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第二の試練⑦


 現在のルカは、言うなればただ力が強いだけ。

 技術もなく、速度もなく、出鱈目に手足を振り回して暴れているだけ。

 本来であればゴゴが遅れを取る要素はないはず……などという甘い読みは、早々に外れていました。



『防御は不可能。こちらの攻撃を弾かれるのも不味い……と。厄介ですね』



 武器化した手足や髪の毛自体は砕かれずとも、身体の全てを武器化してしまってはゴゴ一人で戦うことができません。正確には全身を完全に武器とした状態でも多少の動作は可能ですが、戦闘行動のような複雑で機敏な動作はできなくなります。

 武器と化した部位を支え、十全に振るう為には、肘から上の上腕部、膝から股関節にかけての大腿部、体幹部や頭部などは生身のままの状態に保っておく必要があるのです。


 ルカの攻撃を武器化した部分で受けたり、あるいは攻撃を弾かれただけであっても、武器部分を支える生身の箇所が衝撃に耐え切れずに骨格や筋肉が大きく破損してしまいます。

 化身の肉体は人型を模した仮初めのモノではありますが、基本的な筋肉や関節構造などは人間と同様の造りになっています。

 一度破損したならば、魔力を注いで修復するまで動かすことはできません。先程、肩より先が破壊された右腕も、治り切るまでにはあと数十秒はかかるでしょう。


 ルカの命を危険に晒すような危険度の高い攻撃、例えば刃物による急所への斬撃や刺突を使えないハンデも考慮すると、非常に厄介極まる状況です。


 つい先刻、三人を相手に圧倒していたゴゴであってもまず不可能。

 ただし、現在のゴゴが先程と同等の戦力であればの話ですが。


 ゴゴは既に、暴走を始めて以降のルカに対する能力測定を終えています。

 腕を破壊された際の威力、攻撃速度を参考に限界値を予測。あとはその予測値を元に、それ以上の強さになれば良いだけの話です。



『――――出力上昇』



 自身の迷宮の中に限定されはしますが、相手の強さに応じて守護者は強さを変動させます。急激な筋力の上昇に戸惑ったのは確かですが、例え試練の最中に強くなっても、それに合わせてゴゴも能力を向上させれば相対的な戦力差は変わりません。


 本体である迷宮からのほぼ無尽蔵の魔力が供給され、ゴゴの筋力や肉体強度がルカと同等に、そしてそれ以上へと高まっていきました。

 これならば、先程のように簡単に肉体を破壊されることもないでしょう。

 あとは、隙を見て拘束するなり意識を奪うなりすれば、それでこの状況は解決です。



 ――――そのはずでした。



 爆発的に上昇した身体能力を以て、ゴゴは即座に攻撃を試みました。

 狙いは太腿に向けての下段回し蹴り。しかも、ただの蹴り技ではなく、膝から先の脚部をハンマーに変形させての、重さと速さが乗った攻撃。


 打撃格闘技においても下段への蹴りは回避が難しいものです。

 決め技となることは少ない下段蹴りですが、慣れない人間が腿を強く蹴られたなら、痛みと衝撃でしばらく歩けなくなるほどの効果が見込めます。


 完全な行動不能まではいかずとも、確実に機動力を削ぎ、転倒も狙える。しかも、位置的に防御や反撃も難しい下段技は、決して悪い選択ではありませんでした。



『これなら――――なっ!?』



 ゴゴのハンマー下段蹴りが太腿に触れる直前、ルカはそれよりも遥かに速いバックステップで蹴りを回避。そして即座に転進し、蹴りを空振った直後の無防備のゴゴの胸部を、ただ両手で強く押しました。



「う……うぅ……ああぁっ!」


『…………か、は』



 それで終わり。

 音をも超える速さで壁に叩きつけられ、ゴゴの骨格や筋肉は完全に破壊されました。これほどに壊されてしまっては、もうこの肉体を修復することもできないでしょう。


 ゴゴに判断ミスがあったとすれば、先程の一合だけでルカの能力を知ったつもりになり、そのあたりが全力だと、それ以上大きく伸びることはないだろうと思い込んでしまった事。

 そして決定的だったのは、つい今まで力任せに暴れるだけだったルカが、既にその怪力を使いこなし始めていたという事。蹴りを回避した際のバックステップは、歩法の極地である縮地法にも近いモノでした。


 反撃の諸手突きにしても、ただの手押しではありません。足指から下半身、上半身から腕部へと無駄なく力を伝達・増幅させた見事な技術。


 決して思考が正常に戻ったワケではありません。

 むしろ皮肉なことに、思考力を失って動物的な本能で暴れているからこそ、動きの無駄が削がれ効率的な動作を実現できているのでしょう。


 武術家や運動競技者(アスリート)などは、人体の効率的な動きを追求し、長い時間をかけて技やフォームを習得します。驚くべきことに、無意識の抑圧から脱したルカは、この短時間、本能に任せて暴れていただけでそれら一流の運動家と同等以上の効率性を獲得しているのです。恐るべき才能、恐るべき成長速度でした。















『なるほど、これは凄まじい。油断していたつもりはありませんでしたが、それでもまだ見通しが甘かったようです』


 相手をしているのがゴゴでなければ、これで決着がついてしまうところでした。


 先程までの身体は修復不可能なまでに破壊され、もう破棄せざるを得ませんでしたが、この第二迷宮内であればゴゴは同等性能の肉体を自在に再出現させることも可能。

 前の身体の記憶や戦闘経験は、本体を通じて新たな個体と同期して引き継げるので、事実上の不死身と言っても過言ではありません。



『――――予想値を修正。出力を再設定』



 しかも、先程の反省を活かして出力を更に上昇させています。

 筋力、速度、反応速度も数段上がっていますし、縮地じみた予備動作無しの超高速移動も、最初から有ると分かっていれば対応できないこともないでしょう。



 とはいえ、これだけではまだ楽観はできませんが、



「おい! すごい音がしたが二人とも無事か?」



 前のゴゴがやられた際の衝撃音は流石に見過ごせなかったのでしょう。

 ゴゴが叩き付けられて開いた大穴からシモンが様子を見に出てきました。



『正直、あまり無事ではないですね』


「……そのようだな」



 放っておけばいずれ迷宮に吸収されるはずですが、前のゴゴの残骸はまだ瓦礫の中に埋もれています。それを一目見て、シモンも状況の深刻さを悟ったようです。



『巻き込むのは本意ではありませんが、恥ずかしながら我一人では手に余るかもしれません。ルカさんを止めるお手伝いをお願いしても?』


「ああ、承知した」



 詳しく事情を伝える暇はありませんが、今のルカが尋常の様子でないのは明白。

 シモンもゴゴに加勢し、二人がかりで抑え込みにかかりました。




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