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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
番外編

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迷宮都市の迷宮にて


 迷宮都市には「迷宮」があります。

 この街自体がすでに生き物のように不規則無軌道に変貌する迷宮みたいなものですが、それとは別に魔物がいて罠やお宝があって冒険者が潜るような、ある意味真っ当な迷宮です。


 とはいえ、別に危険はありません。

 もう随分前に魔王やコスモスが趣味的に作った、一種のアトラクションのような施設があるのです。


 入口で難易度に応じた挑戦料を払えば誰でも入場できますし、魔物に関しても魔王がスカウトしてきた知能の高い種をエキストラとして起用していたりとか、術者が操る人形やゴーレムだったり等々。軽傷を負うくらいはあっても、大怪我をしたり死んだりすることはありません。


 そんな風に安全が担保されたお遊び要素の強い施設ですが、宝箱の中には挑戦料の元が取れるくらいには価値がある貴金属や武具なども入れているせいか、それなりに盛況。

 意気込みはあってもまだ実力の伴わない駆け出しの冒険者や兵士、腕っ節に自信がある一般人などが、度胸試しや訓練目的で入ることもあります。


 施設にはいくつかの迷宮へと通じる転移装置があり、中には子供だけでも安全に冒険気分を楽しめるような低難度のものもありました。








 ◆◆◆







 迷宮都市へと戻ってから早三週以上。


 シモンとライムの二人は迷宮都市の迷宮、その中でも一番利用者が多く、なおかつ難度の低いものへと向かいました。

 少額の挑戦料払って転移装置に乗り込めばあら不思議。

 大海に囲まれた平和そうな小島へと到着しました。

 周囲にいるのは子供や一般の女性ばかり。非武装の一般人でも安心して過ごせるような環境ですが、これでも一応は迷宮の一種なのです。戦闘や探索という観点からすると、この二人にとっては簡単すぎて退屈でしょうが、もとより今回の目的はそういった事ではありません。



「さて、では土産を確保せねばな」


「ん、狩る」



 彼らはこの島に生息する魔物を狩って、学都の友人知人に持ち帰るつもりでいるのです。それだけ聞くと実にワイルドで血生臭そうですが、実情はむしろメルヘン寄りでした。


 小さな島内には、ポテトチップスの羽根を持つ蝶や、チョコレートで出来た小型ドラゴン、グミのスライム、キャンディの実る果樹やジュースが湧き出す泉など他にも色々、童話の中にでも登場しそうな存在がそこかしこにいるのです。


 子供のお小遣いでも支払える程度の入場料で、島内のお菓子が食べ放題。

 しかも、本人が持ちきれる量であれば持ち帰ることもできるという大盤振る舞い。


 お菓子の魔物達に戦闘能力はほとんどないですし、ここの謎生物達は本能的にそうなっているのか、むしろ人間に食べられることを望んでいるフシがあるので抵抗の心配は無用です。

 まあ、ぶっちゃけ本職の菓子職人が手がけた品に比べると微妙に大味で、食べ続けていると飽きがくるのですが、純粋に楽しい場所ではありますし、その程度は些細な問題でしょう。



「甘い」


「美味いには美味いが、コーヒーでも欲しくなるな」



 ライム達は適当に目に付いた菓子を摘みながら、土産に適したモノがいないものかと探し歩きました。ビスケットとチョコで構成されたキノコとタケノコ――――何故かどちらも手足が生えた不気味な形でした――――が仁義無き縄張り争いをしている様子を見物したり、地上2mの高度に浮かぶ綿菓子の雲をピョンピョン跳びはねて捕まえようとする子供達を眺めたり、退屈はしませんでしたが中々ピンと来るモノは見つかりません。


 大して広くもない島なので、大人の足であればゆっくり見ても一回りするのに一時間もかかりません。さて何を持ち帰ろうかと考えていたところで、



「あれは?」


「む、彼奴か。そうだな、それなりに食べ応えもありそうだし」



 二人の目の前をこの島のボス、世にも珍妙な人語を喋る二足歩行型ロールケーキが通りかかりました。







 ◆◆◆







『おお、貴殿らは確かお館様の知り合いの。久しいでござる……なっ!?』


 インチキ臭い武家言葉で喋るロールケーキに対し、先手必勝とばかりにライムが鋭い手刀を放ちました。そこらの立ち木くらいなら素手でスパッと切断できるので、実質刃物と変わらない威力があります。



「外した」


「おお、見事な身のこなし」



 しかし、縮地による接近からのノーモーションの手刀を、ロールケーキは易々と回避しました。



『ははは、拙者を甘く見てもらっては困るでござる。いや、スポンジとクリームだし、甘くていいのでござろうか?』



 しかも、随分と余裕がありそうな口ぶり。

 この謎生物は、かつて魔王達が何を考えたのか自作のロールケーキに魔力を注いでゴーレム化したという存在で、変な方向にばかりやたらと高スペックなのです。


 この島のお菓子の魔物達もこのロールケーキが魔力で召喚したものですし、運動能力も今見た通り。スポンジやクリームや果物で出来ている癖に素早く動いても型崩れしませんし、稀に怪我をしたり、あるいは身体の一部を子供達に与えたりしても、魔力で損傷が自動回復します。

 減った分のスポンジやクリームも経過時間に関わらず常に新鮮な状態が保たれます。魔力さえあれば無限に食べ放題ですが、原理を気にしてはいけません。というか、本人(本ケーキ?)や造り主である魔王達にもサッパリ理屈が分からないのです。



「どれ、今度は俺が行こう」


『おお、追いかけっこでござるか?』



 今度はシモンが身体強化を発動させて接近しましたが、それも見切られてしまいました。瞬間的に背後に移動して掴みかかったはずが、そこにあったのは同サイズの丸太。本物は近くの木の上から余裕綽綽の様子で見下ろしています。

 シモンの膝下くらいまでしかないミニサイズなので、体格差がありすぎて捉えにくいというのもありますが、それでも大した運動能力でした。



『変わり身の術でござる』


「俺もあまり詳しくはないが……それ、サムライとニンジャがごっちゃに混ざってないか?」


 

 奥の手の重力結界を発動させれば問答無用で捕まえられるでしょうが、相手の身体そのものが目的である以上、潰してしまっては問題があります。



『ははは、拙者は二人がかりでも構わぬでござるよ?』


「むむ」


「む」



 微妙に煽られた感じのセリフで、二人ともちょっぴりムカっときました。

 あくまで、ちょっぴりだけですが。



「ならば、お言葉に甘えて二人がかりといくか。ライム?」


「ん、今度は本気」



 なので、今度は二人がかり。なおかつ身体強化の出力を最大まで上げて挟撃することにしました。捕獲目的ではありますが、下手に手加減しようとしたら捉えきれないと判断したようです。



『え? さっきのは本気じゃ……ちょっ、速いでござるよ!? くっ、拙者の分身を見切れるでござるかな!』



 対するロールケーキも理屈は一切不明ですが、本体と全く同性能かつ実体のある分身を十体以上も出現させ、先程の変わり身やアクロバットを駆使しながら互角に渡り合うのでした。



前作でもコスモスと並んでトップクラスの色物。

攻撃力は皆無ですが、俊敏性と再生力はかなりのものです。

スポンジ屑の欠片やクリームの一滴でもあればそこから瞬間的に全身を再生可能で、分身はその特性を利用しています。うん、意味がわからない。

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― 新着の感想 ―
出ました!ロールケーキマン!前作で大好きなキャラだったので、嬉しくなりました!最高ロールケーキマン!
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