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ルカの恩返し


 レンリが体調不良のため迷宮探索が中止になった日のお昼頃。

 騎士団での合同訓練を終えたルカは帰宅の途にありました。

 ちなみに一緒に歩いているルグは、昼食休憩がてらルカを家まで送ったら、再び訓練場に戻って午後のトレーニングにも参加する気のようです。


 基本的に同年代以上の異性は苦手なルカですが、童顔で小柄なルグ相手であれば普通に話すことができます。



「……ふぅ……疲れた……暑い、ね」


「まあ、夏だからな」


「そ、そうだよね……夏……だもん、ね……」


「「…………」」



 あくまで彼女基準での普通ではありますが、家族以外で気を遣わずに喋れる数少ない相手には違いありません。幼い外見を気にしている彼が気を悪くするといけないので口に出しはしませんが、ルカにとっては弟がもう一人増えたような感覚でした。



(ルグ君、優しいから話しやすいんだよね)



 今日もいつものように、人見知りのルカを一人にして不安がらせないように、ルグは偶然を装って早めに訓練場で待っていてくれました。

 毎度気を遣ってもらって悪いとは思うものの、それに助けられているのも確かです。

 以前、レンリにこっそり相談したところ「ルー君は何も言ってないんだろう? それなら、あえて気付いていないフリをして男の子に格好付けさせてあげるのが佳い女というものだよ」というアドバイスを貰ったこともあり、ついつい甘えてしまっているのが現状です。


 それ以外でも、禁書事件に巻き込まれる前には監禁紛いのことをしたのに、一言もルカのことを非難したりしませんでしたし、レンリもそうですが諸々の素性やルカの家族のことを知っても全く態度を変えずにいてくれました。既に仲間としての信頼関係がある程度構築されていたとはいえ、客観的に考えれば呆れるほどのお人好しぶりです。



(何か恩返しできればいいんだけど……やっぱり料理かな? でも……)



 冒険中に料理をする時などに、さりげなくルグの好みの味付けに寄せたりはしていますが、食材や調味料に制限のある野外調理では自ずと限界があります。

 かといって、自宅に招いたり彼の部屋にお邪魔して料理を振舞うのは心情的に少し、いえ物凄く難しい。実質不可能と断言してしまっても大袈裟ではないでしょう。そんな勇気があれば、そもそもこんな風にうじうじ悩んだりしていません。


 そもそも料理が出来るとはいえ、それはあくまで亡き母や姉のリンに習った家庭料理の範疇。お礼として相応しい価値があるかと言えばルカ自身大いに疑問でした。


 しかし、料理以外でルカに出来る事といえば、あとは怪力を活かして重い荷物を運ぶくらい。

 ルグの私生活においては、彼が引越しをするなり新しい家具を買うなりしないと役立てる場面は皆無。冒険中の荷物持ちに関しても、ルグは自分の荷物をルカやレンリに持たせようとしたりは決してしませんし、無理に荷物を引き受けようとして彼に心苦しい思いをさせては本末転倒です。



(……やっぱり思いつかないなあ)



 友達付き合いの経験値が極端に少ないせいか、いくらルカが頭を捻ってみても良い考えは出てきません。いっそ、ルグのほうから何か頼み事でもしてくれれば、自然な形で借りを返すことも出来るのですが、そういう機会はついぞ無く、借りばかりがドンドン増えているのが現状です。


 まあ、そもそも誰に頼まれたでもなし。

 ルグ本人も改まったお礼など欲していないのです。

 それにも関わらず、頑なに報いなければならないと思い込んでいるのは、いわゆるコミュニケーション能力の低さ故でしょうか。他者との適切な距離感や友人との付き合い方というものが、ルカにはイマイチ分からないのです。



「おーい、ルカ。あそこのデカい家で合ってるか?」


「う、うん……そう……あってる」



 今日も良い考えが浮かばないままに屋敷まで着いてしまいました。

 素性がバレるまでは家族と出くわして正体がバレないよう見送りを固辞していましたが、無罪放免の身となった今となっては住処を隠す意味もありません。



「あれだけ広いと掃除とか大変そうだな。庭も広いし……いや、家主がシモンさんだし、執事とかメイドを大勢雇ってたりするのか?」


「ううん……今は、お姉ちゃん……が」


「すごいな、ルカの姉ちゃん。そういや料理も上手かったしな」


「うん……お姉ちゃん……すごい……」



 本来の家主であるシモンは当面の生活費として充分なお金を置いていったので、その気になれば使用人を雇うことも出来るのですが、長年染み付いた節約生活の習慣はそう簡単には抜けてくれません。


 そのうち、迷宮都市まで行っているシモンが帰ってきたら使用人を雇うこともあるかもしれませんが、現在は自分達だけで協力して、どうにか必死に屋敷の維持管理をしていました。これでは、折角豪邸に住んでいるというのに住み込みのハウスキーパーとほとんど変わらないでしょう。

 しかも、隙あらばサボろうとするラックは基本的に役に立ちませんし、まだ幼いレイルは力仕事や高い所での作業は物理的に不可能。ルカも在宅中はなるべく家事を手伝うようにしていますが、貴重な現金収入の手段である冒険者の仕事やその為の訓練があればそちらを優先せざるを得ないのです。


 そのような事情によって、必然的に負担はほとんどリン一人に集中していました。

 それでも生活空間を絞ることで掃除が必要な箇所を限定し、出費を最低限に抑えつつ屋敷の管理やそれ以外の家事全般を完遂出来ているあたり、驚異的な家事能力の持ち主と言えるでしょう。

 リン本人が聞いたら怒りそうなので誰も言いませんが、どこかの城にでも勤めて本格的にメイドの道でも志したら大成する器かもしれません。





「へえ、やっぱ門もデカいな」


「えと……送って、くれて……ありが、と……」


「ああ、別にいいって。昼飯食いに行くついでって言ったろ。じゃ、また明日」



 屋敷の門まで着いたら、もうそこでお別れです。

 引き止める間もなく、ルグは走って行ってしまいました。



(今日もルグ君にお返しできなかった。やっぱり、わたしダメだなあ……)



 ルカは、心の内で密かに自分の不甲斐なさに落ち込んでいたのですが、



「っと悪い、言い忘れてた!」


「え、あ……なに……?」


 

 何やら用件を伝え忘れていたようで、ルグはすぐに引き返してきました。



「いつも、これ忘れるんだよな。あのさ、頼みたい事があるんだけど」


「……! な、なに……?」


「あのさ、実は」



 しかも、忘れていた用件というのはルカへの頼み事のようです。

 口ぶりからするに、それほど深刻な内容ではなさそうですが、彼への恩返しを自然な形で出来る絶好の機会。ルグからの頼み事を、ルカは迷わず快諾しました。



◆ルグの密かな(つもりの)気遣いはとっくにバレバレでした。

◆本編でのルカはアレでも彼女基準でかなり饒舌になっています。周囲に気を許せる相手がいない場合は口下手の度合いが大幅に増し、ほとんど意思疎通が不可能に。

◆レンリ含め、三人の間に好意はあるけど現状はラブではなくライク的な意味です。ユウジョウ!

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