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遊園地


 シモン達が迷宮都市に戻ってきて二週間ほど経った頃。



「あのね、日曜日にお祖父ちゃん達と遊園地にいくの!」


「よかったら、貴方達も一緒に来ませんか?」



 魔王一家の子供達やアリスから誘われたシモンとライムは、日本国の千葉県某所にある遊園地へと行くことになりました。

 迷宮都市での友人知人への挨拶回りや主立った用事は既に大方片付いているので、毎朝の稽古以外にはこれといって予定などもありません。

 文字通りに毎日が夏休み。いよいよ本格的にすることが無くなってきて、はっきり言ってヒマだったのです。時間潰しという意味でも、日本行きの誘いは渡りに船でした。








 ◆◆◆








「こちらに来るのは久しぶりだな」


 久々に訪れた日本の景色を眺めながら、シモンは眩しそうに目を細めました。

 彼からすれば異世界にあたるのですが、子供の頃から何度も連れてきてもらっていたという事もあり、ある意味では慣れ親しんだ光景です。


 現在彼らは、千葉県某所にある外国産ネズミをモチーフにした遊園地の駐車場に来ていました。一同は関東某所にあるリサの実家で合流し、それから自動車に乗って目的地に向かいました。

 日曜日ということもあり、普通なら大渋滞に巻き込まれても不思議はないのですが、この常識ハズレの集団に物理的な遠近はあまり意味がありません。



「相変わらずよく分からんが、魔法ってのは便利なもんだなぁ」


「お祖父ちゃん、それより早く行こっ」


「うん、早くしないと混んじゃうよ」


 

 車に乗って数mも走らせれば、いつの間にやら目的地の駐車場目前まで来ていました。実にお手軽です。もちろん、ちゃんと駐車料金は払いますが、世間一般のドライバーからすれば反則みたいなものでしょう。

 本当は車に乗る必要もないのですが、たまにはエンジンを動かさないと自動車の調子が悪くなりますし、帰りに軽くドライブをしていく予定なので今回はこういう形で移動してきました。



「じゃあ、午後五時にここに集合で」



 きちんと入場料を支払って園内に入ったら、その後は自由行動です。

 子供達は今日は祖父母と一緒に回るつもりのようですし、魔王は子供達をカメラで撮りたがっていましたが、妻二人はデートがご希望のようで首根っこを掴まれてズルズル引っ張られていきました。

 自然と後に残された二人、シモンとライムは特にお目当てのアトラクションなどはありませんでしたが、それでも陽気な雰囲気に背を押されて足取りも軽く歩みだしました。


 それぞれの師匠からお小遣いとして日本円を渡されていますし、日本語も日常会話レベルであれば習得しています。豪遊とまではいかずとも、一日遊ぶくらいなら二人だけでも支障はないでしょう。


 まずは案内図を見ながら適当に歩を進め、空いているアトラクションがあったら見てみることにしました。


 ……が、どうも周囲からの視線を感じて落ち着かない様子。



「どうも、ジロジロ見られている気がするな」


「珍しい?」



 ライムは外国人風の顔が物珍しいのではないかと予想しましたが、今時それなりの都市部であれば外国人は少なくありません。よっぽどの田舎ならともかく、人の集まる首都圏であれば不躾に視線を向けられることは、そう多くはないでしょう。


 実際、園内には欧米系、アジア系、中東系などと思しき外国人の姿もチラホラいましたが、見られているのはライム達だけのようです。いえ、むしろ日本人以外の人々も二人に視線を送っています。



「あ、あのっ、もしかして異世界の方ですか?」


「うん」


「む? ああ、なるほどな」



 と、制服を着た高校生風のグループに話しかけられたことで、その謎は解けました。本日の二人の服装は日本で普通に販売されているシャツやズボンですが、ライムはエルフ特有の長い耳を隠していません。

 シモンだけなら普通の外国人に見られていたでしょうが、彼女に関しては日本人どころか地球人ですらないのも一目瞭然です。


 別に隠すのを忘れていたワケではありません。

 隠す必要がないと判断したからこそ、こうして堂々としているのです。








 ◆◆◆







 今から数年ほど前、地球人類の常識を揺るがすような発表が、国連や各国政府機関からなされました。魔法という未知の技術や異世界といった、それまで空想の産物と思われていた事物の実在が明らかにされたのです。


