」


『結構残ってるのね?』



 ゴゴは指を三本立てて、それらのアイデアについて話し始めます。



『一つは、これまで通りに一般席のチケットをどうにか買う方法です』


「え……で、でも……」


『普通に買うのは無理でしょう。ですから、正直気は進みませんが――――』



 運に任せた抽選では、必要分のチケットを入手するのはまず無理でしょう。

 なので、既に当選した人を探して高額で譲って貰う。あるいは、ゴゴとウルの特性を活かして、本体である迷宮から今この場にいる以外の化身(アバター)を多数呼び寄せて抽選に参加し、数の暴力で抽選確率をねじ伏せるような力業。


 まあ、提案したゴゴ自身も気が進まないと言うように、どちらもあまり使いたい手段ではありません。前者は不当な転売行為に該当するのでこの国では犯罪扱い。取引に応じる相手を探すだけでもリスクがあります。

 ゴゴとウルの化身を大量に呼び寄せる方法は、実行すれば上手くいくかもしれませんが、いくら人数を増やしてもそれらは結局同一人物。露見する可能性は低いでしょうが、限りなく反則に近い方法といえます。ルカの性格上、罪悪感に苛まれるのは間違いないでしょう。




『まあ、これは一応言っただけですので』



 ゴゴとしても、明確な不正やそれに近い手段は極力取りたくはないようです。

 確実に成功する保障も無い上に、失敗した時のリスクが大きすぎます。



『二つめ。シモンさん本人ではなく彼の伝手を頼ります』



 シモン本人が劇場に足を運ぶのが無理ならば、彼の知り合いの貴族を紹介して話を通してもらえば、昨日の本命案のように従者扱いで貴賓席が使えるかもしれません。

 首都に比べたら遥かに少ないので気楽でいいとシモンは言っていますが、この学都においても上流階級同士の交流は存在します。


 しばらく前にシモン達が迷宮都市から帰った後にも、この街の領主をはじめ幾人かの屋敷に手土産を持参して挨拶回りをしていたようです。本来であれば王族であるシモンが自分から出向くのではなく相手を呼びつけるべきなのかもしれませんが、そこは彼のフットワークの軽さによるものでしょう。


 詳しい交友関係についてはシモン本人に聞かないといけませんし、そういう話の分かる貴族が確実にいるとも限りませんが、一つ目の案に比べたら遥かに見込みがありそうです。

 問題があるとすれば、極度に人見知りするルカが見知らぬ貴族の前で平静を保てるか分からない点でしょうか。緊張するあまり、舞台の内容がロクに入って来ない可能性も充分に考えられます。



『そして三つめ。これが本命ですかね?』


「ほ、本命……?」


『ええ、レンリさんにお願いします。あの方なら、ルカさんや姉さんが普通に頼めば否とは言わないでしょう。いざとなれば、我の身体を調べることを条件にすれば確実に飲むと思いますし』



 普段は全く意識することがありませんが、レンリはあれでも由緒正しい貴族のお嬢様。あくまで外国の貴族なので故国での威光には及ばないでしょうが、貴賓席を使う資格は充分にあるはずです。

 友人である彼女ならルカも緊張することはありませんし、ルグも含めて皆で行こうと誘うのもより自然な形で出来ます。むしろ、ルカ自身真っ先に思いついて然るべき案でした。


 

「うん……お願い、してみる、ね」


『そうなったら善は急げね! 早速行ってみるのよ!』



 依然マールス邸に居候しているウル曰く、レンリは最近自室か庭の工房に篭り切りになっているのだとか。わざわざ居場所を探す必要はなさそうです。三人は早速頼みに向かおうとベンチから腰を上げました。










 ◆◆◆








 ……が、どうやらここ最近のルカは物事が思い通りに運ばない宿命にあるようです。



「あ、あれ……?」


『ルカお姉さん、立ち止まってどうかしたの?』


「今、そこから……物音が……?」



 ベンチから立ち上がって数歩。まだ公園の敷地から出るよりも前にルカは足を止めました。視線の先にあるツツジの植え込みからガサゴソと妙な物音が聞こえたのです。


 

『猫か何かでもいるんじゃないですか?』


「それにしては、大きい……ような」



 音の正体が気になったルカは何気なく植え込みのほうへと近寄り……そして。



「え? ……きゃっ!?」


『どうかしましたか……っな、人が!』


『大変! 誰か倒れてるの!?』



 なんと、そこには金髪の女性が倒れていました。

 先程の物音はこの人物が身じろぎした際の音だったのでしょう。

 しかし、今はピクリとも動きません。

 これには三人も腰を抜かさんばかりに驚きました。



「ど、どうしよう……!?」


『まずは騎士団に通報を! 姉さんは巡回中の兵士の方を探してきてください。それと医者も必要ですね。そっちは我が行きます!』


『わ、分かったの!』



 事件か事故かまでは不明ですが、何にせよ尋常な事態ではありません。

 三人は大いに慌てながら、どうにか対処しようと動こうとしましたが、







「……ふぁ。いったい何の騒ぎだい? うるさくて目が覚めちゃったじゃないか」


「え……? あ、あの、ごめん……なさい?」



 どうやら、この人騒がせな女性は茂みの中で眠っていただけだったようです。



「まあ、いいさ。うん、よく寝た。実に清々しい朝だね」


『もうお昼過ぎなのよ?』


「そうかい? まあ、どっちでもいいさ」



 ウルが指摘しましたが女性はどこ吹く風。

 大きく伸びをしてから、ガサガサと植え込みを掻き分けて出てきました。

 葉っぱやら蜘蛛の巣やらが髪や服にくっ付いていますが、特に気にした様子もありません。


 そしてルカ達の注目もまた、そうした付着物からは外れていました。それというのも、その女性には彼女達の知人を連想せざるを得ない大きな特徴があったのです。



「ところで、そこのキミ達。一つ尋ねたいんだが、私の妹を知らないかい? こんな耳をしてるから人間の街じゃ目立つと思うんだけど」



 「こんな」と言って示したのは、蜂蜜色の金髪から飛び出ている長く尖った耳。

 そのエルフの女性は呆気に取られる三人の様子も意に介さず、どこまでもマイペースに尋ねました。




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