ゲームのルール
『ルールは簡単です』
なんらかの意図があるのか。
それともただの気紛れか。
お茶会を終えたゴゴは、腹ごなしの為と称してゲームを提案してきました。
ゲームの賞品は、なんでも一つ質問に答えるというもの。
不審・不安は多々あれど、レンリ達としては付き合わざるを得ないようです。
『皆さんの誰かが一撃でもクリーンヒットを入れたらそちらの勝ち。我からは攻撃をしませんのでご安心ください』
ゲームの内容は、防御と回避に徹するゴゴに三人がかりで攻撃して、誰か一人でも直撃を与えることが出来れば勝利。普通に考えればレンリ達の側が有利すぎる条件です。
『制限時間は……そうですねぇ。随分食べてしまいましたし、二時間くらいでいかがです?』
「ああ、異存はないよ」
制限時間は二時間。
ルール上、時間が長引けば長引くほどゴゴはどんどん不利になっていきます。
この態度は余裕の表れ、もしくは自惚れなのでしょうか。
ですが、レンリとしてはどんな好条件でも考え無しに飛びつくことはできません。
「それと、始める前に一つ質問してもいいかい?」
『ええ、なんでしょう?』
「そっちが負けた場合は一つ質問に答えてくれる。それはいいとして、私達が時間切れで負けた場合のペナルティはあるのかな?」
そう、ゴゴが定めたのは自分が負けた場合についてのみで、三人の側が負けた場合については未だ言及していません。回答次第では、あまりにリスクが高いのならゲームに乗らず、おとなしく引き下がることも選択肢に入れなければならないでしょう。
幸い、それについては杞憂だったようですが。
『そういえば考えていませんでした。そうですね、何も無しでは勝負に張りが出ませんし……では我が逃げ切った場合は、また美味しい物でも持ってきて頂くというのはいかがです?』
「……ああ、それでいいよ」
『ふふ、これは頑張らないといけませんね。皆さんも頑張ってください』
気合を入れているつもりなのか、ゴゴは両手で可愛らしくガッツポーズなどしています。
しかし、先程から無駄な緊張を何度も強いられては肩透かしを食っているレンリとしては、心穏やかではいられません。単に深読みしすぎ、気負いのしすぎで、勝手に空回りしているといえばそうなのですが。
「質問。どうやって時間を計るんだ?」
『ああ、それは別の我にやってもらいましょう。審判についても同じく』
ゴゴがそう言うと同時に、迷宮表層のブロックが形を変え、身長170cmくらいの全身鎧の騎士の姿を取りました。
関節の隙間以外ほとんど全身をゴツゴツした装備で覆い隠しており、性別や正確な体格は一切不明。真っ黒い鎧兜の所々に金色の装飾が入っていて、見るからに只者ではない雰囲気を纏っています。
『実は、普段試練をやる時はこういう姿で人前に出るんですよ。この子供の身体のほうが落ち着くんですが、この見た目だと威厳に欠けますからね。では我、公平な審判をお願いします』
『承知した。偉大なる主神の名にかけて公正な判断を約束する』
この鎧の人物もゴゴの一人なのでしょう。
細かな会話がなくとも、自分同士で情報を共有しているようです。口調や性格が違うのは、例えれば多重人格者の人格それぞれが独立した身体を持っているようなものでしょうか。
本質となる部分は共通でも各個体に異なる個性があるのは、ウルの少女型や動物型の違いとも一緒です。恐らくは守護者共通の性質なのでしょう。一番しっくりする姿だと自由奔放になる点も同様に。
『では、双方準備は良いか?』
『ええ、我はいつでも』
審判ゴゴの問いに少女ゴゴは朗らかに答え、レンリ達もコクリと頷きました。
三人とも既に武器を構えた臨戦態勢です。
『双方、遺恨無き勝負を望む。では、開始っ!』
勝てば大きなリターンがあり、負けてもリスクはほとんど無し。
そんなゲームが、今ここに幕を開けました。




