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ゴゴの情報


 第二迷宮での初回の探索を終えた日の夕方。

 レンリは全身泥んこになって帰ってきたウルと一緒にお風呂に入っていました。居候先のマールス邸には個人宅にしてはちょっと大きめの浴室があるのです。



『あはははは! それでビビって逃げ帰ってきたのね? まあ、人生そういうこともあるの。ほら、元気出し……ぷくくく、ざまぁないの!』


「せめて、励ますか笑うかどっちかにしてくれない!?」



 今日の迷宮での出来事を話したところ、ウルは励ましながら嘲笑するという器用なマネをしていました。相変わらず、仲が良いのか悪いのかよく分からない二人です。



『じゃあ、笑うの! あはははははっ』


「おのれっ!」



 なんの遠慮もない、見事なまでの大爆笑でした。

 しかし、レンリのほうもナメられっぱなしは面白くないようです。



「これでも喰らいたまえ!」


『ぷわっ!? お水遊びね! 面白いの!』



 笑われたレンリが湯船のお湯をウルの顔目掛けて飛ばし、それを新しい遊びと勘違いしたウルも両手を組んだ水鉄砲で応戦します。

 そのまましばらく、二人でバシャバシャと素っ裸でお湯をかけ合っていました。

 仲の良し悪しはさておき、本質的な精神レベルは非常に似通っているようです。



「暑っ、汗かきすぎた……!」


『ふっ、今回はこのくらいでカンベンしてやるの』



 結局、先にレンリが暑さに参ってしまい、今回の勝負は体質的にのぼせることの無いウルが勝利を収めました。なんの勝負だかは本人たちにも一切不明でしたが。

 


「……にしてもあの子、ゴゴ君だけどさ」


『んにゅ? あの子がどうしたの?』


「ウル君の同類にしては随分雰囲気が違うよね。単に性格が違うとか、そういう表面的なのじゃなくて」



 湯船から上がったレンリは、洗い場でウルの髪を洗ってやりながら、気になっていたことを聞いてみました。


 レンリ自身も上手く言葉にできない感覚でしたが、ウルの妹を名乗るゴゴは、話した印象も途中からの異常な威圧感にも、何か得体の知れない異質なモノがありました。

 ウルと似通っているのは、見た目の体格と食いしん坊なところくらいでしょう。



『ふふーん! あの子はまだお子様だから、我のほうがオトナっぽく見えるのは仕方ないの』


「ウン、ソウダネ」


『すごい棒読みなの!?』



 背丈だけはゴゴよりもちょっとばかり上のようですが、そもそもの大前提として彼女達の容姿はある程度任意で変更可能なので見た目の差を比べても無意味。そもそも、あらゆる意味でオトナっぽさとは無縁なウルがこんなことを言ってもただの冗談にしか聞こえないでしょう。

 ゴゴによると、ウルもその気になれば大人の姿と、容姿に見合った人格になるらしいですが、今のお子様姿からは到底想像できません。



『まあ、マジメな話をすると、あの子は迷宮の中でもちょっと特別なの』


「特別って?」



 ウル曰く、ゴゴは七つの迷宮の中でも特別な存在である……らしいのですが。



『あ、でも、これ言ってもいいのかしら?』


「うん? 口止めでもされてるのかい」


『ううん。そういうわけじゃないんだけど、コジンジョーホーを勝手に漏らすのは“ぷらいばしー”がキケンで危ないからダメって主神あるじさまにも言われてるし……ちょっと待つの』


「……ウル君?」



 どうやら、ウル達を創り出した神様は、個人情報の取り扱いについて幼いうちからキチンと考えさせる教育方針のようです。ヒトならぬ迷宮がその対象に入るかはさておき、ウルは目を閉じると唐突に独り言を呟き始めました。



『――――もしもし、ちょっと聞きたいの――――』


『――――うん、そう。そのお姉さんが知りたいみたいなんだけど――――』


『――――わかったの、伝えておくのよ。じゃあ、またね――――』



 ウルは、そのまま三分ほどブツブツと呟いていたでしょうか。

 手持ち無沙汰になったレンリは自分の髪を洗っていると、目を開いたウルが振り向きました。



『お姉さん、さっきの教えてもいいって言ってたのよ』


「もしかして、いまゴゴ君と話してたの?」


『うん。本体の迷宮われを通してあの子に聞いてみたの』


「へえ、便利だね」



 今この場にいるウルは、本体である第一迷宮の管理機構と空間を越えて常時繋がっています。

 第二迷宮の化身アバターであるレンリが会ったゴゴとは直接話せませんが、本体を仲介すれば会話程度は出来るのです。そうやって、ゴゴについての情報を話してもいいか確認を取ったのでしょう。



『えっとね。あの子の能力とか他の迷宮との違いについては言ってもいいって。ただし……』


「ただし、か。なるほどね。対価が必要ってワケかい」



 勿論、世の中そう滅多に美味い話はありません。


 重要な情報の対価として何を求められるのか。

 レンリは密かに緊張しながら続く言葉を待っていましたが、



『うん。次に迷宮に来る時でいいから甘いケーキをお土産に持って来て、って』


「そんなのでいいんだ……対価安いなぁ」



 こういうのも取引というのでしょうか。

 美味い話はそう滅多に転がっていませんが、全く無いこともないようです。試練を課す守護者の能力や正体という重要情報が、菓子折り一つで手に入ってしまいそうでした。



書いておいてなんですけど、お風呂回っていうのはもっと色気があるべきだと思いました。

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