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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
三章『境界調律迷宮』

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裏技の弊害


 人を惑わすべく造られた複雑怪奇な迷宮も、直線的に壁を掘り抜かれてしまっては本来の役目を果たせるはずがありません。



「はははははーっ! いいぞルカ君、その調子だ!」


「うん……が、がんばる……えいっ!」



 普段は控えめな性格のルカですが、どうやら友達の役に立てるのが嬉しいらしく、ドッカンドッカンと盛大に迷宮を破壊していました。


 これが鉱山の採掘現場であれば、とっくのとうに崩落事故を起こしているであろう大雑把な掘り方ですが、この迷宮は上下の概念が曖昧な為か壊れた破片も落ちたその場からほとんど動きません。壊れた壁材に生き埋めになる心配はしなくても大丈夫なようです。


 それに壁のブロックが発光しているのでいくら掘り進んでも暗くなりませんし、空気の循環があって窒息する心配もありません。迷宮の大半は無機質なブロックですが、時折ブロックの隙間から植物が生えており、それらが酸素供給の役割を果たしているのでしょう。

 植物の種類はちょっとした蔦や雑草から果樹の大木まで色々です。

 土が無いのにどうやって植物が育っているのかとか、日の当たらない密閉空間であるこの迷宮でどうやって数を増やしているかなど不可解な点もありますが、恐らくは魔物と同じで空間に満ちる魔力を直接栄養源に変換しているのでしょう。



 そんなこんなで迷宮内を強引に直進すること一時間ほど。



「ふぅ……ちょっと疲れた……」


「お疲れさん」


「ルカ君のおかげで随分進めたね」



 三人は迷宮表層から早くも1km以上も進んでいました。

 現在は見通しの利く大部屋で小休止中です。

 攻略初日の本日は元々様子見だけのつもりで日帰りの予定でしたが、この裏技による攻略を何日か続ければ迷宮の深層にまで早々に至れることでしょう。


 しかし、この裏技には難点があるのも事実。

 一つは、壊す壁の反対側に別の探索者グループなどがいた場合、壁の破壊に巻き込む事故が起こりかねない点。

 決して可能性が高いとは言えませんが、今彼らがいるような迷宮の浅い部分には少なくない数の探索者がいるはずです。事故の可能性を考えれば、何かしらの対策は必要でした。

 この技を伝授したライムは気配や魔力で壁の奥に人がいるかを感じ取って判断していたようですが、今のレンリ達ではそんな判断はできません。

 従って、壁を掘る時にまずは小さな穴を開けて反対側に人がいないことを目視確認し、それから人が通り抜けられるような大きな穴を開けることで事故の対策をしていました。手間がかかる分掘削スピードは落ちますが、安全のためには仕方がありません。

 迷宮内での犯罪行為禁止のルールはこの第二迷宮でも生きていて、下手に他者を傷付けるようなことがあれば、迷宮からの介入もあり得るのです。悪意をもって攻撃したのでなければ問答無用で叩きのめされたりはしないでしょうが、用心するに越したことはないでしょう。



 そして、もう一つの裏技の問題。

 それは、必然的に大きな音が響き、とても目立つという点です。



「二人とも魔物だ! デカいカエルみたいなヤツが来たぞ」



 休憩中も周囲の警戒をしていたルグが、巨大なカエル型の魔物の接近に気が付きました。いつの間にやら部屋の反対側、三人から見たら天井に位置する部分を足場に立っています。


 この魔物、舌鞭蛙【タンウィップ・フロッグ】の外見は体長1.5mほどの巨大ヒキガエル。第二迷宮の表層近くに数多く生息しており、三人が事前に仕入れた情報にも載っていました。

 長い舌を鞭のように伸ばす攻撃は安物の鎧なら一撃で凹ませる威力があり、強靭な脚力を活かしたジャンプ攻撃も要注意。



「あのカエルは毒を持っていないはずだ。ルカ、投石で牽制頼む。隙が出来たら俺が切り込む」


「うん……りょ、了解……!」



 ですが、舌鞭蛙はカエル系の魔物で厄介な毒は持っていないので、落ち着いて戦えば比較的与し易い相手と言えるでしょう。

 ルカが投石用の弾として使えそうな壁の破片も周囲にいくらでもありますし、投石が外れてもレンリの詠唱魔法があります。そのいずれかが当たって倒せればそれでよし、遠距離攻撃で致命傷を与えられずとも生まれた隙にルグが切り込めば楽に倒せるはずです。



「ルカ君、その投石待った!」



 しかし、レンリがルカの行動に「待った」をかけました。



「え……な、なんで?」


「何故って、決まってるだろう。カエルは美味い。ルカ君の投石だと威力がありすぎて肉が潰れてしまうからね」



 カエル肉はゲテモノ扱いされることも少なくありませんが、元の外見に反して上品な旨味の美味い肉で、一流の料理店で提供されることもあるほどです。

 しかも、今回のカエルに関しては毒の心配は無用。

 それに、普通の何十倍もありそうな魔物のカエルであれば、随分と食いでがありそうです。



「というワケでルー君。ちょっと一人でアレを倒してきたまえ。後脚が特に美味いと聞くからなるべく傷付けないようにね」


「はいはい」



 そんなワケで、可食部を無事に残しつつ倒すべく、ルグが一人で魔物と戦うことになりました。



「まあ、そろそろ剣の試し斬りもしたかったからいいけどさ」



 ルグが近付くと巨大カエルも警戒を顕わにし、長い舌を伸ばして攻撃してきます。


 しかし、ルグはそれを紙一重で見切って回避。

 更に悠々と歩きながら、二度三度と最小限の動きだけで舌を避けていました。外れた舌は背後のブロックを粉砕するほどの威力がありましたが、当たらなければ意味は無し。まるで危なげがありません。


 以前のルグでも足の速さを活かしての回避は出来たでしょうが、現在の彼はただ歩いているだけ。しかし見切りと先読みによって無駄なくゆったりと余裕をもって攻撃をかわしています。一度や二度であればマグレや偶然ということもあるかもしれませんが、五回十回と重なればそれはもはや必然。

 そのままテクテク歩いて魔物に近付き、トンっと軽く脳天を二つに割ると、カエルはピクピク痙攣しながらその場に倒れ伏しました。

 如何に生命力の強い魔物といえど、これでは絶命は免れません。

 レンリの要望通り、無駄に肉を傷付けない最小限のダメージを与えて倒せたようです。




 それにしても、今の戦闘は武芸を極めた達人のような一方的な展開でした。



「ふぅ、やっぱり魔剣って凄いな」



 しかし、残念ながらルグが劇的な急成長を遂げたわけではありません。

 今の戦闘にはタネも仕掛けもあったのです。



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