 その発表は地球全土、全人類に多大なる衝撃と混乱をもたらしました。


 いくつもの証拠や証人を以てしても、発表から最初の一年くらいは懐疑や否定も少なくありませんでしたし、排斥論も(可能かどうかはさておき)ありました。

 ですが、そういったネガティブな論調は驚くほどの早さで減退し、逆に肯定や歓迎のムードが全世界的にみるみる高まっていったのです。


 人間というのはどこの世界でも現金なもので、自分達にとって益となる相手とは仲良くしておきたいと思うものです。


 異世界からもたらされる、地球人類全部が湯水のように使っても消費しきれないほどの資源や食料。地球とは異なる方向に洗練された文化や芸術。

 本物のドラゴンやグリフォンなどの幻想的な生物。それらの地球外生命の遺伝子情報などは、学術界隈の人間にとっては宝の山にも等しい存在でした。


 現在、地球と接続している世界はおよそ二十。

 その内、人類やそれに近い高度な知的生命が存在する世界は六つ。

 過半数は使う者がいないが故に豊富な資源を有していた無人の世界です。太平洋、大西洋、インド洋などの海上、あとは希望国の領土内にも接続用の『門』が建設され、各国が人員を送り込んで商売や採掘や移民事業などを進めています。


 普通は厳重な審査があるので、魔王達のように気軽に行き来できる者は多くないのですが、その基準も年々緩くなってきています。まだ稀少例ではありますが、近い将来には民間レベルでも気軽に旅行などを楽しめるようになるでしょう。


 地球と繋げる世界の調査と選別は、魔王の(数少ない)重要な仕事。

 もちろん他にも調査の人員はいるわけですが、物理的に煮ても焼いても斬っても刺しても怪我すらしない彼は、前情報のない世界にとりあえず送り込むのに何かと重宝するのです。


 気候や自然環境が地球人類にも適応可能かどうか。

 相手側の世界が交流を望むかどうか。

 地球側の文化に一方的に侵食されない、既に充分成熟した社会を有しているか。

 また、平和的かつ対等な交流を望んでいるか、など。


 チェック項目は全部で百以上に及び、最終的には主要国の代表や研究者による審査にかけられます。それらの厳しい条件をパスした世界だけと地球を接続するようにしているのです。正直、とても面倒ではありますが、安全には代えられません。


 ちなみに、シモン達の世界はまだ公式には地球と接続されていません。そこと繋がっている魔界も同様です。世界の代表者である女神の意向で、もう少し人類や社会の基盤を強化してから繋げる予定になっています。








 ◆◆◆





 

 まあ、そんなワケで、現在の地球において異世界人というのは、まだ珍しくはあっても決してあり得ない存在ではありません。テレビやインターネットなどで異世界人の姿を目にする事はしばしばですし、機会があれば交流をもってみたいと思っている人はそれなりにいるのです。


 それが、目にも麗しい美青年に美少女となれば尚更でしょう。



「はい、チーズ!」



 シモンとライムは、声をかけてきた学生集団や遊園地のマスコットキャラと一緒に記念撮影をしていました。



「ありがとうございました!」


「あの、次はこっちもいいですか?」


「ああ、構わぬよ」



 学生グループとの撮影を終えると、今度はOL風の集団にも頼まれたので同じようにして、



「すいません。こっちも写真お願いします」

「了承」


「私たちもお願いします」

「うむ、いいとも」


「エクスキューズミー」

「ん、おーけー」



 別の家族連れやら修学旅行生やら外国人観光客やらにも次々と頼まれて、断るのも悪いので一緒に写真を撮り、



「目線こっちにください!」


「魔法って見せてもらえますか?」


「一緒にご飯食べませんか?」


「サインください!」



 次第に趣旨が分からなくなってきましたが、根がお人好しの二人は次から次へと来るリクエストにどんどん応えていきました。

 ようやく解放されたのは、もう集合時間も間近の午後五時近く。結局、入園した場所から食事以外ほとんど動かず、何一つアトラクションで遊んではいませんでしたが、



「ははは、今日は色々な者と話せて楽しかったな」


「うん」



 二人とも、それはそれで結構楽しんでいたようです。

 


『アカデミア』時点での地球の様子はこんな感じになってます。

民間レベルで実感できるくらい全世界的な好景気が続いてるおかげもあって、異世界関係に対しては大抵好意的。魔法なんかも訓練と才能次第で習得可能な技術という扱いなので、治療系とかの安全な術に関しては訓練法や使い方が公開されています。


番外編はあと三話くらいかな?

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