ルカ、落ち込む
「き、今日も……逃げちゃった……」
さて、ルグに声をかけられて反射的に逃げ出してしまったルカですが、走り去った先の路地裏でまたもや自己嫌悪に陥っておりました。
このような振る舞いは初めてではありません。
ルグは基本的に早寝早起きの規則正しい生活をしていますし、リハビリの為の通院や買い物等の外出も毎日ピッタリ同じ時間。スケジュールを把握して待ち伏せたり追いかけたりすること自体は容易なのですが、いざ彼の姿を前にするとルカの心臓はバクバクと鳴り始め、とてもまともな受け答えなど出来ないほどに頭が茹ってしまうのです。
いくら臆病なルカといえど、普通は他人を前にして逃げ出すには至りません。
これほどまでの過剰反応を示すのは、あくまで相手がルグだからこそ。彼に対して抱く不慣れな感情を持て余してしまっているのです。筋金入りの対人経験及びコミュニケーション能力不足が悪い方向に作用していました。
これでは実質ストーカー。折角列車強盗事件のお咎めが軽く済んだというのに、これでは別件でお縄になっても文句は言えません。まあ、対象となるルグ本人はそういう意味では全く気にしていませんし、実際に捕まることはないでしょうけれど。
「ど、どうしよう……?」
無論、現状は好ましいものではありません。
仲の進展どころか、まともに会話もできないのでは、迷宮探索を再開した際に大きな支障も出てしまうでしょう。今はルグが療養中ということもあり、雇用主であるレンリも研究に集中しているようですが。
ですが、この状況はいつまでも続くものではありません。
ルグの治療やリハビリは順調に進んでおり、一ヶ月もあれば衰えた筋力を戻して以前と同じように動けるようになる見込み。それ自体は好ましい事ではあるのですが、迷宮に入るとなると当然彼と間近で接するようになるでしょう。その時に全くコミュニケーションが取れないようでは大いに困ります。
仲直り、というのはこの場合正確ではないかもしれません。
そもそも、ケンカをしたり互いに悪感情を持ったわけではないのです。
一気に恋仲を目指すとまでは望まないけれど(そんな事になったらルカは嬉しさ以上に緊張と動揺で目を回してしまうでしょう)、せめて以前と同じ程度までは仲を修復する必要がありました。
逃げ込んだ路地の先で、ルカが何度目になるか分からない反省と自虐に陥っていると、
『くんくん……ふふふ、この辺りから恋愛ダメダメな負け犬臭がするのよ?』
『おやおや、またですか? 臆病鶏はもう食べ飽きたんですけどね』
「うぅ……ご、ごめんなさい……」
他人の恋愛話は蜜の味。
自称協力者を名乗る迷宮産幼女達、ウルとゴゴの二人組が心底楽しそうにニヤニヤしながら、ルカをからかいに……もとい、彼女に助言を与えるべく姿を見せました。
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《オマケ》
③




