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迷宮都市


 昨夕に学都を発ってから約半日。

 シモンとライムは、予定通り迷宮都市に到着しました。



「この街に来るのも年明け以来か」


「ん、久しぶり」



 シモンは幼少期から留学という名目で十年近く、ライムもまた同じくらいの長い時間を過ごした街です。二人共それぞれの故郷は別にありますが、迷宮都市を第二の故郷と言っても間違いではないでしょう。駅を一歩出て周囲を見渡すと、昔懐かしい景色がそこかしこに……全くありませんでした。


 

「……何やら、また見慣れぬ建物が増えているな」


「無計画」



 現在迷宮都市がある場所は、ほんの十数年前まで全く人がいない森や荒野ばかりの土地でした。それがある時洞窟型の迷宮が出現し、なんやかんやとあった末に人がドンドンと集まり始めて街が出来て、たったの十年で百万もの住人が暮らす大都市へと異常な急成長を遂げたのです。


 当然、人口が増えれば生活に必要な建物も増えていきます。

 他所の国や街から儲け話を求めて移住してきた人々のおかげで労働力には困りませんでしたし、幸いなことに予算や物資も潤沢にありました。どうせ周囲数十kmは人のいない土地でしたし、新たに開拓する場所にも事欠きません。


 必要に応じて施設をドンドンと増やし、時には必要性を度外視して一部の関係者が面白半分で増改築を繰り返し、ノリとアドリブ重視のゲーム感覚で都市建設を進めた結果、とんでもなくカオス感溢れる街になってしまったのです。


 ライムが無計画と評するのも無理はありません。

 これでキチンと都市機能が成立しているのが不思議なほどです。


 地元民ですら道に迷うのはしょっちゅうですし、十年近くいたにも関わらず、しばらく学都に行っていたシモン達では土地勘もロクに働きません。こんな有様では郷愁も何もあったものではないでしょう。



「まあ、いざとなれば建物の上を跳んでいけばどうにかなるか」



 この街で大切なのは適度な諦めと割り切り。

 心の奥底から湧き上がるツッコミ心にフタをすれば、案外これはこれで良いものです。それに、いつまでも駅前に立ち尽くしていても仕方がありません。



「とりあえず、時間潰しを兼ねて朝食を済ませるとするか」


「うん」



 時刻はまだ日が昇って間もない早朝。

 挨拶回りやら何やらの用事は一旦後回しで構わないでしょう。


 どうせ、急ぐ必要もありません。

 というか、この時間だと起きて活動をしている人自体があまりいません。

 知り合いの住処を訪ねるにしても、少し時間を置かねば迷惑でしょう。

 多くの商店はまだ開店前ですが、それでも駅前には既に営業している飲食店もあるようです。シモン達はたまたま目に付いた喫茶店に入り、朝食を摂ることにしました。






 ◆◆◆





 喫茶店でコーヒーを注文したら、何故か茶碗蒸しやら茹で卵やらトーストやらサラダやら汁麺やらが無料(サービス)で付いてきました。



「結構おいしい」


「うむ、たしかに美味いが……採算取れるのか、コレ?」



 飲食業界内でサービス競争が過熱した結果、なんだかよく分からない方向へサービスが進化を遂げたというか、悪ノリでやっていたら後に引けなくなったというか、大体そんな感じの雰囲気がそこはかとなく感じられます。

 駅前という好立地のおかげもあるでしょうが、早朝ながら客入りはかなりのものです。それにこうして店が存在しているという事は、キチンと商売として成立しているのでしょう。


 シモン達は食事をしたり新聞を読んだりしながら二時間ほど時間を潰し、表通りが賑わい始めた頃合で店を出ました。







 ◆◆◆







 辻馬車を拾った二人は、迷宮都市の中心方面へと向かいました。

 街の真ん中には魔界に通じる(ゲート)や市場、役場などが集まっており、駅付近と比べても一段と賑わっています。



「ひとまず宿を取って……いや、先に土産を渡してからのほうがいいか?」


「任せる」



 ちなみに、今夜以降の宿泊場所については、シモンは適当な宿を探して泊まる予定です。かつての留学中、シモンはG国の大使館で生活していたのですが、今回は事前の連絡も何もしていませんし、職員に気を遣わせるのも本意ではありません。身分を明かさず一般の宿に泊まったほうが何かと身軽で気楽なのです。


 一方、ライムは実家に帰省して泊まるつもりでした。彼女の生まれ故郷であるエルフの村はこの街から遥か離れた森にあるのですが、迷宮都市にはエルフと一部の関係者だけが自由に使える転移の魔法装置があります。転移術はライムもまだ使えない高度な魔法ですが、これならば距離は問題になりません。


 石畳で舗装された道を辻馬車はしばらくガタゴト進み、



「そろそろ、この辺りのはずだが……っと、ここで停めてくれ」


「あ、いた」



 突然、シモンが御者に馬車を停めるよう言いました。

 ライムもまた、すぐにその理由に気付いたようです。

 料金とチップを支払った二人は荷物を持って馬車を降り、近くの通りを歩いていた家族連れに声をかけました。




名古屋風のモーニングではトーストに餡子を塗って食べるのが好みです。

アンパンとは似て非なる美味しさがグッド。

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― 新着の感想 ―
[一言] モーニングは素晴らしいですよね 私は家が名古屋の方なのですごくわかりますw 小倉トーストもたまりませんが店によってはいろんな種類のパンの中から選り取り3つまでとかやってるとことかグラタンが出…
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