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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
三章『境界調律迷宮』

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第二の試練②


 最初に動いたのはルグでした。

 試練の開始と同時。

 まだ始まって間もない故の、気の緩みを狙ったのでしょう。



「悪いなっ!」



 ルグの小柄で軽い身体は弱点でもありますが、こと加速に関しては利点となります。身体強化も併用して一瞬でトップスピードに乗り、斬撃ではなく蹴り技による打撃をゴゴに見舞おうとしました。

 ルグも小柄ですが、ゴゴの体躯はそれより更に一回り以上小さく、体重も見た目相応に軽いはず。充分に体重と加速が乗った蹴りを受けたら、当たり負けして吹き飛ばされるのは必至でしょう。



『いえ、悪くなどありませんよ?』



 しかし、ゴゴの腹を狙って放たれた前蹴りは呆気なく空振りました。

 あらかじめ技を読んでいたという風ではありません。

 攻撃が放たれるのを見てから、凄まじい反射神経とスピードだけで悠々と回避したのです。



『言ったでしょう? 今の我はルグさんの倍以上のスピードがあるのです。真っ正直に来られても決まりませんよ』


「な!?」



 余裕を持って回避したゴゴは、そのままの動きの流れでルグの背後に回ると、後ろ襟を引きながら足払いをかけて転ばせました。力任せではない、タイミングと重心の操作による見事な崩しです。武器術だけでなく徒手の技も使えるのでしょう。

 身体を自在に武器化できるゴゴならば、倒れたルグにトドメを刺すのは容易い事。いえ、わざわざ武器を使わずとも、体重をかけて顔なり腹なりを強く蹴ればそれで決着はついてしまいます。


 ……が、これは実戦ではなく、あくまで試練。

 ゴゴは追撃をしようとはせずに、あっさりと倒れたルグから距離を取りました。



『斬り込み役と言えば聞こえがいいですけど、毎回ルグさんばかりが初手を担当するのは考え物ですね。誰が最初に攻撃を仕掛けるのか分かってしまったら、人数の優位が活かせませんよ』



 迷宮での魔物との戦闘でも、先日のゴーレムとの戦いでも、最初に攻撃を仕掛けるのはルグの場合がほとんどでした。まだ接敵までに距離がある場合にはルカの投石やレンリの魔法を使うこともありますが、今回のような近距離で戦闘が始まった際にはほぼ確実にルグが初手を担当します。


 それは適正を活かした役割分担ではありますが、知らず知らずの間に攻め手がワンパターンになっていたのでしょう。誰がいつどこから攻撃してくるか分からないという、多人数の優位性を自ら狭めてしまうことにも繋がりかねません。



『やあ、今度は力比べといきましょうか』


「え? ……あ」



 一瞬も目を逸らしてなどいなかったのに、ルカが気付いた時にはすぐ眼前にゴゴが立って手を伸ばしてきていました。腕を掴まれたルカは反射的に拘束を脱しようとして……しかし、出来ませんでした。


 それもそのはず、単純に力負けしているのです。



『怪我をさせないように、なんて気遣いは我には無用です。ほら、まだまだ出力を上げますよ』


「う……く、うぅ……!」



 技術も何もない、ただ腕を握られているだけの攻撃とすら呼べない動作ですが、ルカが力を込めても外すことができません。常人ならば、とっくに骨も肉もまとめて握り潰されているでしょう。



『ルカさん、まだ余力がありますよね? ちゃんと全力を出さないと腕が折れちゃいますよ』



 ルカはこの状況下においてすら、無意識に力をセーブしているのでしょう。

 普段出しているような怪力は、あくまでルカ自身の意思で制御できる範疇のモノ。

 “その上”を見せねば腕が砕かれかねないような状況にあって、



『おっと、危ない』



 しかし、ゴゴによる拘束はレンリとルグが背後から攻撃を仕掛けたことによって、あっさりと中断されました。


 一対一ならともかく、一対多の集団戦において極め技や絞め技の類は自身を縛る枷にもなりかねません。今回はただ握っているだけでしたが、状況的には似たようなものでしょう。

 避けられてしまったのでゴゴにダメージは与えられませんでしたが、状況への対処としては適切なものでした。



「ルカ、無事か?」


「う、うん……なんとか」



 幸い、ルカも怪我は負っていないようです。

 両者に損害らしい損害がないという意味では戦況は互角ですが、しかし、ここまでの短い時間だけで実力差ははっきり顕わになっています。

 そもそも、まだ本領である武器化能力すら見せていないのです。



「言ってた通りにパワーもスピードも全部こっちの倍以上か。本当にこっちを勝たせる気がないみたいだ、嫌になってくるね」


『ええ、言ったでしょう? これは絶対に勝ち目のない戦いだと』



 レンリの愚痴に飄々と応える姿は普段のゴゴと何ら変わりありません。

 しかし三人は、この小柄な少女から先日のゴーレムを遥か超える重圧を感じていました。



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