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魔王一家


 旧知の間柄である魔王一家を訪ねて、魔王が経営している料理店へとやってきたシモンとライム。普段ならば、まだ開店準備で忙しいはずの朝の時間帯にも関わらず、二人は魔王から熱烈な歓迎を受けていました。



「ほら、二人ともこの写真見て見て! 可愛いでしょ?」


「ん、可愛い」


「うむ、それはそうなのだが、今回はまた一段と多いな……」



 正確には熱烈過ぎる歓迎を押し付けられていました。

 店内のテーブルには、魔王の娘アリシアと息子リヒトの写真が収められたアルバムがたっぷり二十冊は積み上げられ、その一枚一枚についてアレは何時何処で撮ったもので子供達の魅力が如何に素晴らしいかと魔王直々に詳細な解説をしてくるのです。


 最早、この一家を訪ねる度の恒例行事のようなもので、ライムやシモンとしては慣れと諦めの入り混じった反応を返すばかり。

 赤ん坊の頃からよく知って可愛がっている子供達の記録を見るのはライム達としても決して嫌ではないのですが、流石にこれほどの勢いで押し付けられると引いてしまいます。


 しかも、写真を収めたアルバムはあくまで氷山の一角。

 流石に気疲れして店内の他の場所に視線をやると、



「あ、気付いた? あれね、幼稚園のお絵描きの時間に僕の絵を描いてくれたんだって」


「そ、そうか、それは良かったな……」


「うん、上手だよねー。二人とも天才なんじゃないかと」



 恐らくは専門の職人が仕立てたであろう立派な額縁に入った、画用紙にクレヨンで描いた人の顔らしき絵が壁に二セット飾られていました。

 いかにも幼児が描いたらしい、技術的には稚拙な絵ですが、親バカ極まる魔王の目には至高の芸術作品のように映るようです。額縁もわざわざ画用紙のサイズに合わせて職人に注文したのでしょう。


 それ以外にも店内の至る所に子供絡みの品々が飾られているようで、迂闊に手元から視線を外すと熱意たっぷりの詳細な解説が飛んできます。この場にある物以外にも映像や音声記録も山のようにあり、それらの視聴にまで付き合わされるところでしたが、



「ほら、その辺りで一旦切り上げないとお店を開ける時間に間に合いませんよ」


「あれ、もうこんな時間? まだ全然話し足りないんだけどな」



 アリスが手慣れた様子で話を切ってくれました。

 暴走した夫の扱いにも、すっかり手慣れた様子。

 独身時代には気紛れな魔王に振り回されることもしばしばでしたが、ここ数年で随分と魔王のコントロールが上手くなっていました。母は強しということなのでしょう。



「それにライム達だって旅の疲れもあるでしょうし。ね?」


「うん」


「う、うむ、そうだな。まだ宿も取っていないし、続きはまた今度ということで」



 旅といっても列車に半日乗っただけで、しかも移動時間の大半は酔って寝ていただけなのでロクに疲れてはいないのですが、そういう事にしておかないと大変です。何かしら口実を設けて離脱しないと、このまま何時間でも子供自慢に付き合わされてしまいます。



「そっか、残念。まあ、しばらく迷宮都市こっちに居るなら、また機会はあるだろうし」



 この様子だと、迷宮都市の滞在中に最低丸一晩は徹夜で話に付き合わされそうですが、先のことは今は考えないようにして、ライムとシモンは手短に暇乞いをすると逃げるようにして開店前の店内から抜け出しました。







 ◆◆◆







「……しまった。結局、土産渡せてないぞ」


「あ」


 二人は店の外に出てしばらく離れたところで、その事に気が付きました。

 すっかりお土産を渡す機を失ってしまい、学都で買い集めた品々はそっくりそのままシモン達の手にあります。 



「まあ、午後にでもまた訪ねればいいか。子供達がいる時のほうが良いだろうしな」



 ちなみに先程姿が見えなかったリサは、アリシアとリヒトを着替えさせてから、日本の実家近くにある幼稚園へと送りに行っていました。午後には帰ってくるはずですし、お土産を渡すなら子供達がいる時のほうが都合が良いでしょう。


 世界の壁も割と適当なノリで越えられるこの一家。

 何気に一家全員が日本国の正式な戸籍も有しており、普段からちょっとご近所に出かける程度の感覚で、気軽にこの世界と他の世界とを行き来しているのです。迷宮都市にある店舗兼自宅以外に、日本にあるリサの実家や魔界にある魔王城も生活拠点として頻繁に利用しています。

 

 そんな彼らの暮らしぶりに対し、ライム達が何一つ疑問を感じていないのは、幼少期からの慣れによるものでしょう。魔王一家のやる事に一々ツッコミを入れていたら、身体が幾つあっても足りません。




「さて、これからどうする?」


「一度実家に顔を出してくる」


「そうか。では、俺も宿を取って荷物を置いてくるとするか」



 午後にもう一度店を訪ねるにしても、それまで時間が空いてしまいました。ライムはその時間を利用して故郷の村に転移して実家に顔を出し、シモンは今夜以降泊まる宿を探すことにしたようです。



「じゃあ、また後でな」


「ん、また」



 数時間後に魔王の店で落ち合うことを約束し、二人は一旦別れて行動することにしました。




この一家の周囲だけ世界観が出鱈目になってる感

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