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レンリと騎士団長


 時間的には、ルグとルカが冒険者ギルド内で登録受付をしている頃。



「おや、彼はたしか……?」



 乗合馬車オムニバスの車窓越しに知った顔を見かけたレンリは、ちょうど馬車が停留所に止まったタイミングでもあったので、降車して挨拶をすることにしました。元々、今日はこれといった用事もないので身軽なものです。



「やあ、団長さん。昨日はどうも」


「おお、レンリ嬢ではないか。こちらこそ昨日は世話になったな」



 レンリが見かけたのは、昨日事情聴取を担当した騎士団長氏でした。

 部下であろう騎士や従者を引き連れた堂々たる立ち居振る舞いは、若すぎる外見に反して意外とサマになっています。



「こんな所で奇遇ですね」


「うむ、昨日の手配書が明け方に仕上がってな。ここの組合ギルド長には他の用件もあったから、ついでに渡しにきたのだ。今はその帰りだな」



 “こんな所”というのは、中央街の冒険者ギルドのこと。

 公的な団体である騎士団と民営組織である冒険者組合は、世間では商売敵のように思われることもあるのですが、実際には情報の相互提供などもして助け合う間柄なのです。



「ところで、レンリ嬢はどちらへ?」


「特にコレといった用事はないんですけれど……ま、学都見物ですかね。色々見て回ろうかと」



 レンリに予定がないことを聞いた団長氏は、


 

「ほう、特に用事はないと? そうか、そうか。ところで、この近くに美味いマス料理を食わせる店があってな、香草焼きが絶品なのだ。少し早いが、一緒に昼食でも如何かな? 昼食の後は観光の案内も任せるがよい」


「え……流石にそれは悪いのでは?」


「なに、遠慮は要らぬ。淑女レディの助けをするのも騎士の務め故な」



 途端に纏う雰囲気が緩くなっていました。

 セリフだけならばまるで軽薄なナンパ男のようなのですが、しかし不思議と下心のようなものは感じられません。もっとも、本当に下心がないのか真意を隠すのに長けているだけなのかは、出会って日が浅いレンリには判断が難しいのですが。



「ええと……」



 相手の立場が立場なので、無下にしていいものだろうかと迷っていると、今まで団長氏の後ろで苦笑しながら聞いていた従者らしき女性がレンリに助け舟を出しました。



「ほら、団長。そちらのお嬢様が困ってますよ」


「む、そうなのか? もしかして、俺はまた何かおかしな振る舞いをしてしまったのだろうか?」


「親切は結構ですけれど、もう少し距離感を考えてくださいね。前にもそれで“その気”になっちゃったお嬢さんをフって泣かせちゃったでしょうに。何かあったら、また例のお友達に注意してもらいますからね?」


「そ、それは困る、彼奴には黙っておいてくれ!? あいつを怒らせると洒落にならん!」


「それに、午後の一番から領主様との会議が入ってますから、どっちにしろご案内する時間はありませんよ。始まるまでに、ちゃんと資料にも目を通しておいてくださいね」


「ああ、そうだったか。ならば香草焼きはおあずけだな……」



 レンリは蚊帳の外に置かれたままですが、どうやら団長氏と部下の女性の間で何かしらの話が落ち着いたようです。



「レンリ嬢よ、何か不快にさせていたのなら謝罪しよう。俺はどうも人と距離を詰めすぎるきらいがあってな。よく部下や友人にも叱られているのだ」


「あ……ああ、いえ、お気になさらず」



 どうやら、先程の誘いはナンパではなく、本当に彼なりの親切心から来るものだったようです。

 団長氏は客観的に見ても整った顔立ちをしていますし、恐らくは家柄や財産も人並み以上に持ち合わせているのでしょう。

 あんな具合に誰彼構わず接していたら、部下の女性が言うように、彼自身にその気がなくとも恋愛トラブルを抱え込むであろうことは想像に難くありません。

 本人が言うように、きっと、そのあたりの距離感の測り方が不得手なのでしょう。




「以前に友人から叱られた時には思い切り反り投げスープレックスを喰らってな。石畳の上だったのだが、首から上が地面に埋まって結構痛かった」


「……よく生きてましたね、それ?」



 どうやら、団長氏の頭蓋骨は相当に頑丈なようです。

 彼の部下一同の様子からしても、そのエピソードは冗談の類ではなく本当にあった出来事なのでしょう。滅多なことでは動揺しないレンリも、その情報には思いっ切り引いていました。







 ◆◆◆







「では、そろそろ失礼す……っと、その前に一つ忘れていた」


 話を終えて立ち去ろうとした騎士団一行でしたが、その別れ際に団長氏はくるりと振り返りました。



「昨日も聞いたが、レンリ嬢は迷宮に入るつもりなのだろう?」


「ええ、そのつもりですよ。消耗品や護衛を揃えてからになるから、もう少し先になるでしょうけれど」



 彼らの眼前に立つは、七支の巨大杖『アカデミア』。

 すなわち、この街の名前の由来ともなった、学都の中心に位置する神造迷宮の入口があります。


 その杖を眺めながら、団長氏はお得な情報をレンリに伝えました。



「うむ、それならば騎士団ウチと冒険者ギルドが共同で迷宮初心者向けの講習をやっていてな。無理にとは言わんが、良かったら受けてみるといい。きっと、いい経験になるだろう」



このポッと出の新キャラの騎士団長、不思議と書きやすいなー。なんでかなー?(棒読み)

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