姉妹剣
屋敷のお風呂場にて。
ゴゴ本人の許可を得た上で、ウルは改めてレンリへの説明を始めました。
『簡単に言うとね、あの子は武器に変身できるの』
ウル曰く、迷宮の管理者としての汎用機能はまた別として、ゴゴの化身が用いるのは、全身、あるいは身体の一部を剣や槍などの金属武器に変える能力。そして、自らの手足が変じた武器を文字通りに手足の如く操れる武器術の使い手でもあるそうです。
『でも、動物とか虫にはなれないから人型だけだし、一度に出せる身体も少ないの』
単純な分だけ付け入る隙が少ない強力な能力ですが、ゴゴ自身は決して完全無欠の存在ではありません。ウルほどの変幻自在の変身能力は持たないようですし、一度に出せる化身の数も精々数百体。
得意分野が違うということなのでしょうか。
迷宮内であれば何千何万と、ほぼ無制限に強力な分身を生み出せるウルに対し、ゴゴは個の力に特化しているようです。
大陸サイズの迷宮である『樹界庭園』に比べれば、『金剛星殻』は直径100kmの球体と随分手狭ですし、そもそも第二迷宮にはウルの試練を突破した者しか立ち入れません。数百人程度でも探索者に試練を課すにはそれで充分ということなのでしょう。
『それに、身体を造るにも時間がかかるし……あれ、どうしたの? のぼせちゃった?』
「え……ああ、すまないね。大丈夫だよ」
大事な話を聞いている最中だというのに、レンリは途中から上の空になっていました。
どうやら、ゴゴの能力について思うところがあるようです。
「その、色んな武器に変身して使いこなせるっていうのが、なんだか勇者の聖剣みたいだな……って思ってさ」
変幻自在にして縦横無尽。
どのような形状の武器にも変形し、常に完璧に使いこなせる神造剣。
ゴゴの能力は、かつてこの世界に現れた勇者が持つ聖剣の特徴に酷似していました。聖剣やゴゴ達を創ったのが同じ神である以上、被造物同士に共通点があっても不自然ではありません。
その聖剣を理想として研鑽を重ねてきたレンリとしては、興味を示さずにはいられなかったのでしょう。そもそも、遥々故郷を離れて学都に来たのだって、神造迷宮で得られる知識が聖剣に至る手がかりになると思ったからなのです。
そして、その手がかりが――――想像とは異なる形ではありましたが――――実際に目の前に現れた。
これが高揚なのか、あるいは動揺なのかは、レンリ本人にも判然としませんでしたが、この出会いに心が揺れるのは仕方のないことでしょう。興奮のあまりか、走ったわけでもないのに心臓が高鳴っていました。
そして、ある意味トドメとなったのが続くウルの言葉でした。
『聖剣みたい……って、それは当然なの』
「当然?」
『あのね、あの子は我と同じ迷宮だけど、それだけが全部じゃないの。えっと、主神さまは聖剣の姉妹剣として創ったとか言ってたのよ』
「姉妹剣……!」
剣の世界には、姉妹剣や夫婦剣などという言葉があります。
無論、血の通わぬ武器に兄弟姉妹の関係などはありません。近しい性質・性能を持った二振り武器をそのような家族関係に例えているのです。
迷宮の守護者としてだけでなく、勇者の持つ聖剣の姉妹剣としての側面も持つゴゴは、ならばレンリの目標に限りなく近い存在と言えるでしょう。製法を聞き出すことが出来れば、それが無理でも観察や研究の対象としてこれ以上の存在はありません。
「こうしちゃいられない! また、すぐにでも迷宮に……に、に?」
レンリの興奮はいよいよ最高潮に達し、
「うっ!? なんか頭がグラグラする。気持ち悪い……」
『わっ、顔が真っ赤なのよ!?』
熱気のこもった浴室に長時間こもった上で興奮したのがトドメになったようで、のぼせて気分が悪くなったのに加えて脱水症状を起こし、また二日ほど寝込むハメになりました。




