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ウル、邪悪な計画を阻止する為に頑張る

「やあ、ウル君。突然だけど、お小遣いをあげよう」


『どうしたの、お姉さん? まあ、貰うけど』


 ゴゴとの二度目の邂逅の翌朝。

 どういう風の吹き回しか、レンリは非常ににこやかな様子でウルにお小遣いをあげていました。これまでにも何回か似たようなことはありましたが、普段に比べて額がやたらと大きいのが妙に不穏です。



「で、その代わりと言ってはなんだけど、一つ頼みがあるんだ」


『頼み? そんなにお金を払ってまで……はっ!? も、もしかして我にいやらしい事を要求するつもりね! でも、心までは屈しないのよ!』


「違うっての。そんなの、どこで覚えてきたんだい?」


『近所の子達とおままごとしてると、割とよく出てくる設定なのよ? みんな色々教えてくれるの』


「最近のチビっ子は進んでるね……」



 もちろん、そんな事を頼んだりしません。

 わざわざウルに頼んだのは、彼女の能力を見込んでの事です。



「頼みっていうのはゴゴ君についてだよ」


『あの子がどうか……はっ、まさか、我じゃなくてあの子の身体を狙って?』


「だから、そうじゃな……うん、まあ、その件はいいじゃないか、ははははは」


『はっきり否定しないのが気になるのよ!?』



 レンリは明確に否定せず笑って誤魔化しました。

 明らかに何かを隠しているフシがあります。



「まあ、細かい事はさておきだ。キミ達は迷宮の外でも、近くにいるとお互いの位置が分かるんだろう?」


『それ、細かい事かしら……? うん、そうよ。あんまり離れてると分かんないけど』


「で、キミ達は本体である迷宮の外に出ると能力に制限がかかるんだよね?」


『そうだけど……それがどうしたの?』



 迷宮の守護者に共通の性質として、化身(アバター)同士の位置が近ければ気配で互いの存在を察知できたり、本体の迷宮の外に出ると能力に大きく制限がかかります。ウルだって自分の迷宮内で実力を発揮できれば、あのライムとだって互角に戦えるくらい強いのです。


 それらの性質は特に隠しているワケでもありません。

 どうして今更そんな確認をするのか、ウルは不思議がっていたのですが……。



「ゴゴ君は趣味の食べ歩きで、ちょくちょく街まで出てくるって言ってたからね。それを見つけ出して、弱体化してるところを狙って攫っ……いや、ちょっと部屋まで招待しようかと」


『思ったよりガチの犯罪だったの!?』


「そんな人聞きの悪い! 誤解だよ、私はただ彼女の身体を隅々まで調べたいだけでだね」


『ビックリするぐらい何の釈明にもなってないのよ!』


「ほら、実はもう拘束用の……じゃなくて、ゴゴ君にプレゼントしようと思って鎖付きの首輪まで買ってあるんだ、大型犬用のやつ。ああ、そうだ工務店に頼んで工房を防音仕様にしておかないと」


『や、やばいの……やばいの……』



 嬉しそうにゴツい鎖付きの首輪を見せびらかすレンリを前に、ウルは完全に引いていました。かつてない程のドン引きです。まあ、無理もないでしょう。


 一応、レンリを弁護するならば、彼女の行動の動機はあくまで研究者としての純粋な好奇心、学術的な探究心によるものです。

 同性の、しかも幼い子供相手に何かしらの口にできない欲求を抱いているような事は一切ありません。ありませんが……まあ、結果的にやろうとしている事を考えれば大差無いですし、やはり弁護は無理でしょう。出る所に出れば完全に有罪です。



『これは、我がなんとかしないとマズいの……!』



 仮に協力を拒んでも、今のレンリは一人でも恐るべき計画を実行に移しかねません。

 ウルもレンリが根っからの悪人だとは思っていませんが、現在の興奮状態が続いたら何をしでかすかは分かりません。どうにかして、しばらく頭を冷やさせる必要がありました。







 ◆◆◆







 だから、ウルは素直に公権力の助けを借りることにしました。



『副団長のおじさん、ありがとうございます!』


「いや、まあ、空いてるから別に構わないが本当に良いのかね?」



 以前にしばらく寝泊りした時に、ウルも騎士団の人々とは顔見知りになっています。

 禁書事件も終わって独房区画は再びガラガラの無人状態になっていましたし、見張りはウル自身がやるのであれば、騎士団側にも負担はありません。


 そうやって許可を得た後に、レンリが寝ている夜のうちに手足を縛り上げ、本部地下の独房まで運んできたのです。普通なら途中で目覚めて抵抗されそうなものですが、そこはウルの奥の手が物を言いました。

 様々な動物や植物に変身できる能力の応用で、指先をある種の植物に変化させて催眠作用のある毒液を生成し、夕食後のお茶に一服盛ってみたのです。一時的に眠くなる以外の効果は無い毒を選んだので、副作用や後遺症等の心配もありません。


 ちなみに運搬にはルグとルカの手を借りました。

 二人としても雇い主がガチ目の犯罪で捕まってしまうのは困るのです。友人としても収入源が断たれるという意味でも。レンリの変態的な興奮状態については、先日実際に見てウルと同じように危惧していたようで、断る理由は無かったようです。実にスムーズに事が運びました。



「私は無実だ! ここから出したまえ!」


『だーめ。しばらく、そこで頭を冷やすの』



 目が覚めたら独房に囚われていたレンリはしばらく怒っていましたが、



『ふふ、申し訳ありませんが強引なのは好みではないのです。まあ、ちゃんと節度を保って口説いて頂いたなら、ご招待に応じるのも吝かではありません。もちろん健全なお付き合いの範囲内で、ですけれど』



 面会に来たゴゴ本人にも計画を知られ、こんな風に言われてしまっては、レンリとしても引っ込まざるを得ません。

 ついでに用意していた首輪は長い刃と化したゴゴの爪により、目の前でバラバラに斬り裂かれてしまいました。弱体化している状態でも完全に無力になるワケではありません。

 ゴゴ曰く、『鉄鎖くらいであれば今の状態でも藁を斬るようなもの』だそうで。元々、拘束など不可能だったようです。レンリの失敗はそのあたりの弱体化度合いを見誤っていたことにもあるのでしょう。興奮していたせいもあってか、振り返ってみると隙の多い杜撰な企みでした。






 独房で半日ほど過ごしたら、レンリも普段の冷静な思考を取り戻したようです。

 それから客観的に自分の言動を振り返ってみると、そのあまりの酷さに思わず頭を抱えて床をのた打ち回っていました。どう考えても黒歴史確定です。



『やれやれ、もう来るんじゃないのよ』


「ああ、ありがとう……で、いいのかな?」



 こうして、自分の行いを振り返り深く反省したレンリは、好奇心に任せて暴走する事も……完全に無くなったとは言い切れませんが、ほんの少しはマシになったのでした。



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