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カエル肉の炒め物(ガーリック風味)


「それじゃ、ちょっと早いけどお昼にしようか」


 巨大カエルとの戦闘は無事に終わり、せっかくなので少々時間が早めですが昼食を摂ることになりました。必要な分だけを切り取って持ち運ぶのは手間ですし、現在三人がいる大部屋は安全地帯でこそありませんが、遮蔽物なども無く休憩にはもってこいです。



「後脚が美味いって言ってたよな?」


「うん、大抵のカエルはそんな感じのはずだよ。これも似たようなモノじゃないかな」



 レンリの要望通り最低限のダメージだけで倒したので、可食部はほぼ無傷で残っています。

 扱いが難しい頭部や内臓などはそのまま残しておいて、ひとまずは太い脚の一本を切り分けて試食してみることになりました。

 哺乳動物とは身体の構造がかなり違うので丁寧に解体しようと思ったら大変ですが、脚を落としてからナイフで細かくする程度なら然程の手間でもありません。



「今はとりあえず適当に切り分けて火を通せばいいか」


「うん……味付けは、岩塩と……胡椒、かな?」


「ああ、ルカ君に任せるよ。試してみて美味しかったら持って帰ってもいいかもね」



 冒険中の調理にも随分慣れたものです。

 彼らも第一迷宮ではなんだかんだと三ヶ月以上も実地で経験を積んできたのです。しばらく間が空いてしまいましたが、この程度の調理なら今更苦にもなりません。


 分厚い鉄製のフライパンや調理用のナイフ、調味料や簡単な食器なども持ってきているので、道具面での不備は無し。荷物の中には、常温でも日持ちするニンニクや生姜のような香味野菜の用意もあります。

 火熾しについてはわざわざ焚き火を熾さずとも、手頃なサイズの小石をレンリの刻印魔法で発熱させれば熱源としては充分です。もっとも、慣れないうちは熱の範囲調節をしくじって食材を炭にしてしまったこともありましたが。


 また、地下迷宮の類で下手に火を使うと窒息の恐れもあるのですが、そこは流石の神造迷宮。第二迷宮を構成する石や金属のブロックに浄化の作用があるようで、有毒なガス等はすぐに吸収・分解されてしまいます。

 ちなみにその浄化作用の効能は気体だけでなく個体や液体にも及び、死んで一定時間が経過した魔物の死骸や調理過程で出た生ゴミ、また探索者の排泄物の類まで迷宮自体が後始末をしているのです。

 森林が主であった第一迷宮なら、それらは適当に穴を掘って埋めてしまえば良かったのですが、土が存在しない第二迷宮ではそうもいきません。放っておいたら迷宮内が悪臭と有毒ガスで埋め尽くされてしまいます。恐らくは、管理者の側が必要と判断して迷宮にそのような機能を持たせているのでしょう。







 ◆◆◆







「で、できた……よ。どう……かな?」


「どれどれ。うん、イケるね」


「美味いな、カエル」


 出来上がったのは、ぶつ切りにした脚肉を塩コショウとニンニクスライスと一緒に炒めただけのシンプルな料理。カエルの皮裏から削ぎ取った皮下脂肪を熱して炒め油の代わりにしてあります。



「大きい生き物は大味なんて言うけど、全然そんなこと無いよね」


「うん……おいしい……生きてる時は怖い、けど」



 元のグロテスクな外見からは想像もできない上品な肉質。例えるならば鶏のモモとムネ肉の中間、それぞれの良い所を合わせたような具合でしょうか。



「この味はアレだね。なんというか、こう、白いライスと一緒に食べたくなる感じ」



 肉類としては淡白な印象ながらも決して味が薄いわけではなく、噛み締めるとジューシーな旨味が染み出てきます。また、脂も新鮮な為か変な臭みはなく、むしろ鶏油のようにほのかな甘みのある食欲をそそる香りです。



「おいしい」


「うまい」


「お、おいしい……ね」



 なにしろ、元は1m以上もある化けガエルなので、後脚二本だけでもかなりの量になります。少なめに見積もっても一本で10kg以上にはなるでしょう。調理も手間のかからないお手軽なものですし、物足りなければすぐに追加を作れます。


 一見すると横道に逸れて時間を浪費しているようにも思える状況ですが、どうせ本日の主目的であった『裏技』が実用可能かどうかの検証と、新しい魔剣の実戦テストは済んでいます。元々今回は日帰りの予定でしたし、食べ終わったらそのまま帰っても問題ないのです。

 今いる辺りはもう持っている地図の範囲外ですが、来る時に掘り進んできた壁の穴を戻れば『戻り石』のある安全地帯までは労せず辿り着けるでしょう。


 そんなワケで、三人はのんびりと長めの昼食を楽しんでいたのですが、



「……ん?」


「どうかしたかい?」


「いや、今何か……?」



 ふと、ルグは何者かの視線を感じて周囲を見渡しました。

 ……が、パッと見では特に人影などはありません。


 他の探索者であれば姿を隠す意味はありませんし、この辺りにいるような知能の低い魔物であれば、人間の存在に気付いたらとっくに襲い掛かってくるか逃げるかしているはずです。わざわざ気配を隠して身を潜めるようなことをするようには思えません。


 ルグ自身も気のせいかと思いかけていましたが、万が一、敵だった場合の用心のために、魔剣に魔力を通した状態で周囲を観察してみることにしました。

 食事のおかげで多少の魔力は回復していますし、短時間の使用であれば問題ありません。

 そうして集中力を一時的に増大させ、改めて周囲の観察をしてみると、



『じー』


「……子供?」



 通路の陰に身を隠しながら、なにやら物欲しげな様子で三人を『じー』っと(実際に小さな声を発しながら)眺めていた変な子供の姿に気が付きました。



◆カエルは中華風の唐揚げを食べたことがありますが、上品で美味しいお肉でした。小さいカエルだと小骨を取るのが面倒なんですが、これくらい大きいカエルがいたら食べやすそうでいいな~、と。


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