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お土産


 お屋敷の扉を開け、玄関ホールに佇むライムを見て悲鳴を上げたレンリとウル。

 まあ、恐ろしげなデザインの仮面を被り、両手に木刀を装備しているという異様な姿。驚くのも無理はないでしょう。


 ですが、ライムの側に危害を加える意図はありません。

 というか、仮にヤる気だったら悲鳴を上げる間も与えないはずです。



「お土産、一人一本」



 ライムは端的に用件を告げると両手の木刀を差し出してきました。この木刀や謎の仮面は迷宮都市のお土産だったようです。レンリ達は戸惑いつつも、危険な状況ではないことに安心し、木刀を受け取りました。



「ええと、なんで木刀?」


「お土産といえば木刀。魔お……知り合いが教えてくれた」


『あ~……なるほど、大体分かったの』



 ちょっとした家屋ぐらいなら丸ごと収まりそうな広さの玄関ホールには、他にも土産物と思しき雑多な品々が散乱しています。

 同じような木刀がまだまだ十数本にデザイン違いの仮面、鮭を咥えたデザインの木彫りの熊、『迷宮都市』とだけ印字された用途不明のペナント、お世辞にもセンスが良いとは言えないキーホルダー等々。

 普通にお洒落な衣服やアクセサリー類、便利な文房具、美味しそうなお菓子や珍しい調味料などの良さ気なモノも沢山ありますが、いったい何処に需要があるのか分からない謎めいた品々もそれなりの割合で混ざっているようです。


 ライムはそれらの土産物の仕分けを手伝っていたのです。

 シモンやライムの私的な友人知人に配るモノ。騎士団への差し入れとして持っていく予定の食品類。後ほどシモンが正装で領主に帰還の挨拶をする際の手土産等、色々と用途別に買ってきたのでしょう。



「でも、作業するだけなら仮面を被る必要はないのでは?」


「そうでもない。可愛いからやる気が出る」


『か、可愛いかしら? エルフのお姉さんのセンスはよく分からないの』



 仮面を被りながらだと視界が狭まって効率が落ちそうなものですが、ライムの足取りに迷いはありません。

 話しながらもテキパキと動いて作業を進めています。

 本人の言う通りに仮面のデザインが気に入ってテンションが上がっているのでしょうか。表情が隠れている上に口調も普段通りなので、ウル達には平常時との違いが全く分かりませんでしたが。




「おい、悲鳴が聞こえたが何か……ああ、いや大体分かった」


『あ、シモンさん! お久しぶりなの!』



 そうこうしている間に、先程の悲鳴を聞きつけたらしいシモンが玄関に出てきました。

 しばらく前から彼に懐いているウルは、見るからに目を輝かせています。



「ライムよ、突然その格好で出てきたら驚くから、仮面は外しておけと言ったろう」


「むぅ、可愛いのに」


「……可愛いか、コレ?」


「可愛い」



 ちなみに悲鳴の原因については、この状況を一瞥しただけで全部理解したようです。

 ライムも渋々とではありますが、注意を受けて仮面を外しました。デザインのセンスに関してだけは最後まで譲りませんでしたが。



「まあ、それは置いておいてだ、呼び立てて済まなかったな二人とも」


「いえ、お構いなく」


『シモンさんの為なら我はいつでも来るの!』



 レンリは普段よりやや丁寧に、ウルは薄い胸を張って元気よく答えました。



「ちょうど茶の準備が出来たところだ、食堂まで案内しよう。ライムも一度休憩するがよい」


「ん」


「はい」


『なの!』



 午後のお茶には良い頃合です。ライムとレンリとウルは、シモンに連れられて屋敷の奥にある食堂へと向かいました。







 ◆◆◆







「よっ、遅かったな」


 食堂ではルグが先に待っていました。

 どうやら、レンリ達が最後の到着だったようです。



『おぉ~! テーブルがすごく大きいの!』


「普段使いには逆に不便なのよね。いつも端っこしか使ってないし」



 テーブルの大きさに驚くウルに声をかけたのは、隣接する食堂から出てきたリン。その手にはお茶菓子が山盛りの大皿を持っています。お茶の時間に合わせて食堂で準備をしていたのでしょう。



「えっと、これが『銘菓迷宮都市まんじゅう』で、こっちが『迷宮都市せんべい』だったかしら?」



 お茶菓子はどうやらシモン達が買ってきた土産物のようです。

 小麦粉の皮に甘い小豆の餡が入った小さめの饅頭と、ライスを潰して固めて調味料を塗って焼いたしょっぱいお菓子。全体的に茶色が多めで地味な色合いです。

 先程の木刀やその他諸々と同様に、何者かによる「土産物とはこういうものだ」という謎の思想を感じさせる謎チョイスですが、まあ味は悪くありませんし問題ないでしょう。



「あ、二人とも……いらっしゃい」


「やあ、お邪魔しているよ、ルカ君」



 リンに続いてルカも食堂からお皿を持って出てきました。

 こちらのお皿には先の茶色いお菓子とは対照的に、クリームや果物がふんだんに使われた華やかなロールケーキが乗っています。迷宮都市と学都とは半日で行き来できる距離なので、温度管理にさえ気を付ければ、比較的日持ちしないタイプのお菓子でもお土産にできるのです。



「こっちは手に入れるのが大変だった」


「へえ、有名なお店の品とか?」


「違う」



 こちらのロールケーキは、ライムが苦労して入手した品だそうです。

 レンリは、てっきり行列のできる人気店にでも並んだのかと想像しましたが、



「仕留めるのに手こずった」


「はい……?」


「次は一撃で倒す」


「…………」



 ロールケーキを入手する過程で、いったい何をどうすれば「仕留める」とか「倒す」などという物騒な言葉が出てくるのでしょう。レンリは賢明にも深く追求することなく、脳裏に浮かんだ疑問をそっと飲み込みました。








◆◆◆◆◆◆





《オマケ》


リン

背はルカよりちょっと低めだけど、胸が大きめで手足がスラッと長い体型

髪は赤系で毛質は硬め


服装は適当


挿絵(By みてみん)



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