祝勝会
ゴーレム戦の翌日昼頃。レンリ達は訓練や探索を休んで、戦勝記念と慰労を兼ねての打ち上げをする為に集まっていました。
「これは期待できそうだね」
『とっても美味しそうなのよ! 匂いだけで白いご飯が食べられそうね!』
今回の打ち上げ会場は、東街の市場近くにあるシモンお勧めのピザレストラン。
仕入れたばかりの新鮮な野菜や魚介類を、わざわざ楢の木の薪にこだわって石窯で焼き上げるというのですから、これはもう絶対美味しいに決まっています。店の前の通りに漂う匂いだけで、ウルなどヨダレを垂らしそうになっていました。
「行列」
「ああ、大丈夫だ。予約してあるからな」
食事時には毎日行列が出来るような人気店なのですが、今回はシモンが四日ほど前から予約を入れていたようで、まったく並ばずに入店できました。
予約したタイミングからするに、どうやら勝っても負けても関係なく、最初から誘うつもりだったようです。もっとも、負けていた場合は祝勝会ではなく残念会になっていたでしょうが。
「ピザかー。学都に来るまで食べたことなかったけど、美味いよな、アレ」
「うん……わたしも、好き」
『我も好きですよ。焼き立ては格別ですね』
本日この場にいるのは、レンリ、ルグ、ルカの三人にシモンとライム、そしてウルとゴゴまで一緒にくっ付いてきていました。ゴゴに関しては、どうも今朝のうちに遠隔会話でウルが誘いをかけたのだとか。全部で七名というそれなりの大人数ですが、四人掛けの席を二つ取ってあったのでスペースの問題はありません。
「何か食べたい物があれば遠慮なく頼むがいい」
ちなみに、今回は食べ物も飲み物も全部シモンの奢りということになっているので、一同はメニューを片っ端から全部制覇する勢いで遠慮なく注文していきました。
「俺もたまには呑むか。ライムはどうする?」
「一杯だけ」
皆、普段はそれほどお酒を飲みませんが、この場の面々は幼女二人を除いたら、この国では飲酒可能な年齢です。シモンとライムは冷えた麦酒を注文し、
「それじゃ、私も葡萄酒でも貰おうかな。キミ達はどうする?」
「いや、俺は酒は止めとく。酒精は背が伸びなくなるらしいし」
「わたし、も……力加減が、危ない、から」
『我はお酒より甘いジュースのほうが好きなのよ』
『我々は体質的に酔うことはないんですけどね。この姿で呑んで兵隊さんに補導されても困りますし』
レンリは葡萄酒を、ルグは背が伸びなくなるからと酒類ではなく牛乳を、ルカは酔って力加減が狂うと色々危ないので、幼女二人と一緒に炭酸割りの果汁を注文しています。
先に運ばれてきた飲み物で喉の渇きを癒していると、それほど待たずに次々と注文した料理が運ばれてきました。
サラミ、ベーコン、ソーセージといった肉類のピザ。
魚の油漬け、貝、イカなどの魚介のピザ。
ピーマン、アスパラガス、オニオン、キノコなどの野菜のピザ。
トマトソースとチーズだけや、チーズだけといったシンプルなピザ。
それ以外にも、サラダやフライドポテトなどのサイドメニューも山盛りで、大きなテーブル二つが埋め尽くされんばかりの光景です。
『先手必勝なのよ! いただきます!』
「おっと、ヤル気満々だね、ウル君。どれ、私も……旨っ!」
待っている間、他の客席や厨房から漂ってくる匂いに空腹感を刺激され続けてきたのです。皆、獲物を前にした猛獣のように、我先にと手を伸ばして食べ始めました。
テーブルにはナイフやフォークも用意されてはいますが、ピザというのは何といっても焼きたてのところを手掴みでいくのが最高です。ぐつぐつと煮え滾るようなチーズで指を火傷しないように注意しながら、一気に持ち上げて豪快にガブリ。
歯を立てればサクリと砕ける薄焼きの生地。
濃厚なコクと適度な塩気を与えるトロトロのチーズ。
豊富な旨味を含み、決して飽きさせることのない各種の具材。
それらの要素が複雑に絡み合い、引き立てあい、なんとも素晴らしい味になっています。シモンが勧めるだけのことはありました。
「……っはぁ! うむ、たまには酒も悪くないな」
「ん。美味」
ピザの脂っ気や塩気で舌が重くなり始めたら、すかさず冷えた飲み物をグビっと。
炭酸の刺激や冷たさが重さを洗い流し、再び新鮮な味覚で味を楽しむことができます。
「おいしい、ね……太っちゃいそう、だけど」
「一食くらい食べ過ぎても大丈夫だろ。普段運動してるんだしさ」
「そ、そう……かな? そう、だよね」
ピザには大まかに柔らかい食感のパン生地タイプと、薄くて硬いクリスピータイプがあります。それぞれに違った良さがありますが、今回は全部薄焼きです。
食味が軽いからかドンドンと食が進み、普段は大食いというワケではないルカも結構な量を食べていました。まあ、彼女も普段からハードな運動をしているのです。ルグの言う通りに多少の食べ過ぎくらいなら全く問題はないでしょう。
むしろ、一般的な基準より意識的に多く食べるくらいでないと、必要以上に痩せ細ってしまうかもしれません。
『一人の食事も良いですが、偶には賑やかなのも悪くありませんね』
食べ歩きが趣味だというゴゴですが、基本的に普段食事をする時は一人であることが大半。それが寂しいというワケではなくとも、こういう賑やかな食事もそれはそれで楽しんでいるようです。
「それならゴゴ君もウル君みたいに街に住めばいいんじゃない? 私の部屋も、あと一人くらいなら大丈夫だし。他にも、たとえばルカ君の家なんかも部屋が余りまくってるみたいだしさ」
『そうですね。そういうのも便利で楽しそうですが……いえ、やっぱり遠慮しておきます』
「ふぅん? それは残念」
ゴゴが居を移すようなことがあるとすれば、それは自らの使い手となる相手を見つけ出した時でしょう。
裏の役割を完遂し、探し求めていた者が見つかるのがいつになるか?
それはまだ誰にも、ゴゴ自身にも分かりません。




