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第二の試練③


『そろそろ身体も温まった頃合でしょう? 少しペースを上げますよ』


 たちまちゴゴの両手は金属的な輝きを帯びて伸長。左手は五指のそれぞれが1mほどの長剣に、右手は手首から先の全部が2mを超える金砕棒(かなさいぼう)へと変わりました。


 放たれる重圧も一段と強くなっています。

 いよいよ本気……ではないのでしょう、今はまだ。以前に見せた毛髪の武器化は使っていませんし、両足や胴体もその気になれば変化させられるはずです。


 手を抜いているというよりは、誤って殺したり、取り返しのつかない大怪我をさないように戦力を加減しているようです。この戦いはあくまでレンリ達を試す為の試練であって、殺し合いではありません。


 しかし、それは逆に言えば「取り返しがつく」範囲の怪我なら負いかねないという事。武器化によって大幅に重量が増えたはずのゴゴは、そんな重さなどまるで無いかのようなスピードで床を蹴り、



「消え――――」


『しっかり防がないと危ないですよ』



 一瞬でレンリの背後へと移動し、そして右手の金砕棒で殴りつけました。

 かろうじて両腕での防御が間に合ったのは、レンリの技量ではなく事前の警告があったからこそ。あと僅かでも反応が遅れていたら、この一撃で終わっていたかもしれません。


 とはいえ、いくら加減されていても被害は甚大。

 背後からの横殴りの一撃は、クロスした両腕程度で防げるものではありません。

 普通ならば両手の粉砕骨折か、下手をすれば衝撃が肋骨や内臓系、脊椎にまで重大なダメージを与えていても不思議はないでしょう。



「痛っ!」



 それが両腕の痣と吹き飛ばされた際の打撲だけで済んだ点からも、ゴゴが非常に気を遣っているのは明らかです。

 動体視力の限界を超えるような速度での移動が出来るのに、肝心の攻撃速度はレンリでもどうにか対応できる程度でした。とはいえ、同様の攻撃を二度三度、十回百回と喰らえば、ただでは済まないのでしょうが。



 ゴゴは転倒したレンリに追撃を仕掛けることなく放置して残りの二人へと距離を詰め、ルグとルカを片手ずつで相手にしています。

 二人も必死に防いではいますが、器用にもバラバラの軌道で迫る五本の指剣は、神経強化の魔剣で超集中状態にあるルグでも、かろうじて防ぐのがやっと。いえ、時折剣の腹の部分で肩や脚に殴打を喰らっているので防ぎきれてはいないようです。


 ルカは金砕棒を受けてもレンリのように吹き飛ばされることはありませんでしたが、掴み止めようとしても力負けしてしまい、逆に振り回される有様。掴んだ金棒を放すまいとしがみ付き、そのせいで床や壁に何度も叩き付けられていました。


 レンリが戦線に復帰したとしても、この劣勢が覆ることはないでしょう。

 このままではジリジリと余力を削られて、何も出来ずに終わってしまいます。

 もしもゴゴが気紛れにもう少しでも手加減の度合いを変えたなら、ジリジリどころか一瞬で決着が付いてしまうかもしれません。


 逆転の為には――――否、たとえ勝てずとも少しでも戦況をマシにする為には、何か決定的なキッカケが必要でした。







 ◆◆◆







 何一つとして良い点がなく一方的に劣勢に立たされている三人ですが、



(ふむ、悪くありません)



 現状、意外にもゴゴからの評価はそれほど悪いものではありませんでした。


 決して勝てない、必ず負ける戦いに挑む試練。

 ゴゴが自身の試練をそのような内容に決めた理由はいくつかありますが、そのうちの一つは「負け方の良し悪しを計る」というものでした。「上手に負けられるか」と言い換えてもいいでしょう。


 敗北というのは、通常、上手下手で評価するようなモノではありません。

 負けた理由を洗い出して反省点として次回に活かすようなことはあっても、「負け方」そのものの上達を図るような物好きなどそうはいないでしょう。


 戦闘でも他の分野でも、誰もが勝利を追及し、勝ち方ばかりにこだわります。

 勿論、勝ちを目指すのは悪いことではありませんが、世界最強の存在でもなければ誰しも負けることはあるでしょう。


 今日まで不敗の存在であっても、明日も同じように勝てるとは限りません。

 明日負けなかったとしても、来週は? 来年はどうでしょう?


 例え負けても、その経験を糧に奮起できるなら良いのです。

 しかし、敗者には常に「次」があるとは限りません。もしも取り返しのつかない怪我を負ったり、命を落としたりすれば、その者の道はそこで終わりです。


 あるいは「これで終わったなら所詮そこまでの器だった」などと嘯き、潔く自らの命に見切りを付けるのを、ある種の滅びの美学として考える向きもあるかもしれません。そういった殉教者染みた生き方に美しさを感じる者もいるでしょう。

 

 しかし、ゴゴは率直に言って、そういう考え方が大嫌いでした。

 人間の命というのは、自分自身のソレですら粗末にすべきではない。

 潔く諦めるなど歪んだナルシズムでしかない。

 まだ終わっていないのならば、どれほど苦しかろうと最後の一瞬まで足掻くべきである……と、ヒトならぬ彼女はそう考えているのです。


 ゴゴは試練に挑む者を、それはもうこっ酷く、コテンパンに負かします。

 動けなくなるような重傷こそ避けるようにしていますが、必要とあらば何時間でも何日でも一方的に手加減をしながら追い詰めます。対峙する者からすれば、意図的に苦しめようと嬲られていると感じるかもしれません。


 それも全ては、痛みと疲労で虚飾を剥がし、その者の本性を見る為に。


 これまで負けたことが無いと豪語するような自信家が、一方的に痛め付けられると、へたり込んで泣き出したことがありました。

 逆に、体格にも才能にも恵まれない三流の戦士が、何度倒されても立ち上がり、いよいよ気絶する瞬間まで諦めずに勝利を模索していました。

 仲の良い仲間を見捨てて逃げようとした者がいました。

 逆に、普段は険悪な相手を逃がすために囮となろうとする者もいました。


 まあ、それほど極端な例は少数ですが、限界まで追い詰められた時にどういう行動を取るかというのが、第二の試練における重要な判定基準なのは間違いありません。


 ちなみに、合格者に対しても合格理由を教えないのは、その情報が広がったことによる演技を防ぐのが目的でもあります。その人物の素の姿を見なければ意味がないのです。


 第三以降の迷宮では、リターンに比例して危険も大きく上がります。


 ギリギリまで追い詰められた時におとなしく諦めるのか?

 それとも最後まで足掻くのか?

 最後まで勝ちの目を模索するも良し。

 無事に撤退する道を探すも良し。

 その過程でどのような姿勢を見せるかが肝要なのです。


 表向きの試練の意味合いは、大凡そんなところでした。







(しかし、出来ることならば……)


 しかし、聖剣(ゴゴ)の使い手となる人物にはそれだけでは足りません。

 次なる迷宮に進む資格があるかどうかというだけならば、前述のような窮地における姿勢を見るだけでも充分でしょう。


 ですが、次代の勇者として認めるにはそれだけでは不足。

 出来ることならば、不可能を覆して勝てないはずの戦いに勝って欲しい。奇跡を起こす者が現れて欲しいと、ゴゴはそのような想いをも密かに抱いていたのです。




金砕棒かなさいぼうは金属棒や硬い木製の棒にゴツゴツした鋲を打ち付けた打撃武器。本気で殴れば鎧兜ごと中の人間をグロ画像にできるようなヤベー武器です。

桃太郎の鬼が持ってるようなヤツを想像すれば大体あってると思います。

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