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急成長

本日二話目の投稿です

順番飛ばしにご注意ください


 眼前に迫るは破壊の渦。

 鉄をも引き裂く牙で一噛みされたら大怪我は確実。

 直撃せずとも僅かに鱗が掠っただけでも骨折は確実でしょう。


 迷宮を構成するブロック材を、まるで乾いた枯葉のように容易く砕きながら迫る脅威を前にして、



「……見える」



 ルグは臆する事なく目を見開き、自分から前へと飛び込んでいきました。


 やる事は低層区画の魔物を相手にする時と何も変わりません。

 腰に下げた魔剣には鞘に納めたままの状態で魔力を通しており、加速した時間の中でゆっくりと魔物が動くのが見て取れます。あとは最小限の動きで攻撃をかわし、生まれた隙に渾身の一撃を見舞うのみ。


 大きなヒレを羽代わりに空中を飛ぶサメ型の魔物、飛翔鮫【フライング・シャーク】の体表はおろし金のように強靭で鋭い鱗に覆われていますが、眼球やエラなど守られていない箇所も存在します(そもそも何故サメが空を飛ぶのかは気にしてはいけません。サメ型の魔物には理屈では説明のつかない奇妙な生態を持つ種類が、どういうワケか妙に多いのです)。



「シッ!」 



 しかし、ルグが狙ったのは防具であり武器でもある鱗。正確には鱗に覆われた腹部。突進しながらの噛み付き攻撃を、ぶつかる寸前でスライディング気味の低空機動で回避。ほぼ同時に抜き放った剣を頭上へと振り上げました。

 サメの身体の構造上、視認することのできない腹の下は死角になります。鋭い嗅覚も至近距離での細かい位置把握には不向き。飛翔鮫からは、まるでルグが突然消えたように見えたことでしょう。


 ルグが攻撃に使用したのは神経強化の魔剣ではなく、レンリから借りている試作聖剣。少しでも刃筋が狂ったら簡単に曲がってしばらくは使用できない欠陥はありますが、十全に性能を発揮した際の斬れ味はそこらの名剣名刀を軽く凌駕します。



 試作聖剣の一撃を受けたサメは、何事もなかったかのようにルグの頭上を通過しました。剣が当たった際も衝突音らしい音は鳴らず、するりと通り抜けたかのよう。傍目からは空振りに見えたかもしれません。


 ですが、この時すでに決着はついていました。


 サメが再度の突進を敢行しようと方向転換を試みたところで、突然腹から大量の血と臓物を噴き出して絶命したのです。あまりの斬れ味に傷口がすぐには開かず、またサメ自身、斬られた事実に気付いていなかったのでしょう。


 終わってみればルグには一切の負傷もなく、圧勝と言っても過言ではない結果になりました。








 ◆◆◆







 シモンやライムとの最初の迷宮探索から十日。レンリ達はあれから一日おきに、迷宮深層へと向かっては引き返すというハードスケジュールを繰り返していました。


 当初は深層区画の強大な魔物に怯えていましたが、これだけ何度も見ていれば流石に慣れも出てきます。少なくとも度胸はだいぶ付いてきたようで、間近に迫っても恐怖から目を閉じるような無様は見せなくなってきました。



「や、お疲れさま。一人で倒すなんて凄いじゃないか」


「うん……ルグ君、すごい」


「ああ、実は結構ギリギリだったけど。それに、アレを見るとなあ……」



 ルグ達の視線の先には、大部屋の中央に立って百匹近い飛翔鮫の群れを二重の意味で捌いているシモンの姿がありました。

 飛翔に必須のヒレを切り落とされたサメが彼の周囲をのた打ち回っています。そもそも根本的にサメが陸上で活動することに無理があったのでしょう。完全に進化の方向性を間違えています。


 飛翔鮫は本来は群れでの狩りを得意とする特異なサメ。

 迷宮内の大部屋で多数の飛翔鮫が周遊している光景はまるで竜巻。実際、ちょっとした災害と称しても過言ではない脅威です。


 とはいえ、それも見方次第。

 集団であれば深層区画の他の魔物にも劣らぬ戦力を発揮しますが、一匹だけなら身体も比較的小さく、どちらかといえば対処しやすい部類でしょう。



 そんなワケで、ルグ本人の希望もあって群れから逸れた個体を相手に実戦訓練に挑戦してみたのです。

 結果は見事に成功。

 単体では然程強くない部類とはいえ、今のルグより格上の相手を倒してのけたのです。俗に言う大物喰い(ジャイアントキリング)によって身に付けた自信と経験は、彼を更なる高みへと押し上げることでしょう。



「お見事」


「あ、ども」



 無論、安全対策もしっかりありました。

 すぐ近くでライムが監督役として見守っていたので、もし回避のタイミングを誤ったり、魔物が予想外の抵抗を見せた場合は即座に彼女が仕留めたことでしょう。どちらにせよ、先ほどのサメの命運は尽きていたというワケです。


 そもそも、本当に無謀なら挑戦すること自体が許されなかったはず。

 ここ最近の過酷な環境は、彼らを確実に、そして急速に鍛え上げていました。






「よし、これで最後だな」



 ちょうどシモンのほうも、生き残りのサメ全部にトドメを刺し終わったようです。途中から逃げ出したサメは追わずに放置していましたが、仕留めた分だけでも八十匹くらいはいました。



「うむ、これだけあれば当分フカヒレには困らんな」


「ん、カマボコも作る」



 フカヒレ食べたさに、わざわざ深層区画をうろついて飛翔鮫の群れを探した甲斐があったというものです。ルグの予想以上の成長も確認できましたし、今日は実に収穫が多い日でした。



「俺、フカヒレって食べたことないな」


「わたしも……おいしい、の?」


「美味しいよ。そのままじゃ味はないんだけど、皮を剥いでからスープで煮込むんだったかな」



 この三人もだいぶ逞しくなってきたようです。

 最近では魔物を見ると、まず「食べられるか否か」、そして「美味しいか否か」という目で見るようになってきました。良くも悪くも保護者達の影響を強く受けています。


 サメは死んで時間が経つとアンモニア臭くなるので、大急ぎで切り落としたヒレと肉の一部を回収し、一同はホクホク顔で帰路へと就きました。




◆サメシリーズは飛翔鮫以外にも竜巻鮫や二頭鮫、三頭鮫、溶岩鮫、氷鮫、巨大鮫、機械化鮫、幽霊鮫など色々いて生息地は様々。共通の性質として、水着姿のちょっとおバカっぽいブロンド美女や素行の悪い若者グループなどに好んで襲いかかります。

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