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オヤツタイムと作戦会議


 ルグから逃げた先の路地裏でウルとゴゴに捕まってしまったルカ。協力者を自称する二人はここ数日、何故だかよくルカにちょっかいをかけに……否、恋の進展を応援しようと頻繁に会いにくるのです。


 一応、その裏には彼女らなりの隠れた思惑もあるにはあるのですが、実態は新しいオモチャを手に入れて楽しんでいるのとさして変わりません。

 ウル達の本質は迷宮そのもの。人間どころか尋常の生物ですらないとはいえ、この場にいる彼女達のメンタルは化身(アバター)の肉体由来の「少女らしさ」にかなり寄っています。目的の表裏を抜きにしても、純粋に恋愛というイベントに興味津々なのでしょう。





『まあ、ひとまず場所を移しましょうか? 近くに良い店があるのですよ』



 まあ何を話すにせよ場所が埃っぽい路地裏というのは、あまりよろしくありません。ひとまず場所を近くの菓子店に移すことになりました。時刻は昼食と夕食のちょうど間。午後のお茶には良い頃合です。


 三人は南街の商業区にある『ひばり亭』という店に入りました。

 ルカは知らない店でしたが、食べ歩きを趣味とするゴゴの誘いで来たことからも、味に間違いはないでしょう。なんでも季節折々の果実や木の実を使った品がオススメなのだとか。



『むむぅ、どれにしようか迷っちゃうの』


『違うのを頼んで、ちょっとずつ交換するのはどうです?』


『おおっ! それは良いアイデアね!』



 実りの秋とはよく言ったもので、菓子店のショーケースには季節の栗や甘藷(サツマイモ)、葡萄や梨といった旬の食材を使った品が並んでいました。

 いったい何を選んだものか?

 楽しくも悩ましい問題です。単純に予算の都合もありますし(ルカとゴゴは自腹。ウルはレンリから時々貰うお小遣いを遣り繰りしています)、ここであまり食べ過ぎると夕食が入らなくなってしまいます。



 最終的な注文は、ウルが季節の果物と甘く煮た栗やクリームを盛り付けたパフェ。サクサクした小麦の焼き菓子や薄いチョコレートの板で華やかに飾られています。

 ゴゴとルカは甘藷(サツマイモ)のペーストがぎっしり詰まったスイートポテトパイ。まだ焼き立てで熱々のパイには、贅沢にもアイスクリームまで添えられていました。



「お、おいしい……ね」


『うん! やっぱり人間の食べ物は美味しいの!』



 ルカだって甘いお菓子は大好きです。

 サクサクホロリと崩れるパイ生地はバターの風味がたっぷりで、甘い芋のフィリングはどっしりしているのに絹のように滑らか。冷たいアイスクリームと熱々のパイの組み合わせも良い塩梅です。じっくり楽しもうと思っていたのに、つい先を急ぐようにフォークが伸びてしまいます。


 なんとも現金なものですが、先程までの重苦しい悩みはどこへやら。ルカはふにゃりと頬を緩めて幸せそうな顔をしています。

 食べ終えたらまたすぐに悩むのでしょうけれど、今ばかりは悩みに羽根が生えて飛んでいってしまったかのように幸せな気分になっていました。








 ……が、そんな楽しいだけの時間は儚いもの。



『じゃあ、そろそろ作戦会議を始めるの!』



「やっぱり……やらなきゃ、ダメ……かな?」



 本日の主題はオヤツではなく、あくまでコチラ。

 どうにかしてルカとルグの仲を縮めようという作戦会議こそが本番です。



『我はやっぱり正面から告白するのがいいと思うの! ガンガン当たって砕けるのよ!』 


「あ、あの……砕けるのは、ちょっと……あと、できれば、なるべく無理のないので」


『発言を却下するの』


「あぅ……」



 何故か問題の当事者であるルカではなく、ウルがこの場を仕切っていました。

 基本口下手で恥ずかしがり屋なルカに任せていたら、いつまで経っても事態は進展しないでしょうし、一応適材適所ではあるのでしょう。とはいえ、ウルの案や方針はあまりにも前のめりの度がすぎるので、あくまでも「比較的マシ」という程度ですが。



『はい、姉さん……じゃなかった、議長』


『んむ、ゴゴの発言を認めるの』


『ルカさんの性格では直接のアプローチは現実味が無いかと。それなら、手紙で話したいことを伝えるのはどうでしょう?』



 ウルの会議ゴッコに合わせてか、ゴゴはピシっと挙手をしてから発言をしました。直接顔を合わせるのが恥ずかしいなら、手紙で意思疎通をすれば良いのではという案。比較対象が論外な点にさえ目を瞑れば、なかなかの良案に思えます。



「そ、それ……いいかも?」


『おお、ラブレターね! そういうのも味があって悪くないの』


「ラ……ラブレ……っ!?」



 恥ずかしくてルグと会話も出来ない現状から思えば、手紙でやり取りというのは悪い手ではありません。とはいえ、いきなりラブレターはハードルが高すぎるようです。ルカは真っ赤な顔を両手で覆って俯いてしまいました。



『最初は近況報告とか、時候の挨拶などから慣らしていくのが順当ですかね?』


「それくらいなら……す、すごく頑張れば、どうにか……」


『すごく頑張って挨拶だけなのね。やれやれ、先が思いやられるの』



 手紙を介しての挨拶と近況報告。これまでの関係を考えると物凄く他人行儀ですが、それでも全くコミュニケーションが取れない状況からは一歩前進するはず。そこから徐々に慣らして距離を詰めていけば、また普通にルグと話せるようにもなるかもしれません。



「じゃあ……帰りに、封筒とか買って……書いてみる、ね」



 実は、このような会議はここ数日毎日開かれていたのですが、今日はこれまでで初めてと言ってもいいくらいに珍しく建設的な会合になりました。

 ちなみに昨日までに出た案はというと『押し倒せ』、『洗脳』、『色仕掛け』などのヒドいものばかり。なにしろ幼女二名が面白半分どころか面白九割くらいで無責任な意見を飛ばすので、ルカは毎度翻弄されるばかりなのです。今回はそれらから比べれば大きな前進でした。



「えぇと……とりあえず、一日百通くらい送れば……足りる、かな?」


『何が「とりあえず」なの!? 滅茶苦茶怖いのよ!』


『ルカさん、一旦落ち着きましょう。いいですか、まずは最初の一通を送ることだけ考えましょうね?』


「う、うん……?」



 まあ、ルカもルカで相当にズレた部分があるのですが。

 ルグのスケジュールを把握して追跡(ストーキング)したり待ち伏せたりという時点で相当ギリギリなのに、そこまでいったら完全にアウト。どう見てもホラー案件です。ついでに騎士団ポリス案件にもなってしまうでしょう。


 無自覚に暴走するルカの手綱を握る意味でも、ウル達の協力を得られたのは、あるいは千載一遇の僥倖だったのかもしれません。



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