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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
三章『境界調律迷宮』

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お裾分けと謎かけと


 いくつか素性に不審な点はありましたが、細かい疑問に目を瞑りさえすれば、お茶菓子として出された土産物の味はどれも美味でした。

 二つの世界の文化が交わる迷宮都市は美食の都として世界的に有名で、そこらの屋台からレストラン、日持ちのする土産物まで非常にレベルが高いことで知られています。食べ歩き目的の観光客や修行に訪れる料理人も少なくありません。



「私もそのうち行きたいと思ってるんだよね。うちの爺様は行ったことあるらしいけど」


『うん、我も話を聞いた事しかないから行ってみたいの!』


「うむ、俺達もあの街で長く過ごしたが良い所だぞ」


「おすすめ」



 幼少期から長い時間を迷宮都市で過ごしたシモンやライムは、街の見所やおすすめスポットについても詳しく知っています。

 美味しい料理や景色の綺麗な場所、風変わりな娯楽施設等々。

 お茶とお菓子を楽しみながら彼らの土産話を聞いているうちに、他の皆も興味をそそられてしまったようです。


 学都とはその気になれば一日で往復できる距離という事もあり、



「そうだな。もし皆が行くのであれば案内役ガイドは俺が引き受けよう。どうせ、今の休暇が明ける前にもう一回くらいは行くつもりだったしな」


『わーい、楽しみなの!』


「いいん……です、か?」


「ははは、まあ、まだ帰ってきたばかりだしな。しばらく先にして貰えるとありがたいが」



 今度は皆で旅行に行こうという話も出てきました。

 シモンの休暇もまだまだ五ヶ月近くはありますし、現状では特に差し迫った用事もありません。まだしばらく先になりそうですが、予定を合わせて皆で迷宮都市に遊びに行く約束をしました。






 楽しいお茶の時間が終わると、今度は元々の目的だったお土産の受け渡し。

 全員揃って大量の土産物を置いてある玄関ホールに移動しました。



「何か欲しい物があれば好きに持っていくといい」



 一人一本の木刀をはじめとした、謎のこだわりが感じられる品々に関しては半ばノルマ扱いですが、それ以外については各自が好きな物を取っていいという豪快さです。

 かなり大雑把な渡し方ですが、アクセサリーや文房具類に関してはそれぞれの好みもあります。大量の候補の中から自分で選ばせるようにしたほうが、受け取るほうとしても嬉しいですし、渡す側も都合が良いのです。



「じゃあ、私はこの万年筆を貰おうかな」


「その仮面がおすすめ」


『あ、このヌイグルミ可愛いの』


「仮面、おすすめ」


「俺はどうしようかな。何か食べ物でも」


「仮面」



 各々が自由に選んでいる横で、サイケデリックなデザインの仮面を手にしたライムが執拗にアピールしてきました。よっぽど気に入っているのでしょう。



「これ、妙なプレッシャーをかけるでない」


「むぅ」



 見かねたシモンが抑えにかかりました。

 その隙に皆は気に入った物をアレコレと手に取っていきます。



『これってさっきのお饅頭と同じのよね? 美味しかったから、持って帰ってお姉さんの叔父さんとかアルマお姉さんにもお裾分けするの!』


「おお、意外と気が回るね、ウル君。ま、自分がもっと食べたかったってトコだろう?」


『ふっふーん、当然なの! もちろん我も一緒に食べるのよ!』



 最近、レンリが訓練や迷宮探索で留守にしている時は、ウルは貰ったお小遣いで食べ物を買うか、レンリの叔父の弟子兼家政婦であるアルマ女史が作る料理を食べています。レンリが知らない間に随分と懐いていたようです。

 植物魔法の研究者であるマールス氏は、以前から植物や土で形作られたウルの身体に興味を示していたので、仲良くしておいて損は無いという打算も多少は有るのでしょうが。叔父と姪という親戚関係だけあってか、レンリのゴゴに対する態度と非常によく似ています。



「おや、茶葉もあるね。それじゃあ、コレも貰っていって一緒に頂こうか」


『うん、それがいいの!』



 レンリとしても、尊敬すべき魔道の先達であり、常日頃から世話になっているマールス達と仲良くしておくのは吝かではありません。どうせ二人では持ちきれないほど大量にありますし、お裾分けする分も含めて菓子類や茶葉、珈琲豆なんかも多めに確保しておきました。



