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魔剣の効果


 敵の攻撃を防ぐのではなく、避ける。

 防御では受けた衝撃で体勢が崩されてしまうこともありますし、多少のダメージも喰らいます。徒手格闘であればともかく、武器を用いた対人戦闘や鋭い爪や牙を持つ魔物が相手では、迂闊な防御は即敗北に繋がりかねません。

 味方の盾としてあえて敵方の攻撃を引き付ける必要でもない限りは、回避行動が守勢における基本になります。


 しかし、言うは易し行うは難し。

 攻撃を避けようとしても相手は当然当てようと狙いを調整してきます。

 危険域から外れようと飛んだり跳ねたりする手は有効ですが、大きい動作では回避に成功してもそれ自体が隙になります。

 足の速い敵であれば避けた先を狙いに来るでしょうし、駆け引きに優れた戦術家であれば、牽制の攻撃で相手の避ける方向を自在にコントロールすることも可能です。


 よって、守勢に回った状況においては相対する敵の動きを読んで最低限の動作でかわし、即座の反撃に繋げられる状況を作るのが理想的な流れになるでしょうか。

 小さい動きで回避を成功させれば、動作の隙も最低限になります。

 いかな達人とて攻撃の瞬間には隙が生まれるもの。攻守はたちまち反転し、勝利への道筋も見えてくるでしょう。


 とはいえ、当然ながら純粋な武術の鍛錬だけではその域に至るのは簡単ではありません。

 ギリギリの回避や、それを可能にする見切り。それらは本来、飛びぬけた才能か長い努力、あるいはその両方があって初めて可能となるのです。


 ルグの実力は未だその域に至ってはいません。

 それにも関わらず、先程の彼は初見の魔物を相手に完璧な回避をしてみせ、逃げるヒマも与えず一撃で倒してのけていました。タネを知らなければ、余程の達人か天才のようにも見えたことでしょう。


 その見切りの秘密は、レンリが仕掛けを施した魔剣にありました。







 ◆◆◆







「で、どうだいルー君? 実戦で使ってみた感想は?」


「ああ、悪くない。ただ、やっぱり魔力はかなり食うな。しばらく休まないと使えそうにない」


「ふむふむ。その辺の魔力効率には改良の余地がある……いや、キミの魔力量そのものを鍛えたほうが手っ取り早いか」


 ルグが持っている長剣は、元は武器屋で買ったごく普通の青銅剣。

 ですが、その剣にレンリが刻印魔法の細工を加え、とある魔法効果を付与してたのです。



「す、すごいね……さっき、どうやったの……?」


「えっと……言葉で説明するより実感したほうが早いか。ほら、この剣に魔力通してみな?」


「う、うん……?」



 剣の詳細について知らないルカはキョトンと首を傾げていましたが、百聞は一見にしかずということで、ルグが剣を貸しました。そうして剣に魔力を流してみたルカも、すぐに魔剣の秘密に気付いたようです。



「……え? あ、すごい……ゆっくり」



 剣に魔力を通したルカの目には、眼前の光景全てがスローモーションで見えていました。

 試しに壁の破片を拾って放り投げてみたところ、回転する欠片の模様すらも見て取れるほどです。これならば、先程の魔物の攻撃など欠伸がでるほどのスピードに感じるでしょう。


 一流の武芸者や運動競技者が稀に至る集中力の極致。

 いわゆる『フロー』や『ゾーン』と呼ばれる状態においては、高速で動く物体が止まっているかのようなスローモーションで見えたり、普段以上の筋力や瞬発力を出せるようになったりと、超人的なパフォーマンスを発揮できるようになります。


 この魔剣に刻まれた魔法効果は、神経系の働きを著しく強化することで、擬似的に極限の集中状態に入れるようにするものだったのです。



「ふふふ、ルカ君も驚いたかい?」


「う、うん……驚いた……すごい、ね」


「まあ、魔剣としては割とメジャーな部類なんだけどね。欠点も無いわけじゃないし」



 主な欠点としては魔力消費が非常に大きい点でしょうか。

 元々の魔力が低いルグでは、極力抑え気味にしても精々一分未満。

 魔力量に自信のある魔法使いであっても一時間に満たないでしょう。


 連戦が基本になり継戦能力が重要となる迷宮では、如何に消耗を抑えるかが重要になってきます。短時間だけ圧倒的な力を発揮できても、これでは使い勝手が良いとは言えないでしょう。


 対策としては、戦闘中の要所要所で効果のオンオフを切り替えて、ここぞという場面の切り札として活用するような方法がありますが、その見極めにもそれなりの経験が必要になります。

 ルグが完璧に使いこなせるようになるには、まだ当分かかるでしょう。


 それに魔力に余裕がなくなり、魔剣に他の効果を持たせることもできません。

 ルグの剣は耐久力に関しては普通の青銅剣と同等のままなので、破損の危険も常に付いて回ります。

 今回の探索は様子見としての意味合いが大きく、強い魔物もいない区画なので問題ありませんでしたが、今後はその時々の局面に合わせた武器交換も必要になってくるでしょう。



「本当は自力で神経系の強化が出来ればいいんだけどね」


「やり方は教わったけど全然出来る気がしない」



 同じ魔法でも魔剣を介さずに自力で使えば消費魔力は抑えられます。

 ですが、同じ身体強化であっても、筋力や耐久力を上げるだけの単純な魔法に比べ、神経系の強化は非常にデリケートで習得難度が高いのです。

 剣を加工したレンリ自身も直接ヒトを対象とした魔法使用は出来ませんし、強化魔法に天性の才能を持つルカでさえも感覚機能に関する強化は出来ていません。


 魔法技術は便利ですが、一見万能にすら思えても、その実は様々な制限と表裏一体。

 世の中、美味いだけの話など早々あるものではないのです。



「ま、何事も地道な努力が大事ってことだな」


「だね」


 

 つまりは、そういうことなのでしょう。



◆この魔剣の効果は「短時間のゾーン状態付与」でした。これもしばらく使ったら改良するか、どんどん別の武器に切り替えると思います。強力な武器を長く使う作品が多いなろう系ファンタジーだと、武器を消耗品や試作品と割り切ってどんどん変えていくのは珍しい部類かもしれませんね。

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