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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
番外編

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朝の稽古


 翌朝。学都や迷宮都市のある大陸から遥か遠く、世界の果てと言っても過言ではないような土と岩だけの無人島にて。



「むむ、ちょっと鈍ってますね」



 アリスはライムとシモンの二人を相手に、実戦形式の稽古を付けていました。

 最近は子供達の世話やレストランの仕事ばかりで、思い切り運動するのは久しぶりです。筋力や魔力自体は維持していても、戦闘時の判断力や勘の精度などに若干の不足を感じているようです。



「ふぅ、流石だな」


「うん、全然敵わない」



 しかし、そんなイマイチ本調子ではないアリスでも、シモン達の相手をするには充分過ぎる実力があります。二人は奥義や大規模魔法まで含めた全力で立ち向かったのですが、怪我をしないよう手加減をされた上で、呆気なく地面に転がされていました。


 自重をゼロにしての超加速からの斬撃や、複数の魔法を同時展開しての全方位攻撃など、普段の訓練では危なくて使用を控えている技であっても全く歯が立ちません。それ以上の速度で軽々と回避し、あるいは同種の魔法をぶつけて相殺してくるのです。

 とはいえ、アリスが本気で戦う時は無詠唱による転移を遠近問わず連続で行使する上に、知覚外の上空から大規模破壊魔法を連発してきたりするので、わざわざ二人が得意な接近戦に付き合っている時点で相当に手加減しています。


 


「いえいえ、二人とも随分強くなってますよ。多分、私が百歳くらいの頃よりも強いんじゃないですかね」



 アリスの正確な年齢は本人も知りませんが、大まかに五百プラス十か二十歳くらい。まだギリギリ十代のライム達の実力がアリスの百歳時相当だとすると、むしろ非常にスジが良いと言えるでしょう。



「学都の迷宮を使えば成長も早いでしょうし、あと三、四十年もすれば結構いい勝負が出来るようになるかもしれませんね」


「師匠は基準がおかしい」


「うむ、まだまだ先は長いな」



 長生きしているだけあってか、アリスや魔王は時々タイムスケールがおかしくなることがあります。ライムも長命種のエルフですが、まだ二十年も生きていない彼女の時間感覚は普通の人間と変わりません。



「さて、そろそろ休憩を終わりにして続きにしましょうか」


「あ、それじゃ交代するね」



 アリスの声に応えたのはシモン達ではなくリサでした。

 彼女も師匠の一人として稽古の様子を見に来たのでしょう。



「二人もそれでいいかな?」


「ん、望むところ」


「ああ、頼む」



 ごく普通の普段着だったはずのリサは、いつの間にやら白銀の鎧を纏い、同色の長剣を手にしていました。

 これこそが彼女の持つ神造聖剣・変幻剣。

 どんな形状にも持ち主の意のままに変化し、しかも剣が選んだ勇者が手にすれば、どんな状態であれ常に十全以上に使いこなせるという伝説の武器です。



「じゃあ、これが終わったら朝ご飯にしましょうね」



 そんな締まりのないリサのセリフと共に、朝稽古の第二ラウンドが始まりました。


 総合的に見れば彼女達の実力はほぼ互角ですが、遠距離の魔法戦が本領のアリスと違い、リサは武器を用いた近接戦が主体の戦い方をします。



「行きますよー」



 構えを取ったシモン達にその声が届くと同時に、シモン達の背後から聖剣による攻撃が迫ってきました。

 歩法の極地である縮地法。

 シモンとライムも習得している技術ではありますが、その完成度は桁違いです。

 単なる速度の差のみならず、あるか無いかの意識の間隙を通すように動かれると、どうしても反応が遅れてしまいます。



「っと!」


「危ない」



 しかし、シモン達も日々研鑽を重ねているのです。


 見て、考えて、それから動いていたのでは回避は不可能。

 思考よりも早く反射的に身を伏せることで、胴狙いの横薙ぎを見事に回避してのけました。


 そして、この状況はまたとない好機です。

 どれほどの実力者であれ、攻撃の瞬間には必ず隙が生まれます。

 今すぐ振り向いて反撃すれば、あるいはリサから一本取れるかもしれません。



「これなら……ば?」


「いない」



 二人が身を起こして振り返るまでの時間は、コンマ一秒あったかどうか。

 しかし、つい一瞬前に初撃を空振ったはずのリサは、いるはずの場所にいませんでした。


 その想定外は、反撃を繰り出すつもりだった二人の思考に僅かな空隙を生じさせます。縮地法の連続使用、空間転移、極限の気配遮断、瞬間的な跳躍……一体、何が起こったのかをつい考えてしまい、



「隙有り、ですね」


「「あ」」



 その思考が二人の敗因となりました。

 いつの間にやらハリセン状に変化していた聖剣で、頭をぺしんと叩かれてしまいました。ダメージはありませんが、これにて一本、勝負あり。



「なるほど、光学迷彩とかいうヤツか」


「ええ、そんな感じです」


 

 シモンは負けると同時に、先程リサの姿を見失ったカラクリにも気付きました。

 リサの鎧は全身を覆うライダースーツのような形状になっており、その上で周囲の風景に溶け込むような色合いに変化していました(厳密には色の変化ではなく、周囲の可視光線を歪曲させています)。

 最初に縮地で二人の後ろに回りこんだ時に、同時に鎧を変形させていたのでしょう。「いるはずの場所にいなかった」のではなく、「いないように見える場所にいた」のです。

 間近でよく観察すれば微細な違和感に気付けたかもしれませんが、コンマ一秒が勝負を分ける試合中にそこまで景色を注視することはありません。近接戦闘においては非常に有効な戦術でしょう。






 思ったよりも早く決着がついてしまったので、その後も何戦か、シモンとライムが二人がかりでリサかアリスと勝負をしました。

 それでも結局、今朝は一本も取ることができなかったのですが、



「運動をした後の朝飯は美味いなぁ」


「うん。師匠、おかわり」


「はいはい、沢山食べてくださいね」



 朝から存分に身体を動かしてお腹を空かせたおかげで、迷宮都市に戻ってからの朝食はとても美味しく感じられたのでした。




帰省中は毎朝こんな感じに運動してました。

次回からは迷宮都市の友人知人を訪ね歩く感じで

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