ルグの悩み
お待たせしました
四章スタートです
季節は秋。
夏の気配もすっかり失せて、木々の葉も赤や黄色に装い始めていました。
もう一月もすれば今度は寒い冬が姿を見せるのでしょうが、今しばらくは暑くも寒くもない過ごしやすい日和が続くことでしょう。学都の街は、いつもと変わらず活気に満ち満ちています。
「はぁ、参ったな」
しかし、そんな賑わいの中を、赤毛の少年が景気の悪い顔をしてトボトボと歩いていました。見た目の頃は十から十二といったところでしょうか。
しかし実際には今年で十五歳になる童顔の少年ルグは、包帯で吊った左腕を庇うようにしながら自宅である共同住宅への帰路を歩んでいました。
とある事故で手足に大怪我を負った彼はつい先日まで入院していたのですが、既に帰宅の許しも出ており、現在は定期的に通院しながらリハビリに励む毎日です。足の骨折はもうだいぶ良くなっているので、走るのはまだ無理ですが歩くだけなら問題ありません。
本日も病院で腕の診察とリハビリを受けてきたところで経過は順調。もう一月もすれば完全に元通りになるだろうと見られていますが、ルグの表情は決して明るくありませんでした。
「ヒマだー」
憂い顔の理由は単純。医師によって当分は激しい運動を禁止されてしまっているのです。言いつけを破ったら折角繋がった神経がまた千切れてしまうかも、なんて注意されてしまってはこっそり破るわけにもいきません。
普段の迷宮探索は元より、休日でも一日中運動しているようなルグにとっては、身体を動かしたり鍛えたりすること自体が趣味のようなもの。逆に言えば、それ以外には趣味らしい趣味もロクにありません。しいて言うなら料理の食べ歩きくらいのものでしょう。
入院中はレンリから借りた本を読んだり、見舞いに来た友人知人とお喋りをして無聊の慰めとしていました。ですが根がアウトドア派のルグにとって、毎日毎日朝から晩まで読書三昧というのは退屈しのぎを通り越して苦痛を覚えるほどですし、来客にしても話題には限りがあります。
治療のためには充分な睡眠と栄養を摂るのがいいのでしょうが、ここ最近ずっと寝続けていたせいか昼寝にもすっかり飽き飽きしていました。「寝る子は育つ」と言いますが、こんなにも連日連夜眠り続けていたにも関わらず、背丈は特に変わっていなかったようです。
そして、暗い顔の理由はもう一つ。
もっとも、これに関しては勘違いによる部分が大きいのですが、
「ん?」
今日もまた、その理由が顔を見せました。
通り沿いに店を構える商店の瑞々しい果実や野菜が並ぶ台の隙間から、見慣れた薄紫色の髪がピョコピョコと見え隠れしています。
「おーい! ……っと、今日もダメか」
近くの物陰から見つめていたルカは、ルグに気付かれたことを察すると、呼び声にも振り返らず脱兎の如く逃げ出してしまいました。
これについては、別に今日が初めてというワケではありません。
果たしてどのような用事があるのやら、ルグが外出した際にしばしば隠れて見ているのです。彼は毎回話しかけてはみるものの、気付いたことに気付かれたら話す間もなく逃げられてしまいますし、身体が治りきっていない状態では追うこともままなりません。
「こっちも、どうにかしないとなー……」
少し前までは普通に話せていたというのに、急によそよそしくなってしまった。
会話すら成立しないとは、よっぽど嫌われてしまったに違いない。
事の真偽はさておき、すっかりそんな風に思い込んでいたルグは、どうにかルカと仲直りができないものかと秋空の下で頭を捻るのでありました。
◆◆◆◆◆◆
《オマケ》
ウチの子達の暫定デザイン
左端から順にシモン、ライム、レンリ、ルグ、ルカ、ウル
また別案を思いついたら変えるかも
《オマケのオマケ》
①
②