「そうだ、ゴゴ君にもお裾分けに行こう。ウル君や、ちょっと伝えておいてくれないかい?」


『うーん……まあ、あの子がいいって言ったらいいけど』



 レンリは大量の食品類を見て、ゴゴにもお裾分けすることを思い付きました。

 もちろん、下心あっての打算的な作戦です。

 ウルにもそれを見透かされて警戒されています。


 美食家のゴゴであれば、学都では手に入らない迷宮都市の土産物には興味を示すでしょう。

 未だ試練に挑む資格なしと見做されているのか、レンリ達が普通に迷宮に入っても最近は姿を見せてくれませんが、お裾分けを渡すという理由があれば会える可能性はあるはずです。今より仲良くなる一助になるかもしれません。




 そんな風に仲良くお土産を物色していたレンリとウルの会話が耳に入ったのでしょう。



「ゴゴ? どこか聞いた名だな、たしか……」


「第二」


「ああ、そうだった。ウルの同類だな」



 意外と言うべきか、シモンとライムがゴゴの名に興味を示しました。



「なるほど、そなたらは第二迷宮に挑んでいる最中であったか」


「はい、シモンさんもゴゴ君の事を知って……ああ、いや、それもそうか」



 彼らは共に第二迷宮の試練を突破しているツワモノ。

 レンリ達が第二迷宮を進むのに使っている『裏技』も、元はといえばライムに教わったものですし、ゴゴと面識があるのも当然といえば当然です。まあ、接点はそれだけとは限りませんが。



「ああ、そうだ。ちょっとお二人に聞きたい事が」



 例の『絶対に勝てない強敵』を相手に戦う意味を考えろという、ゴゴからの宿題。

 レンリはシモンとライムにもその謎について相談してみました。


 この件について誰かに質問するのは初めてではありません。

 レンリの叔父のマールス氏や、騎士団や冒険者の中にも第二迷宮で資格を認められた者はいますし、その内の何人かには直接試練についての印象や戦闘の内容を尋ねる事ができました。

 迷宮について探索者同士で情報交換をするのは珍しいことではありません。中には馴れ合いを嫌ったり情報を秘匿する方針の者もいますが、レンリ達は何人かから第二の試練についての話を聞く事はできました。


 しかし、今のところ収穫らしい収穫はありません。

 『絶対に勝てない強敵』と戦わされるのは本当のようで、誰もが苦戦を余儀なくされたらしいのですが、合格した者も自分がどうして認められたのか明確に分かっていなかったのです。


 ちなみに、同じ守護者という事でウルは何か知っているようなのですが、レンリからの度重なる餌付けにも執拗なくすぐり攻撃にも屈することはなく、何も教えては貰えませんでした。普段の言動からするとただのアホなお子様に見えますが、あれでも守護者としての矜持はあるのです。


 第一のウルの試練では挑戦者の『起源』、迷宮に挑み力や知識を求める動機や意気込みを何かしらの形で示せるかが肝になっていました(その判断基準にも恣意的というか不明点は少なからずありましたが)。

 第二の試練にも何らかのテーマがあるとレンリ達や他の探索者も推測してはいるのですが、不合格者はもちろん合格者にもソレは明かされないようなのです。ある程度の推測はできても、現状では仮説の域を出ていません。


 意図的に合格基準を隠す理由がある。

 そう考えるのが自然ですが、肝心の理由についてはさっぱり分かっていません。

 ゴゴの聖剣の姉妹剣としての性質もそうですが、分かっている限りでも第一や第三以降の他の迷宮に比べても、第二迷宮は所々に異質さが見え隠れしています。






「……ふむ。正直に言えば心当たりは無くもない」



 シモンの回答は他の者達とは少し違いました。

 あくまで「心当たり」という控えめな言い方ですが、どうやら単なる推測以上に確度の高い答えを持っているようです……が。



「シモン、だめ」


「うむ、そうだな。済まぬが、俺の口から答えを教えることは出来ぬ」



 流石にそんなに甘い話はないようです。



「下手に言葉での説明を聞くと、かえって正解から遠ざかりそうだしなあ」


「自分で考えるのが大事」



 最初の問いからして謎めいていましたが、ますます哲学か神学の問答みたいになってきました。

 いつしかルカ達も土産を物色する手を止めて彼らの話を聞いていましたが、さっぱり答えが分かりません。考えれば考えるほどに答えから遠ざかっていくような気さえしてきます。



「だが、そうだな。考える手伝いくらいならしても良かろう」


「ええと……それは、どういう?」



 ですが、やたらと腕が立つこの二人組は相当なお人好しでもありました。

 ついでに、当分はスケジュールも空いていました。



「俺もそなたらの迷宮行きに同行しよう。どうせ、しばらくはヒマだしな」


「ん、私も」


「まあ、余計なお世話かもしれんし無理にとは言わぬが?」



 こうして、半ばヒマ潰しを兼ねての成り行きですが、シモンとライムがレンリ達の迷宮探索に付いて来ることになりました。 




RPGの序盤で高レベルのNPCが一時的にパーティーに加入する的なアレ

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