お出かけ前の一悶着
今日は短めです
『えぇー、もう出かけちゃうの!?』
「うん、やっと風邪も治ったしね」
ようやく体調も回復し、数日かけて必要な準備も済ませたレンリは、しかし出発の直前でウルに引き止められていました。
『迷宮なんかより、美味しい物食べたり一緒にお外で遊んだりするほうが楽しいのよ?』
「なんか、って。キミがそれを言うかい」
『だってだって、一人だとつまんないの! それに、お姉さんがいなかったら、いったい誰が我にお菓子をご馳走してくれるの? もっと、「すぽんさー」としての自覚を持って欲しいのよ』
幾つか問題発言がありましたがそれはさておき、要はレンリが留守にすると遊び相手がいなくて退屈だと主張しました。家主のマールス氏や弟子のアルマ女史も最近は外出していることが多いので、レンリまで出かけると広いお屋敷にウル一人になってしまいます。
「そもそも、迷宮がキミの家みたいなものだろう。帰らなくて神様に叱られたりしないの?」
『あ、それは問題ないの。お仕事なら他の我がちゃんとやってるし』
現在レンリのベッドの上でゴロゴロ転がっているウルは、あくまでも無数にいる化身の一体。彼女一人がいなくとも、他の化身やそれを統括する本体がいれば、迷宮の管理に支障はありません。
『街で遊ぶのは楽しいし、人が作る食べ物も美味しいの。面倒臭いお仕事は他の我に任せて、この我はもうずっと好きなことだけして暮らすべきだと思うのよ。テキザイテキショってヤツね!』
迷宮の管理者としての使命感など綺麗さっぱり忘れ、もう完全に堕落しきっていました。恐らくはずっと近くにいた誰かさんの影響でしょうか。
本質的には同一存在であっても、化身の人格は各個体ごとに差異があります。そして、その精神性はその時々の外観に引っ張られる傾向があるようです。
狼やゴリラや鳥などの動物型であれば人格や個性が薄く、ただ淡々と役割を果たすような気質に。このヒトの子供姿のウルは特に多感かつ純粋なために、他者の言動に強く影響されやすくなるのでしょう。
『だから、ね? お出かけは今度にして我と遊びましょ』
「いや、でも二人と待ち合わせしてるしな……ほら、オヤツ代ならあげるから、今日のところは一人で遊んできなさい」
『わーい、お小遣いもらったの! いってきまーす!』
対応に困ったレンリがお小遣いを渡すと、ウルはレンリを引き止めようとしていたことなど一瞬で忘れ、元気よく走って屋敷から出て行ってしまいました。
早速、もらったお金でお菓子でも買いに行ったのでしょう。
もう、どこからどう見ても単なるアホなお子様でしかありませんでした。
◆今回は設定のおさらい的なお話でした。